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新幹線で田舎へ帰るおじいちゃんと、会えない寂しさを隠すお孫さんの、別れる数分前の車内の話。 後編

Image by Olia Gozha

ただ一人、その状況に感極まっていた。

東京駅に近づくにつれて
だんだん素っ気なくなっていく裕太君
おじいちゃんと離れる寂しさを見せないためになのか、
ずっと明るいみさきちゃん
この時間も思い出に変えたいおじいちゃん。

三人の空気を感じ、一瞬、
私が小さかったころのおばあちゃんとの想い出もフラッシュバックする。

センチメンタルになりながら、ハンドルをしっかりと握り東京駅へ走る。

お「もう東京駅が近づいてきたな~」

み「もうちかく~?」

お「もう少しだよ~」

み「はやいね~」

お「そうだね~、あっという間だな~、、次会えるのは夏休みか~」

み「なつやすみたのしみ~」

お「夏休みはどこに行きたい?」

み「ん~、ジブリ森美術館」

裕「・・・。」

お「またジブリでいいの?」

み「うん」

お「いいよいいよ。じゃあ行こう」

み「あとね~、でぃずに~らんど~」

お「ディズニーも行こうか」

み「しーがいいー!」

お「いいよ~、裕太は?どこ行きたい?」

裕「・・ん?」

お「夏休みは行きたい場所ある?」

裕「ん~、・・・どこでもいい」

お「裕太は野球の試合もあるか」

裕「・・あるかもね」

ずっと黙っていた裕太君、
より一層素っ気なさが増している。
運転手の私は何よりもその息遣いを感じていていた。
運転手の後ろに座る裕太君は、背もたれにもたれるのではなく、
姿勢を前にして窓際に身体を寄せていた。

私の耳には、裕太君の声が入ってきて
裕太君の寂しさの心情を想像させる。

その想像は、私の記憶の扉の鍵となり、
扉を開けると私自身の思い出を見つけ出した。
そこには、おばあちゃんとの思い出を映すスクリーンがある。
そこまでくると、自らの意志はなくとも映像は進み、
懐かしさも、寂しさも、もっと思い出を作りたかったという後悔も
すべてが観賞できる。

そこに見たのは、裕太君と同じ年齢の頃の私で、寂しくなると素っ気なくなっていた。

その思い出と車内の情景は、偶像と実像で行き来し、
さらに心を揺らす。

お「裕太~、また会えなくなるな~」

裕「・・・ぅん」

裕太君の声に力がなくなってきている。

お「おじいちゃん、寂しいな~」

裕「・・・。」

み「みさきもさみしー」

お「そうだよな、寂しいな~、でも夏休みもすぐ来るぞ」

み「あと何回寝たらなつやすみ~?」

裕「・・・。」

お「100回ぐらいかもな~」

み「え~、100回っていっぱいねむらないと~」

裕「・・・。」

お「すぐだよ、すぐ!」

み「すぐ~?じゃあ、いま寝る」

お「え、でも、もう着くよ」

み「ちょっとだけ・・・zzZ」

お「ハッハッハ、、笑・・・」

裕「・・・。」

お「裕太~、野球、がんばれよ~!」

裕「ぅん」

お「おじいちゃん、ずっと裕太のこと応援してるからな~」

裕「・・ぅん」

裕太君の返事は、涙声になっていた。
それを聞いたのは、裕太君の目の前に座っていた私だけかもしれない。

その声が聞こえたところで、ちょうど東京駅の八重洲口へと到着した。

私「ありがとうございました~。お会計は2,330円です」

お「ありがとうございました。3,000円でお願いします」

手元でお釣りと領収書を用意している私。

お「ほら、みさき~、ついたよ」

み「なつやすみになった!?」

お「まだなってないよ笑」

み「え~、一回ねたのに~」

お「大丈夫だよ、すぐ夏休みは来るから」

私「お客様~、こちら670円のお返しと、領収書でございます。」

お「は~い、有難うございました~、さっ降りるよ」

み「ありがとうございました~」

私「は~い、ありがとうございました~」

お「裕太も行くよ」

裕「うん・・・!、ありがとうございました」

私「!、ありがとうございました~」

最後まで、裕太君は寂しさが溢れないよう、素っ気なくいた。
しかし、私だけに聞こえたであろう涙声と、
もうひとつだけ、見たものがあった。
「ありがとうございました」と言う寸前、
鼻水をすすり涙を目に浮かべるも、強くあろうとする姿を。


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