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最愛のビッチな妻が死んだ 第45章

Image by Olia Gozha

 ひどい目眩に襲われて、現実世界と僕を結ぶのはキッチンの冷たい触感とシャブだけだ。

 刺青が完成した今、思い遺すことはあげはのお墓を立てることぐらい。それまで生き長らえればそれでいい。現実と構想の狭間でユラユラしてるだけの僕に存在価値は特にない。ODのし過ぎて吐きそうになる気持ちを、さらにドラッグでコーティングして24時間生きてるのがやっとだ。

 左腕から胸にかけたピンクの龍の刺青、本当はベロにピアスを2つ付けたかった。もちろん、意味はあげはの代わり。第一次目標であった刺青の完成とあげはが抱えていた裁判の結着は付けた。捧げる身体は創り終わった。あとはお渡しするだけ。天国からクーリングオフされても僕は知らない。僕なりにやるべきことは終わった。何か僕を縛っていたものが音を立てずに、ほどけた感じ。血を吐いたあぶくの様に。

 朝、気分の悪いもの。昼、浅い目でシャブを入れる。夕方、軽い死ぬ準備。夜、死にたくなるから早く眠る。

 病気が職場にバレ、クビになった。まあ、そういうもんだ。キチガイは社会において意味をなさない。もっと早くにカネを持っているパトロンを捕まえておくべきだった。社会と僕との接点は就活ぐらいだ。設定を間違えた。ハードモード過ぎだぜ。身銭を切って買ったシャブでマガイモノ掴まされるぐらいグッタリする。お前も裏切るのかよ。自分で自分の意思を呪う。ここで尊重する。

「仕方ない」、その言葉を何度飲み込んだことか。黒く染み込んだ試験管、突っ込んだストロー、まだトベるはず。愛情はない。愛情だけがない。双極性障害ではない自分を慈しみ、憎む。ただただ、鬱な世界が足元から広がっている。ただただ、不自由な妻との思い出が懐かしい。そこに愛情はあったはず。

 時間という制約の中で自分たちは遠くまで、日常の中でトベた。今とは違い、ドラッグがなくても幸せの過程はできた。今はクスリをやっても不幸なだけだ。細い試験管の底にこびり付いた黒ずみの分だけ、思う存分身体を痛め付けてる。時間の制約は今はただ、不自由な精神を叩く。どこにトベと言うのか…。エチゾラムとシャブが足りない。

 あげはのいない日常は退屈でしかない。もうすぐ3年。1000日。8760時間、孤独を弄んだ。使ったアイス、依然としてターゲットは捕まらない。あと、そんなに長くない人生を省みる。時間のムダだ。残りの、祭の後のような余生を感じ入る。本当に時間のムダ。舌の上に残った苦味だけが今の僕の真実だ。付かないターボライターにイライラしてるなら、コンビニに怪しまれてもライターを買いだめしとくべきだった。シャブ中。もっともバカバカしい。墜ちるだけのドラッグにハマって、何ひとつ楽しくない。
 この3年間、ごはんは食べてない。食べてもすべて、吐いてしまうので最初から食べない。吐くと身体が冷える。首の後ろから、聞こえない音楽が聞こえる。末期だな。底はさらに墜ちる。割れた底はすぐそこだ。今が最悪だとは思わない。まだまだ墜ちるだろう。楽しみにしてる。また会ったなと絶望との再会を喜べるぐらい慣れている。

 このノートから変わった出逢いもあったが、相手を不幸にしてしまいそうで怖い。人を手放しで好きになれない。騙している感が否めない。人に嫌われるのが怖いから、自分を殺してしまう。まともな人は僕に近寄らないとは思うけど、まともじゃない人だからこそ、慎重に近づいていきたい。星の王子様のキツネのように慎重に。何かをしたい、欲がなくなったな。人として終わってるよ。

 

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