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引きこもり、禅寺にこもる

Image by Olia Gozha

-アフターコロナ- 自分の部屋という以外の選択肢を考える

100万人。


日本の引きこもりの数は100万人を超えている。


ドバイの人口ぐらいある。もし日本の石油資源が豊富で金銭的に豊かであれば生まれない数字であったのだろうか?


まあそんな空論はさておき。


引きこもりじゃない人も、少子高齢化で働き手が段々と少なくなっている上にその100万人の引きこもりは長期化している。これは他人事ではない。8050問題は深刻だ。ある突然体調を壊したり、人間関係が嫌になったりしてニートや引きこもりになる可能性だってある。コロナで職を失っている若者もたくさんいる。


やる気のあるうちは良い。問題は努力が何度も無駄になったり、自分でコントロールできない何かに何度も打ちのめされるうちに無力感に苛まれ、意欲や未来を失うことだってあるのだから。


僕は10代の間、引きこもりだった。生まれ育った場所にも関わらず地域に馴染めない。人に騙されたり、毒親やブラックバイト、医療ハラスメントにもあい。普通の社会生活は自分には合わないと悟った。決して就職用の履歴書には書かないような経験もしてきた。


引きこもり、ニートや人が苦手、めんどくさい人間関係をしなくてよい仕事や生きる方法を模索した。会社に入る経歴としては役に立たないが、引きこもりやニート、めんどくさい人間関係が嫌だという人が選択肢を考えるときに僕の経験はもしかしたら役には立つかもしれない。


唐突な話だがお寺での生活ってどんなものだろうと考えたことはあるだろうか?


(私引きこもりで)(ニートです)(もう働きたくない)(こんな社会はイヤ!)(どうやって生きていけばいいんだろう?)


そうだ出家してお寺に入ればいい!


とそれは極端な話かもしれないが、たが一つの選択肢としてお寺や仏の道に入るのも、もしかしたらアリなのかもしれない。アフターコロナの選択肢。宗教は税金も優遇されているしね(愚痴)


「いや、きっとお寺での生活大変なんじゃ?」「厳しい修行しなきゃいけないんでしょ?」


僕は瞑想を10年以上やっている。22、3歳ぐらいのときに禅寺に1週間だけだが滞在したことがある。


一度お寺で禅を組んでみたいという思いと、引きこもりからようやく抜け出して通い始めた専門学校を休学してしまったから、京都の禅寺に行くことを思い付いた。休学したのもメンタルの問題が解決しきれていないからだった。(なぜ、自分の人生がこうも上手くいかないのか知りたい)


念の為、言っておくと特に僕は宗教心があるわけでもなく、どちらかというと信心は薄い方で神がいるとかいないとか、信じる信じないはあまり重要だと思っていない。まあ時と場合によって変わるかもしれない。


カーテンを締め切った薄暗い新宿のアパートでネットで調べていると京都に一つのお寺を見つけた。


「おっ、ここ良さそう」


宝泉寺というお寺だった。


http://www.zazen.or.jp/


*あくまでこれは僕の経験談だ。禅寺に興味あるなら全国にあるから、行く前によく調べてほしい。



さっそくメールをして、自分の現状なども書いたような気がする。


行く日を決めて新幹線のチケットも予約し数日後には京都へ向かっていた。


京都駅に着くとスラットした女性駅員が何人か列になって歩いていた。京都は駅員も華やかなのだろうか。


それから馬堀駅という場所に向かった。当時は笹塚と幡ヶ谷中間ぐらいに住んでいて安アパートの薄暗い部屋と新宿の喧騒から久しぶりに離れると清々しい空気を吸い込んだ。スマホで地図を確認しながら15分ぐらい歩いた先にお寺が見えた。


石段を登り門を潜ると同じ日に入るであろう2人の女性がいた。


中に通されると奥からお坊さんと若い男の子(小坊主?)が出てきて、一通り(宿泊やルールなど)を瞑想の仕方を教えてくれた。


住職さんの後に小坊主、お子さんかなと始めは思ったが10代の中学生ぐらいに見える少年、彼がご飯茶碗とお汁のお椀と箸、それらを一つに包む布巾を渡し、食事作法も教えてもらった。


座禅中と食事中は一切音を立てないのがルールなのだ。


音を立てないためにゆっくりと噛んで食べ、食事の最後にお湯をお椀に注いで沢庵か漬物で綺麗に拭いてお湯を飲み干して食べる。箸の置き方で音を立てないコツまで教わった。


食事は肉を使用しない薬膳料理とも言うべきが、宿泊中にカレーも出たがそれにも肉は一切入っていなかった。味は美味しかった。


食器は基本洗わない。なるべく水を使わないためだ。完全なるミニマル生活。エセミニマリストはたくさんいるが、仏教こそミニマリストなのかもしれない。


少年はテキパキと説明してくれ、年齢の割になんとも賢そうだった。


実家のばあちゃんを思い出す。ウチのばあちゃんは食事が終わるとお湯をくれと言って、湯呑ではなく食べ終わったお茶碗に入れていつも飲んでいた。


「なんか汚ならしいから、コップで飲みなよ」


とよく言っていたが、もしかしたらウチのばあさんには禅の心得があったのかも…


禅寺のスケジュール内では男女は別だが寝起きは同じ禅堂内でする。


僕が行ったときは数ヶ月に一度の「接心」と呼ばれる時期で、1日集中的に座禅を組むという、普段よりもちょっと厳しい雰囲気の期間だった。1日のほとんどが私語厳禁だ。


「運がいいね」と皮肉混じりに言われた。なんせ僕はラッキーボーイだから。

 

ちなみにお布施(費用はこれくらいだ)何年か前のことなので、包んだ金額は忘れたが、現在はこうなっている。


費用(御布施)

・3泊4日 1万円

・4泊以上 3千円×泊数


また土日だけであったり、長期「常住(じょうじゅう)」と言って3ヶ月以上の修行もあり、この長期になるとお布施が不要になる。1年いれば内弟子。


詳しい内容に興味のある方はHPで確認できる。


修行スケジュール - 宝泉寺禅センター

www.zazen.or.jp


そう、引きこもりの皆さん、朗報です。お寺で衣食住整った生活ができますよ。タダで。


短期間の修行はお布施が必要になるが、この道に入ることで基本的な生活費などが掛からなくなる。


(がめつい言い方でお寺の方、すみません…)


僕はお布施用の包みを購入して行ったが渡した時に返されたのでそれは不要だと思う。


同じ日に来た女性2人は神社仏閣好きだと言う女子大生と離婚して訪れたという30前後の女性。


自己紹介や座禅を通しての目標なんかも皆んなで共有したりした。


「渋谷から来ました」


「渋谷!?」


僕の出身は東北の田舎だが、当時は新宿駅に近い渋谷区に住んでいた。


「シティボーイすね」


どっちもなぜかたまに言われるがラッキーボーイでシティボーイはなんだかややこしい。いや、シティボーイですらない。


禅を組みに来た人のほとんどが京都内か近隣の関西人だったので珍しがられたが中には中国から来た女子大生もいた。


他には不登校の学生だったり、仕事を退職したことで第二の人生に悩むおじさん。社会性なんちゃら病とか医者に言われて薬を飲んでいると語る男の子。


そんな病気はないし、飲んでる薬もちらっと見たがただの漢方薬だった。


まあ医者はそれで金が入るのだが。


スケジュール通りに動く中でもし大変だとしたら、朝の早起きくらいだろう。僕は調子が良い時は朝方に移行したことがあるが基本的に朝は苦手だ。この世の終わりと言っていいくらい朝は気分が悪い。


毎朝、起きて出社して働いて生きていくということを考えただけで自分には全てが不可能に思えて自信を失くしていた。


そんな僕でさえ、なんとか乗り越えているので他の人はきっと大丈夫だろう。


起床は5時過ぎ、まず布団を綺麗に畳む(朝のベッドメイキングは科学的にもメンタルに良い)僕でさえ、朝早くからこの世の終わりを迎えて、世界を呪うが徐々に薄れ始めて、朝の体操に従順に向かう。それが終わると経を唱えて食事だ。


それから禅を組む。禅の間はお香が焚かれていて風向きによっては咽せそうになったりすることもあった。


木製の警策(きょうさく)と呼ばれる棒を持った人が目の前を歩いて来て、雑念がある人、または自分から頭を下げれば肩を叩いてもらい、喝を入れてもらう。


空き時間が結構あり僕の場合、電鉄でも見に行こうと思ったが生憎嵐が来ていて、天気も悪く一人で観光は正直、そこまで面白くないので行かなかった。引きこもりなんでね。


図書館があり英訳のある仏典を借りてきて読むことにした。僕にとってはかなり興味深い内容でもあった。


物語を元に内面世界の解釈がされてあった。ユング派の心理学にも通じるところがある。


僕は瞑想を始めてから、何かイメージが湧いたらたまにメモなんかをしていた。変わった夢を見たら自分で分析なんかもする。


ある日、僕が瞑想を通して垣間見たイメージがある。


冠を被った白い龍が闇深くに浮かび、とぐろを巻いてこちらを見上げている姿だ。


その時は意味がわからなかったが、メモはパソコンに残してある。


仏典の一節にこんな文章を見つけてそれを思い出した。


「龍はそのままに」


記憶を元にしているから正確な記述ではないが、意味はこうだ。


”悟り開きし時、深く自分の中に潜っていくと様々なものが見えてくる。最後に龍(悟り)を見つけるがそれはそのままにしておきなさい”


悟りを開いた者の行動は以前と何も変わらないという話しがある。


うーん、どうだろう。それが自分の見た龍ならば既に僕は悟りを開いていることになるが、何とも言い難い。


なぜなら心象世界を深く追及したとしても雲を掴むのと一緒だからだ。


僕は仏典を1週間の滞在の間に7、8割くらいまで読んだ。抽象的なものの解釈は面白いし、色んな疑問も明らかにすることができた。


後半は接心の時期に入り、1日を通して座禅を組んだ。希望者は夜になっても就寝前まで中庭の池を前に座禅をする。


画像2


神社仏閣好きの女子大生が真っ先に手を上げたので僕も負けずと希望をして、無数の蚊に刺されるのに耐えながら最後の禅を組んだ。


短い期間というのもあり、僕は一度も警策で叩かれることがなかったので最終日に記念にと思い、肩を出し叩いてもらうことにした。


バチン!


(痛ったぁ〜)


予想の倍、痛かった。しなりのある板のようなイメージでいたが、ほとんど角材だ。重みのある一撃。


これで修行を終えて、僕は東京に戻ることにした。仏閣好きの女子大生とは滞在中喋ることがあったので、彼女はもう少し滞在するからと言い、連絡先を教えてくださいと訊かれた。


僕は人見知りと社交性のある矛盾した性格をしているからこういことはある。極端に人が苦手になることがあるので一切誰とも連絡をしなくなることもあるから、女性関係に至っては仮に好意を抱かれたとして、先に進まないので恋愛経験が少ない。


社交辞令で連絡先を交換して(あのときの女子大生ごめんなさい)


それから京都駅へ戻った。さすがに京都に来たのに寺にこもっていただけなのはもったいないかなと思い、京都駅周辺から行けるお寺を見学した(建て替え作業中だった。ラッキーボーイ再び……)


帰りの新幹線に乗り込んで東京へと戻った。


結局のところ、禅をしたことで明確な答えというものがパッと内から出てくるというものではないと思う。


しかし禅やマインドフルネス、瞑想を続けた者だけがわかることもある。


これは禅や瞑想のススメではない。合う、合わないもあるし、トラウマがある人は悪化するケースもある。多動やADHD系の人にやれと言っても難しいことかもしれない。


僕がもし言えることがあるとするならば……





龍を見たとしても、そのままにしておくことだ…


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