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個人的な興味関心から神聖ローマ帝国皇帝フリードリヒ2世に関するものを読んでます

Image by Olia Gozha

個人的な興味関心から神聖ローマ帝国皇帝フリードリヒ2世に関するものを読んでます。この男、当時から現代に至るまで頗る評判が悪い。彼の悪評の原因を挙げるとこんな感じ。

・ローマ法王から数度に渡って破門された。

・十字軍を率いながらも闘わず引き返した。

・13人の女性との間に20人の子を持った。

その他にもいろいろあって、この男、とことん素行が悪い。しかし、僕はこの男が成したこの事だけは文句なしで素晴らしいと思っている。

・自ら率いた第6次十字軍で外交交渉のみでエルサレムを奪還した。

ただし、異教徒と戦うことなく引き返したということで、当時のローマ法王からはずいぶん詰問されたようだ。しかし、これまで4回に渡る血で血を洗う闘いを通しても手に入れられなかった聖都を一人も殺すことなく、かつ一兵も失うことなく手に入れたということは、もっと評価されてよいと思っている。

なぜこんな離れ業をやってのけることができたのか?

まずこの男、神聖ローマ皇帝でありながら、シチリア生まれ、シチリア育ちである。アフリカから至近の島であるシチリアには当事、多くのアラブ人が生活しており、彼の家庭教師の中にはイスラム教徒もいたという。キリスト教世界とイスラム世界が接触するシチリアの地で、この男は今風に言えば、複言語・複文化の英才教育を受けた。彼はイタリア語、ラテン語、ドイツ語、フランス語、そしてアラビア語を縦横に操ったという。

シチリアの明るく、自由な空気の中で成長した男は苦労しながらも、既成の宗教や習慣に全く囚われることがなく、当時のローマ法王をして「倫理が欠如している」と嘆かせるほどだったという。有益だと思われる妥協であれば、誰とでも手を組む、反対に裏切る。ただし、信頼に足ると判断した者であれば、異教徒であっても評価する。

外交によるエルサレム奪還の話は長いので省くが、この経過が本当に面白い。まずは、交渉はアラビア語を操り自ら行う。しかし、単なる平和主義者ではなく、時には武力を背景とした圧迫も辞さない。それでいて、当時のスルタンからの使者であっても気に入った人物は騎士に叙して手元に置こうとする。支離滅裂でめちゃくちゃな行動に思えるのだが、このようなやり取りの末に、エルサレム無血奪還を成し遂げるのである。

そして、エルサレム入城を果たした際のエピソードがまた面白い。奪還果たしたエルサレムに残されたモスクからコーランの祈りの声が聞こえないことを不振に思ったフリードリヒが、イスラム教徒にこのことを尋ねると、こんな答えが帰ってきたのだという。

「キリスト教界の王がエルサレム滞在中は、モスクからのコーランの詠唱を自粛しております。」と

それを聞いたフリードリヒは破顔して、こう返したという。

「それではスルタンをエルサレムを招いた時に教会の鐘を鳴らせなくなるではないか。」

翌日、エルサレム市中を配下を引き連れて歩くフリードリヒの頭上にモスクからコーランの詠唱が鳴り響く。すると、配下の少なくない数の男たちが歩みを止めて地に伏し、祈り始めた。そんなことを気にすることなくフリードリヒは祈りを捧げる男たちを置き去りして、さっさと歩き去ったという。

エルサレムの人々はキリスト教界の王の配下に多くの異教徒がいることに驚きを隠せなかったという。

幼少の頃から、多くの言語・文化に触れて成長したこの男にとっては、言語も宗教も大した問題にはならなかったのだろう。

結局は人しかいない。

簡単そうに見えて実は難しいことを、さらっとやってのけた人生であったのではないか。

約800年後に生きる私たちはこの男ほどに自由で、そして成熟していると言えるだろうか。大きく動く社会、日本語教育、そして多文化共生を考える上では、この男の突き抜けた生き様を知ることも無益なことではないだろう、思う。

そして、譲るところは譲り、為すべき事は為すという狡猾さについても、大いに学んでいきたい。

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