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もう春は目の前である

Image by Olia Gozha

駅の改札口のところで、2歳か3歳くらいの小さな男の子が足を踏み鳴らしながら、駄々をこねている。

「よっちゃん、ちゅかれちゃったの。ねむいの、おなかすいたの、あんよがいたいの、もうあるけないの、あるいたら、あんよがとれちゃうの~」

つまり、抱っこせよとせがんでいるご様子。人目が多い駅でのよっちゃんのご乱心に困り果てたママは、仕方ないとばかりに声をかける。

「じゃあ、電車に乗るまでだよ。電車に乗ったら、座れなくても立ってるんだよ。わかった?」

よっちゃんは、両手を上げて抱きかかえてもらおうと、ママにしがみつき、ご所望通り、ママの抱っこをゲットした。

ママの肩越しによっちゃんのご満悦な笑顔が現れ、してやったりと細めた目が、駅の階段を下りる僕のすぐ前に現れた。

『うまくやったのう、よっちゃん』

と、心の中で声をかけ、フィリピンで鍛えた片眉上げで、よっちゃんの勝利の抱っこを祝福すると、よっちゃんも再びの満面の笑顔で応えてくれた。

『「あざとかわいい」とは、こういことさ』

って、よっちゃんが言ってるような気がしたけど、気のせいか。

よっちゃんに幸あれ。

もう春は目の前である。

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