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アメリカの大都会の一つがシカゴだ。 通訳業務で、四季折々、35年の間に何度も訪れた。
高層ビルが、ミシガン湖に面して、延々と続く町だ。 ミシガン大通りを渡ると、ミシガン湖が目の前に展開する。 ミシガン大通りのど真ん中の湖側に、あの有名なシカゴ美術館が目立つ。
「風の町」と渾名が付いているシカゴ。 米国全体が、移民で巨大化していったが、 シカゴも、全世界から、移民が吹き寄せられた、大都会なのだ。
シカゴには、他の大都会同様、コンベンションセンターがある。 見本市が大々的に開催されたり、 世界大会が開催される場所でもある。
広大なコンベンション センター内を、会議の前日か、当日の早朝、ひたすら歩き回り、自分に割り振られた仕事部屋を、確認しておく。
エレベーター、エスカレーターの位置も確認、本会場と分科会の部屋の位置関係も、確認する必要がある。 とにかく、だだっ広くて、慣れないと迷子になりかねない。
仕事が終わると、頭を使い過ぎた疲れを癒すため、わたしはやたらと訪問地を歩き回る。
シカゴには、少し古びた高架鉄道があり、とても便利な上、 シカゴに住む住民を、一挙に観察できる場所でもある。
高架鉄道は、大都会シカゴと、郊外を繋ぐ公共交通機関で、大勢の人々が常に利用している。
昼間は流石に、車内ががらんとしていて、座れるが、 通勤ラッシュ時間帯は、満員電車に早変わり、立ち詰めで、帰宅する場合がほとんどだ。
ミシガン大通りを、ミシガン湖を左手に歩く事、25分ほどで、科学博物館に到着する。
仕事の都合により、踵を返して、また、会場に急ぎ足で戻る場合もあるが、 運良く午後の部がない場合、「折角来たのだから」と、入場料を払い、科学博物館内を、ゆっくり見て回った時もあった。
中に入り、私は「科学とは何と恐ろしい事象なのだ」と、度胆を抜かれた。
何故かと言うと、科学の為とは言え、ミイラになった本物の人間の縦割りが、展示してあったのだ。 横割りもあった。
妊娠女性の子宮も、本物が壁に整然と並んでいた。 科学的に、受胎後一週間目の子宮、三週間目、1ヶ月後、4ヶ月後、7ヶ月後、出産間近の赤ちゃんの姿がはっきりわかる時期まで、全て展示されていた。
思わず、「どのようにして、このような展示物を、蒐集したのだろう。」と疑問に思った。
米国では、「人間の生命がいつから始まったのか」と言う、議論が絶えない。 避妊賛成派、反対派の理論根拠にも使われるのだ。
じっくり、壁伝いに並んでいる展示物を凝視して、本当に、少しづつ、赤ちゃんらしい形状が作られて行くので、「どこから人間様と呼ぶべきか」は、難しい問題だと考え込んでしまった。
大きな模型の心臓もありました。 実際に、大人でも、心臓の左心房、右心房と歩いて巡れる規模の心臓で、 御丁寧に心臓の音まで聞こえる仕組みになっていた。
心臓と動脈の繋がりも体感できる。 科学的人間を育てる場所としてうってつけだ。
宮城県立三女高の物理の授業が、1960年とはいえ、学校の宿直室を間借りして、授業を受けた私としては、日米両国間の科学に対する取り組み方の違いに、ぐうの音も出なかった。


