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vol.1 波乱万丈の出発まで【一緒に世界へバーチャル冒険】

Image by Olia Gozha

「わたし独りで出発しちゃうからね!」


立ち上げたプロジェクトが軌道に乗り出し、約束の1年を待ってもなかなか会社を辞めれないでいる彼を前に、わたしはついに湯船の中で膝を抱えて泣き出してしまった。


どちらからともなく、ある日ふたりでハネムーン世界一周を妄想し始めてからもう2年になろうとしていた。


「マチュピチュ行ってみたいよねー。」

「最近ウユニ塩湖も人気だね。星空も地面に写って360度星に囲まれた幻想的な景色がみれるらしいよ!」

「ヨーロッパでたくさん美味しいもの食べたい。」

「アフリカの人達の生活も見てみたいね。」


「それ、ぜーんぶ行ってみちゃえばいいんじゃない?!」

「世界一周しちゃう?!人生一度きりだし!」


翌日、彼は早速世界一周した夫婦が出版した分厚いバイブル本を手にして帰宅し、わたしも会社を辞める計画を着々と立て始めた。週末はふたりで図書館に通い、各国の地球の歩き方を積み上げ、大きな世界地図を広げて旅のルートを考え始めた。


キャリアウーマンの道を歩むと思っていた自分自身でも意外な程に、"会社を辞める”ということには何の不安も抵抗もなかった。むしろ「世界一周」が眩しすぎて、それに向かっていくことしか見えていなかったのかもしれない。


「会社辞めます」「結婚します」「世界一周行きます」

刺激の強すぎる三連発をオブラートに包まず、勢い余って一度に親に伝えてしまったことはあまりに不覚だった。


「結婚するのに会社を辞めるとは、地に足がついとらん!」

「そんな奴との結婚は絶対に認めない!」

「二人で旅行に出るなんて許せない!」

父と母からはそんなカウンターパンチを全身に食らった。


それから何度か話し合いをしたけれど、両親は「反対だ」の一点張り。それでも諦められなかった私は「結婚は待てるけど、世界一周は今しかない!」と勘当同然で家を出た。そして、結局わたしは出発の日に向けて準備を進めながら、彼の家で居候の身となっていた。


これまで努力して積み上げてきたキャリアをなかなか捨てれずにいる彼の気持ちは十分に理解できた。だからこそ、後悔せずに出発できるよう、彼のタイミングを待っていた。


けれど、彼の仕事は順調に行くばかりで、辞職の話が遠のいていく。通常であれば喜ばしいことなのに、複雑な反比例。待てど暮らせど出発の日が見えてこない焦り。キャリアを捨て、家族を捨て、家を捨て、裸ひとつになったわたしは意地でも後戻りなんてしたくなかった。「彼は結局このままずっと行けないんじゃないか?」とさえ不安になる温度差も少しずつ生まれていた。


そんなことで、わたしは我慢の限界に達し、お風呂で泣くハメになったのだった。



「会社辞めるって伝えてきた。」

わたしの涙にようやくハッとした彼は、翌日会社に辞表を出した。今では、「あの日の涙がなかったら...。」と彼には感謝されている。


そして、やっと本腰を入れて世界一周に持って行く物を準備し出した。バイブル本や経験者のネット情報を参考にしながら、アウトドア服やガジェットやらを亀仙人の甲羅より大きな60Lのバックパックがはち切れんばかりに詰め込んだ。


持ち物以外には、予防注射やインドビザの取得にはだいぶ手こずった。出発ギリギリまで、引越しやら保険や年金の手続きやら、旅行そのものの準備以外にもやらなければならないことも多かった。


 

紆余曲折ありながらも、ようやく辿り着いた出発の日!

パツパツに太った二つのバックパックの他に、貴重品やノートパソコンをいれた通常サイズのリュックサックが二つ玄関に並んだ。


「これ、持って歩けるかなぁ。」


玄関にふたり並んで腰をおろし、バックパックに手を通した。


「いち、にの、さん!」


立ち上がるどころか、ふたりで後ろに転がってしまってコントみたいな出だしとなった。これでは歩くどころではない。バックパックの荷をほどき、玄関先で改めて持って行く物を厳選。そして、バックパックは多少スリム化され、選ばれし物達と共に何とか家を出発できた。



電車を乗り継ぎ、羽田空港に到着すると、壮行会を開いてくれたランニング仲間のメンバー達や、高校や大学の友人達が見送りに来てくれていた。日本の国旗に寄せ書きをして、盛大に送り出してくれた。


「元気に帰って来いよ!」

「無理しないでいつでも帰っておいでね。」

「楽しんできて!ブログとTwitter楽しみにしてるよ!」


「ありがとう!行ってきまーす!!」


ついに冒険が始まった!


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