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精神崩壊から警察官となり、講演家になるまでの物語①

Image by Olia Gozha

11歳、小学6年生の8月16日に目の前で父親が死んだ。


海で溺れた子ども2人を助けに行き、子どもたちは助かったものの、父親は変わり果てた姿で亡くなった。


父親との最後は喧嘩だった。


葬儀場で、溺れた子供の父親に


 「なぜあの場にいて、助けに行かなかったのか?」


と私は問い詰めた。


俯き、目を合わせず、絞り出すような声で


 「泳げなかったから、助けに行けませんでした」


と。


この日から私は、この親子を恨みながらPTSD(心的外傷後ストレス障害)とフラッシュバックで悩むことになる。


私は両親と兄の4人家族。


会社経営者だった父親は忙しい中でも、週末は好きなアウトドアに家族で出かけ、登山やシュノーケリング、キャンプを楽しんでいた。


そうしたいつも通りの日常の中で、別れは突然訪れた。


 「なぜ俺がこんな目に」


そう思う毎日。


海や川、プールを目の当たりにすると動悸が激しくなり、自分の心がポロポロと崩れていく感覚。


突然襲ってくる


 「次は誰が死ぬのか?」


ホラー映画で周りの人たちが次々と死んでいく恐怖と似ている感覚が突然襲ってくるフラッシュバックはかなり厄介な存在だった。


経営していた会社をたたまざるを得なくなり、母親は精神的に一番きつかった中でも女手一つで小学6年の私と中学2年の兄を養う為にパートを始めた。


そんな母親の姿をみている中で、無意識に自分がPTSDやフラッシュバックで悩んでいることを隠した。


元々勉強が苦手で、父が亡くなってからは成績の悪化に拍車がかかり、中学へ進学して最初の数学のテストでは


 4点


をとり、成績も最下位となった。


そんな成績を見た母はベッドに座り、泣きながら


 「お母さんが死ねばよかった」


と言われた言葉は今でも忘れていない。


もちろん、責任感が強く、母子家庭で子供2人をちゃんと育てないといけない精神的なプレッシャーや不安、慣れないパートでのストレス、心の支えだった夫がいない中で、ふと出た言葉であることは当時の私も感覚的に理解できた。


ただ、親が自分の存在を否定することが、結果として


 子供が自分の存在を否定すること


になることをこの時身をもって経験した。


大手の進学塾に入るも馴染めず、兄が通っていた個人塾に移ってから、塾の先生との相性も良く、次第に成績は上がっていった。


高校受験も、滑り止めの高校を受けながらも何とか志望校に入ることができたものの、高校入学後すぐにクラスの一部のグループからイジメに遭うことになる。


毎朝洗面台に向かっては吐き気に襲われ、嗚咽の音を消すためにドライヤーをマックスにかけていた。


母親が毎日作ってくれる弁当を食べてはトイレに行って吐く毎日。


弁当を残せば絶対に心配してしまうという思いと、作ってくれたご飯を食べたいという思いが入り乱れての行為だった。


ストレスでイライラしてボールペンを折る日々。


「あーイジメられるってやっぱ苦しいな」


と感じつつも、小学校、中学校を振り返ると自分もイジメのグループに加担したことも、見て見ぬ振りをしたこともあったなと。自省することがこの時イジメに遭ったことで学べたことだけでも良かったと思えた。


ただ、最悪なことに、イジメていたグループの2人とは同じ部活に入部。


そんな精神的に不安定の中でも、次第に友達ができ、先輩ができ、イジメグループの、特に同じ部活の同級生ともちょっとずつ話すようになっていった。


とは言え、イジメが終わったわけでも、許したわけでもなかった。


そんなある日、たまたまイジメグループの一人の奴と二人きりになることがあり、沈黙を破って相手が


 「俺のこと嫌いでしょ?」


と聞いてきたので


 「だな。俺お前のこと嫌い」


とそのままの気持ちを伝えた。


その場は沈黙になったけど、自然とその後は本当にちょっとずつではあったけど仲良くなっていき、そのグループのイジメも自然と終わった。


ようやく高校生らしい生活が始まり、基礎練習が厳しい部活の甲斐もあって、94キロあった体重は1年で74キロまで絞れた。


200メートルしか走れなかった長距離走も平均以上のタイムで走れるようになった。


勉強の方も、高校1年の最初の定期試験で240人中227番だったが、隣の席の子を好きになり、その子に勉強を教えたいが為に勝手にやる気スイッチが入り、次の定期試験では


 54番


になり、中1の時に4点を採った苦手な数学も97点を採った。


現代文は学年1位、成績の伸びも学年1位となった。


父親が亡くなって、4年の間で初めてと言っていいくらいの大きな変化だった。


そんなこんなでいろんなことがありつつも、無事に高校2年となり【進路】について本格的に考えるようになる。


県立高校の中でも進学校に入っていたこともあり、進学を考えるも


 「早くお母さんを安心させたい」


と言う思いが強く


  就職


を考えるようになった。


そして


 保育士か警察官


の二択で悩むが、将来性ややりがい、なりたい理由を深掘りした結果


 『命を懸けて子供を助けたお父さんのように、命を懸けてやれる仕事がしたい』



と強く思うようになり、警察官になることを決めた。


進路に関する三者面談の際に、担任から進学を勧められ、母親からも


 「4年間通うだけのお金はあるから進学してから考えたら?」


と提案されるも


 『なりたいことが決まっているのに大学へ行く意味はないし、学費が無駄になるだけでしょ』


と、問答無用で断った。


この頃から、自分で決めたことは頑なに曲げない性格は芽を出し始めていたのかもしれない。


そして、この性格が後の警察官人生においてどん底に突き落とす要因になることを当時の自分が知る由もなかった。


進路が決まり、高校3年になってからは9月に実施される警察官採用試験に向けての勉強の毎日を過ごした。


友達からのカラオケや遊びの誘いもほとんど断り、自信満々で臨んだ警察官採用試験の一次試験。


全力で挑んで「絶対大丈夫だ」と言う自信は


 不合格


という三文字に木っ端微塵に砕け散った。


合格することしか考えていなかったため、数分間思考停止したものの、今更進学に変更することもできなかったため、あれだけ啖呵切ったことを母親に頭を下げて謝り、1年間だけ警察官になる為の専門学校へ行かせてもらうことで進路は決まった。


この時も「2年制のコースでゆっくりやれば?」という母親の言葉に甘えたくなかったので


 『絶対に次の採用試験で決める』


と背水の陣を胸に高校を卒業してすぐに都会で一人暮らしをスタートした。


入学した専門学校は試験がなく、お金を払えば入れる学校なだけに2クラス120人くらいいるクラスメイトの9割くらいはやる気が無かった。


その証拠に、毎月行われるテストの順位は1位から3位のいずれかだった。


本気で受かる気のない同級生を反面教師に、都会で一人暮らしを始めたにも関わらず、合格するまでの8ヶ月間、一度も遊ばずに試験勉強と二次試験合格の為に必須な体力トレーニングに励んだ。


殺気立つくらいの勢いで臨んだ2度目の地元警察の採用試験では、納得のいくかたちで、2位通過で合格することができた。


合格を目的として入学した専門学校に、春先まで通う必要がなくなった為、合格後すぐに中退して地元に戻った。


そして、19歳の4月に晴れて夢だった警察官となったのだが、ここから警察学校での地獄の10ヶ月が始まることとなる。

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