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21世紀に入り、スイスのジュネーヴで世界の銀行頭取、世銀、IMFなどの要人が集まる会議で、通訳として働いた。 報道関係者を入れない、仲間内だけの機密会議だった。
この会議は、もう十年以上受け持っていた国際会議で、毎年世界の別の場所で開催されるので、付録として、世界旅行も楽しめた。
世界の大々的金融のうねりを感じるような会議で、 大御所的に世界全体を、見ている人々もいる事を強く感じた。
仕事の最終日、米国から娘が休日を利用して飛んできた。 折角、ヨーロッパに出張で来たので、 直行で帰国は勿体無い。 ちょいと豪華に、母娘のヨーロッパ旅行を実現させた。
その頃は、既にインターネット全盛時代、娘はスイスアルプスを走る、電車の最前席を予約しておいてくれた。
仕事が無事終わった開放感もあり、アルプスの山々を縫うように走る電車の窓、天窓 両者から外の景色を楽しんだ。
特に圧巻だったのは、電車を降りて、アルプスの雪解け水が、怒涛の如く流れ落ちる光景だった。 しばらくは、全てを忘れて、見惚れてしまった. しかも、その場で生命力を漲らせてもらうような気分に浸った。
ジュネーヴでは、娘がニューヨーク市に住んでいた頃、個人レッスンでバイオリンを教えていた生徒さんの母親が、丁度ジュネーヴに帰っていた。
その方は、有名なヨーロッパの古くからの貴族である、ハップスブルグ家に関係がある方だ。 その貴族の自宅を訪問、その後、イタリア旅行も楽しんだ。
イタリアの町で、野外で開かれたオペラを観賞後、 ベニスに行き、娘がインターネットで個人宅を数日借り切る予約もしていたので、ちょっと、ベニスに住んでいるような気分も味わった。
話は飛ぶが、 FBIの調査官達と、米国進出日本企業の、おとり捜査がおかなわれたことがあった。
レインコートを着込み、 一端のFBI 調査官になったような気分で 本物の調査官の指示通り動いた。
企業の建物の入り口全てに、調査官が到着した段階で、一斉捜査が開始され、 あの有名な言い回しである「freeze」(そこを動くな)と言う、言葉がこだました。
事務所内の日本人職員は、 その場に釘付け。書類、パソコンなど、多くの事務関連物資が箱詰めされ、FBI職員が重そうに外へ運び出した。
また、別件で年も違うが、 イラン系アメリカ人と通訳業務で、数州回る事になり、 私にとっては初めて、背広に身を包んだ、イスラム教徒の企業人と話をした。
彼はイラン生まれであったが、長年レバノンで仕事をし、最終的にアメリカに移住したそうだ。 役職付きの偉い彼であるが、全行程運転も受け持ってくれた。
中近東の問題は根が深い。 わたしは日本生まれで、たまたま英語を学んだが、 回教徒の事も、イランの歴史も何にも知らない無知人間だった。
彼は全行程中、 中近東問題、回教徒の文化などに関して、私を親切に教育してくれた、有り難い師匠だった。
中近東料理専門のレストランに、案内していただいた。 丸型の低めの椅子に座った。中近東風御盆のようなお皿に、美味しそうな食べ物が盛り沢山並び、彼は右手で摘んで食べ始めた。わたしも真似をした。
そうそう、IBM社のセールスマンで好成績を上げた人々を世界から招待、地中海豪華客船の旅が行われた。
大型客船の中の地下室にある大会場で、 ヨーロッパの歴史、IBM社の昨年と、2年前の業績比較などの講演会があり、そこで通訳業務に携わった。
セイルスマンに対する、御褒美の旅であるが、夜2時間ほど講演会も開く事で、研修会として、特別税額控除が受けられるらしい。
観光だけに徹すると、そのような控除は受けられないようだ。 そのような税法のお陰で、 通訳として、 スペインのバルセロナに飛んだ。 バルセロナは大都会であり、港町だけに観光地でもある。大通りは人で賑わっていた。
無料で座れる椅子やベンチが、無いのだけは残念だった。 「疲れたら、コヒーショップか、レストランへお入りください」と言う、趣旨なのだろう。
IBMの優秀社員は、短い3泊4日だけの参加だ。その研修が終了後、本人次第で、ヨーロッパの他の観光地を回る場合もある。 御夫婦での招待だ。 奥様への良いサービスの機会でもあるのだ。
フランスのマルセーユで降りる社員、またそこから乗船する優良社員。イタリアのローマから乗船する人など。
運の良い事に、通訳は12泊13日、全行程参加できた。 豪華客船は毎日、ローマ、バルセロナ、マルセーユなどに寄港する。会社側はその土地のガイドをやっとていて、 主な観光地を案内してくれた。
例えば、ローマに上陸、法王庁のバチカン見学を楽しんだ。 同僚の韓国人通訳は、その日暖かい日であった関係もあり、袖なしブラウスに短いショート姿であった。
法王庁内見学の時、入り口で 彼女は守衛に止められてしまった。「法王庁内に入るには相応しくない服装。」との事。
泣きべそをかきそうになって、彼女一人取り残されたが、 しばらくすると、いつのまにか彼女は我々と合流、にっこり笑った。
「貧しき者にこそ、天国への道が開かれている」との、キリストの教え。
生まれて初めて、バチカン内を歩き回り、金銀豪華な、内装に心底びっくりした。 表面の教えと内情の矛盾、長いようで短い人生で学ぶ事は、まだまだ山積みだろう。
同僚のイタリア人通訳はとても親切で、 午後の空き時間をうまく利用して、ローマの主要な観光地を案内してくれた。
ローマ在住のその通訳は、 ローマの市バスを上手く利用して、適切な所で降りた。本来は乗車料金を払うはずだと思うが、 彼女はさっさとバスから降りたり乗ったり、私達は結果的に一銭も払わなかった。
払い方が分からなかったし、 イタリア人通訳が、 「早く、早く」と急かすので、ただ乗りしてしまった。