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元引きこもりが香港船に乗り込んで麻薬検査を実施した話

Image by Olia Gozha

コロナが起こる前にニュースで話題となっていたことを覚えているだろうか?


僕の記憶では芸能人の薬物使用や自死、大麻の合法化についてよくニュースに上がっていた気がする。


嗜好・医療目的の大麻が合法な国としてはカナダ、ウルグアイ、南アフリカ。また国により州など一部の区域で、嗜好・医療目的もしくは医療目的のみを合法としている国としては、アメリカ合衆国、イスラエル、ベルギー、オーストリア、オランダ、イギリス、スペイン、フィンランド、ドイツ、韓国などで用いられている。

 Wikipedia参照


ご覧の通り、いくつかの国では大麻、マリファナが合法となっている。


僕が留学していたカナダもそうだった。マリファナデーなんてものまであり(420:フォー・トゥエンティ)。マリファナの隠語である「420」にちなんで、毎年4月20日に開催される、大規模な"マリファナ祭りまである。

 

知り合いの何人かは見に行ったそうでマリファナクッキーやグミなんかを配っているらしい。


話は変わるが僕の留学は資金繰りに困っていた。元々引きこもりで働いていた期間も短くて、充分な資金が貯まっていなかった。年齢も20代後半になっていて、留学して学校を卒業した後にワーホリが出来る30歳までの期間(留学未経験で英語が出来ない人間が1年、2年の勉強で就職は困難が予想された)を考慮すると直ちに準備をしなければならなかった。


結論から言うと借金をした。教育ローンという名の金融◯隷の証を持つことになった。


さあ、資金は揃った。いざ出発!憧れの海外留学へ日本であった嫌な記憶は忘れよう。


とはいかなかった。


カナダに着いても利子の返済でクラウドソーシングで日本の低単価仕事を2つこなして、ホームステイ先のヒステリック症のフィリピンママに頭を悩ませながら語学クラスに通っていた。


「お金を貸すことができません」


「はっ?」 


そう教育ローンから言われた。というのもVISAにはいくつか種類がある。ビジター、学生ビザ、ワーキングビザなどだ。僕はWEBのディプロマクラスに(学科が終わった後に企業で一定期間を働くと卒業証書が貰えるというもの)通うために学生ビザを取得していたのだが、英語のクラスはそれに付随するもので厳密には違うと言うのだ。


(おい、おい、おい…)


に加えて学生ビザであれば、週20時間という範囲内で現地でバイトができるのだが、それすらできない生殺し状態。


といわけで、留学の前半はお金を使えない生活。それにクラウドソーシングは利子分の額くらいしか稼いでいない。


しかも英語で必須だったクラスが予定より長引いたせいでお金がかかってしまった。(ちなみに僕は中学に一度も行ったことがないし、義務教育の過程を学校では教わってない。英語は独学だ)


しかし、学校の先生はとても良い人で学費を節約する為に間の月を休んで自習していたのだが、こっそりおいでと言われて学校には行っていたし、同じ留学生だった日本人女性にタダで家庭教師代わりに学校で教えてもらえることになった。


自分の過去を人に伝えることはほとんどなく、この女性にも教えたことはなかったがカナダで出会った何人かの親切な人のおかげで、日本人に対する不信感や汚れも徐々に薄れていった。それくらい日本では他人に対する不信感だらけだったし、カナダに来るまで日本を離れたくて仕方なかった。


英語のクラスを終え、なんとか学生ビザになりWEB課に通いながらも僕は繋ぎの仕事を探していた。やった仕事と言えば家電量販店での覆面調査員にスポーツスタジアムの清掃をラテン系の人たちに混じってやったりもした。日本食レストランでも働いたが、やっぱり日本人環境は合わなくて直ぐに辞めた(日本の環境だとなぜか僕はストレスを覚え、上手く仕事ができない)実際、僕以外にも海外に来るワーホリの多くが日本での生活に疲れてやってくる人を何人も見たし、もう日本の環境では働きたくないと言う人もよくいる。学校で知り合った台湾人も日本職レストランで働いたが、必要以上に厳しいとボヤいていた。


必ずと言っていいほど海外の日本職レストランや働く日本人には変な奴、ヤバい奴が大抵一人はいるもので、面倒くさい。日本ではどこに行ってもダメで海外に来たような人だ。


自分のことかもしれないが……


そんな感じで仕事探しで海外に留学した学生、日本人がよく利用するサイトがある。住む場所からアルバイト、物を売ったり譲ったり、生活情報を見る為に使えるのがCraigslist(クレイグスリスト)や現地の日本人が利用している掲示板やフェイクブックだ。


ある日、そんな感じでフェイスブックを眺めているとドラックとアルコールのテスターという仕事を見つけた。


(うん、なんだこれは……)


求人を見ると、試験管をラボに運ぶ仕事と記載されていて、清潔感のある広告用の写真が掲載されていた。


(うーん、怪しいけど内容が気になる...)


留学生が仕事を探すのは難しい。手当たり次第応募していたのもあり、聞くだけならタダなのでメッセージを送ってみた。


「興味があるので詳細を教えてください…」


フェイスブックのメッセンジャーからWhatsAppに移って連絡するようになった。ちなみにカナダや他の海外ではWhatsAppが主流な所も多い。


連絡が来た相手のプロフィールを見ると、どうやらインド人で住まいもインドぽい。


(えっ、どういうこと…?)


チャットしながら色々訊いてみると住まいはニューデリー。


怪しさが増していく。


念のため、自分が日本人で学生ビザでカナダにいる、ただの留学だということを説明してそれはリーガルで安全でトラブルはない(法的に大丈夫な仕事)かと何度も訪ねた。


(違法な仕事でカナダ留学が頓挫するのだけは絶対にダメだ…)


仕事の内容はこうだった。


カナダの港に来る船の乗組員に抜き打ちでドラッグとアルコールをやっていないか検査して、テスト結果をラボに送る仕事。


テスト結果…… 尿検査だ。


詳しくは別の人がオンライン通話で説明すると別の人の連絡先を教えてもらった。


(今度は誰や…)


プロフィール、プロフィール、、、


ギリシャ……


Greeeeeek! かい!


メンバーはリモートの仕事ということだ。世界中の海や港でやっているということになる。


Ohh, What the f-ck!


外国かぶれの独り言を言いながら、オンライン通話でギリシャに繋いで仕事内容を英語で説明して貰った。


英語というのはその国々の訛りやアクセントがある。カナダにいて強く思ったが国の数だけ英語のアクセントや発音があると言ってもいいぐらい、それぞれ違う。


そのギリシャ人にも訛りがあって聞き取りづらい箇所が何度もあったが、後でメールでも仕事内容を送ってくれと念のため頼んだ。検査は不定期でいつ船が来るかもわからないらしい。


完全に単発バイトだ。時給も日雇いバイトくらいのものだがでも法的に問題もなく、1日で終わる仕事。


日本だとありえないようなアルバイトだ。何の資格も持ってないしただの留学生がやるような仕事ではない。


薬やってる奴がいて、揉めたりしたらどうするんだろうか?


船の甲板で取っ組み合いになった場合の自分を想像してみる…


細身のアジアンがガタイの良い船乗りに勝てるだろうか……


格闘技に少し興味があって海外に行こうと思ったときから、護身術を学ぼうと合気道とイスラエル式格闘術のクラヴマガの1日体験には行ったことがある。合気道は見学に行った道場の宗教ぽい教え方が嫌だったのでやめた。クラヴマガはたまたま行った日に初心者がいなくて、受け身もできないのにスパーリングをいきなり組まされて、次の日、全身筋肉痛になった。習い始めたら間違いなく骨折とか怪我するだろうなと、仕事に支障が出そうなので一旦諦めることにした。


なので格闘技やケンカ経験はほぼゼロだ。


まあでも毎日パソコンに向かっているだけだから、たまに気分転換にこういうのもいいかと楽観的に考えて請け負うことにした。


週間的に続けていた筋トレはいつもより気合いを入れて続けることにした。念の為。


それから忘れた頃「船が来る」とギリシャから連絡が来た。


「船が今月の〇〇日に到着するから準備をしてくれ」


検査用の試験管はこっちで用意しなきゃならなく薬局を探し回り、あとから購入代を支払ってもらうことになった。単発とは言い、メールや準備に数日かかってしまった。


当日バスで港まで向かい、ゲートのある警備室へ向かった。


ここまでが緊張して一番もっともらしいことをしたかもしれない。


ドキドキするが表面的でも威厳を保つ必要がある。


(麻薬検査だ! 門を開けろ!)


と行きたかったが通知を見せて、簡単な英語で検査に来たと伝えるとすんなりと目的の船に連絡を取ってもらえた。


少しだけ待ち、迎えの車が来るから乗ってくれと言われた。


湾内の移動は歩きではダメらしく船まで車に乗せてもらうことになった。


運転してくれたカナダ人と軽い雑談をしながら船まで向かう。日本よりカナダの人は気さくな人が多い。その日の天気とか仕事のこと、今日あったことなんかだ。


船の前で降ろしてもらい待っているとアジア系の乗組員が降りて来て「Sir!」と呼ばれた。


ハシゴのような細い橋で船までなんとか入った。


一等航海士のようで彼が親切に中まで案内をしてくれた。


僕は童顔なので日本人の中でも若く見られるし、海外だと10歳ぐらいは若く見られるのだが敬意で相手に使う場合もあるので、結構親切な対応だ。


「何人? 中国人かい?」


「僕は日本人だよ」


「へえ、珍しいね。日本人かい」


「俺、ワンピース好きなんだよ。見てる?」


(船乗りはやっぱりワンピース見てるのか)


そんな会話をしながら案内をされて、丁度乗組員が休憩中らしく何人か船外に出払っているとのことでしばらく待つことになった。


船内にいた腕にタトゥーのある乗組員に腹は減ってないかと口に手を運ぶジェスチャーで「飯、飯」と言われた。


「チキン、チキン、パン? ご飯?」


「あっ、じゃあご飯で」


と緊張感ない僕は食堂に案内をされ、お言葉に甘えてご飯をいただくことになった。船内の厨房にはテレビモニターがあり映画が流れていた。好きなの見ていいよとリモコン操作まで教えてくれる。壁には映画で見たようなお決まりのセクシーなポスターが貼ってあり、大型の貨物船なのもあって中は広くて快適な空間になっていた。


「何人?」


「日本人だよ。あなたは?」


「フィリピン人さ」


「じゃあ、フィリピンからの船?」


「いや、この船は香港からだよ。乗組員はほとんどフィリピン人だけどね」


「へえ、そうなんだ」


乗組員のおじさんは気さくだった。話を聞きながら、カリカリのチキンを頬張る。(あぁ上手い)


安易だが海軍カレーとか船乗りのご飯は美味しいイメージがあったので予想を裏切らない。(何しに来てんだ俺は…)


ご飯をご馳走になった後、しばらくすると外に出ていた船乗り達が戻って来たので全員を呼び集めてもらい、ようやく検査を実施することになった。


男臭の強い船乗りたちのおしっこを集めるというのは難儀な仕事でもある。事前に購入していたマスクと手袋を着けて準備に取り掛かり、マニュアルには一等航海士に手伝ってもらって臨時の病院を開けと英語で記載されていた。


指示通りに一等航海士に助手をお願いし必要なものを揃えて貰う。船内にアナウンスがなり徐々に呼び集めた船員たちが列をなしてきた。僕が名前聞いて検温機を渡し体温を測り、検尿用のプラスチックケースを渡してトイレに行ってもらう。


楽勝だ。


中には出ねえよと、おしっこが出ずに溜まったらまた来るよみたいな人もいたし、明らかに二日酔いみたいな顔のおじさんもいたが一時間ほどで乗組員全員の採取が終わった。


最後にまだ生温かいプラスチックケースをしっかりと密閉して一人一人の名前を貼り、持ってきたビニールバッグに入れた。


ふーっ


船長に礼を言って、僕は船を後にし再びゲートに戻った。


家に帰るとおしっこのケースがたくさん入ったビニール袋で密閉してダンボールに梱包し、Fedexで内容物にUrine(尿)と書いて指定先に送った。


麻薬検査の仕事はこれだけだ。


車を持っていないから港まで向かい、かなり広い場所で目的地を探すのは大変だったが面白い体験だった。


コロナでようやく日本はリモートワークに乗り出したが、海外、少なくとも僕がいたカナダでは働く方法と自由度がたくさんある。今回のケースはイレギュラーとはいえアプリ経由でやる仕事も多い。

何よりチップがあるのが良い。チップだけで生活費を賄えている人もいるくらいだ。

日本人は客は神でもなければ、サービスも本来タダじゃないぞとどこか頭に入れておいてほしいくらいだ。

コロナで未曾有のパンデミックになってから、あっという間に時間が過ぎたような気がする。どのニュースもコロナ一色で、怒涛のように過ぎた人もいるだろう。僕のように職を失った人もいるだろうし、逆に忙しくなった人。そんなに影響がなかった人も中にはいる。引きこもりだから関係ないと言う人もいるかもしれない。


以前よりストレスを抱えて生活をしているだろうか? やっていられなくなっていないだろうか?


日本と海外では色んなことにおいて環境が違う。今は頑張ってコロナ収束後に海外へ行くという希望を持つのもいいかもしれない。

 

ただ海外に行くなら気を付けなければいけないこともある。今回記事にしたドラッグもそうだ。日本よりも身近にあるし、僕の海外の友達の中にはマリファナを吸う人もいる。ただそれはそれ自分は自分なので、止めろとか非難するわけではない(人を傷つけたり、迷惑を掛けたりすれば別だが)日本では違法だが海外、いや現代はネットもあり国際化の中ではボーダレスだ。それくらい身近なことなので、合法化している国が多数あるという理解や知識。自分の責任は自分で取るということだ。


では最後にもう一度質問したいと思う。コロナが起こる前の出来事を覚えているだろうか?


尿検査で疑われる羽目にならぬように。



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