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タクシー運転手の日常「おともだちになる瞬間」

Image by Olia Gozha

終電亡くなった深夜、繁華街でお客様をお乗せする。
年齢は50代ほどのスーツ姿のほろ酔いの男性。
お仕事のあとの会食か何かだったんだろう。
疲れ切った様子で行き先を告げると、
「近くまで行ったら起こしてくれ、それまで寝てるから」
と眠りに入った。

行き先を言って、眠ってくれると一番楽にお送りすることができる。
遠回りをする気があるのではなく、絡まれたり、余計な邪魔をされるくらいなら眠ってもらった方がマシ。

問題なのはそこからだ、
酔ったお客様が眠りに入ると、起こすのが大変。
眠っているところを無理やり起こすのも
やっぱり気が引けるところはあるし
なにより、起こしたところで大抵のお客様は寝ぼけている。

所定の目的地に到着して「到着いたしました」と起こすも
「あ~真っ直ぐ」と言われ、進んで行くと実際は行き過ぎていたことなんてザラである。

それによって疑われることは心配のひとつだが、
その時に一つだけ好きな瞬間がある。

それが、寝ぼけた様子で話しかけてくるお客様が
「ともだち」かのようなラフさの時。

到着し、起こすと
「あ~、だめだ、飲みすぎちゃったよ」
から始まり、
「あ、ここ俺んちの近くなんだよ」
と当たり前言われ
「あー、よしっ」
とお支払いのやり取り一つ一つが
麻雀をしているかのようになり
「飲みすぎちゃった~」
と再び戻る。

そして最後は、
「あーす、あしゃざーす」
と、言葉にならない挨拶で降りていく。

ほろ酔いと、寝ぼけで一番気持ちの良い状態のお客様が友達になる瞬間
それが一番好きだ。

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