栃木県、団体全国予選決勝戦
相手は宇高
杉本の相手は部長の振り飛車党
北里の相手は副部長の居飛車党
そして俺はエース対決
やはり俺の予感は正しかった。
相手はあの右四間使いだった。
この上ない最高の喜び。
最後の最後に残る一人、屈辱の負けを味わった相手と戦えるこの瞬間に喜びを感じた。
なぜって
勝って終わりにしてみせるからだ。
約束したんだ。
どんな相手でも絶対に勝つ。
そしてついに始まった。
お願いします。
北里と杉本は最後相居飛車と、相振りになった。
俺はゆっくり深呼吸を何度も行ってから、ゆっくり一手目を指した。
こいつとの戦いも決めていた。
特殊な戦法は使わず、ガチンコの実力対決
右四間 VS ノーマル四間飛車
振り飛車党のトップとしての振り飛車らしい戦い方で勝つ。
この時は二人に気を配る余裕はなかった。
俺は俺の戦いに全力を尽くした。
島田ときとは少し違い、俺は振った飛車の左は軽く捌く構えをして、銀はあげなかった。普通の美濃囲いのまま、相手は急戦できた。
島田戦の経験も踏まえ、ハナからカウンター狙いの玉頭戦は初めから考えていた。
がしかし意外にも相手の攻めは厳しかった。
俺の飛車は上手く捌けず働きを失い、相手も薄いが、俺の囲いは粉砕された。
クソ
最後の最後だってのに、ここまでか。
・・・負けてたまるか。
考えるのをやめた。
目を閉じて一度思考を停止させ、ゆっくり目を開き一度外の景色を見てから、盤面を見た。
「助かっていないように見えて、助かっている。」
これは一番プロの中で尊敬している大山先生の名言だ。
自分の玉を見たとき、一見誰でも受けて一旦手を戻すと考えそうな局面。
受けたら負ける。
受けずに、相手に駒を渡さない攻めをしなければ負ける。
逆に言えば、受けなければ詰まない!
そんな局面であることに気づいた。
その一瞬見えた、誰もが見えていなかった25飛。玉頭を攻めていた飛車を引いた。誰もがこの時悪手に見えていたがこの手が決めてになった。
相手は駒が入らないが故に寄せきれず、成銀をにじり寄ってきた。
そして起死回生の85飛。王手龍取りが決まった。飛車を動かしての角で抜き王手が決まった。
そうこの攻めがあったから、相手は他の手を考えなければいけなかった。つまり無理攻めだった。
「助かっていないように見えて、助かっている。」
のであった。
当然王手は無視できない、避ける。
そして相手の龍をとった瞬間。
完全に相手の攻めが切れた。
勝負が決まったのだ。
龍を取ったこともあり、相手を攻めるのに持ち駒は十分。だがこの寄せが肝心。下手に駒を与えればこちらが詰まされてしまう。
渡しても大丈夫な駒を考えつつ、必死までの手順を考えた。
よし、これで決まりだ!
読み切った。
そこから10数ての後相手玉必死。
自陣、王手がかからない。
「負けました。」
とうとう勝った。
これで雪辱は成した。
俺は今大会全焼し、約束を守った。
俺の役目は終わった。。。
あとは二人の勝負。
しかし
残酷なことに、局面は二人とも大劣勢だった。
間も無くして、北里投了。
そして最後の最後まで粘ってがいたが、力尽き杉本投了。
俺たちは負けた。
結果は準優勝で幕を閉じた。
優勝は2勝1杯で宇高。
全国大会出場が決まった。
もう一つの約束を果たせなかった。
彼らを全国大会に導くことができなかった。
優勝を味あわせることができなかった。
非常に残念だったが、この時本当に悔しかったのは俺ではなく
杉本と北里だった。
この時初めて負けて二人は涙を流した。
負けてこんなに悔しいのはこれが初めてだと。
お前は約束をちゃんと守ったのに、俺たちは約束を守れなかったと。
俺も二人の姿を見て泣いてしまった。
何も声をかけることができず、ただ三人で泣いた。
部員と顧問はとても喜んでいたが、俺たち三人は誰も喜ぶことはなかった。
本気の涙だけが残った。
そして、表彰された銀メダルは三人揃って、そのまま会場に置いて立ち去った。
「俺たちは金メダル以外いらない。」
そう話さなくてもお互い伝わっていた。
現実とは残酷なものだ。
努力したからといって必ずしも求める結果が得られるわけではない。
必ずしもハッピーエンドで終わるわけではない。
結果を得られない苦しみもある。
「結果があるから行動するのではなく、行動するから結果がついてくる。」
それは時に望んでいない結果かもしれない。
けど俺たちはそれを乗り越えていかなければならない。
この先の長い人生
色々な苦難が待ち受けている。
思い通りにならないこともたくさんあるだろう。
行動の結果が受け入れられない結果もたくさん出てくるだろう。
逆にうまくいくこともあるだろう。
それら全てを受け入れて、それでも俺たちは前に進むしかないんだ。
こうして俺たちの将棋は終わりを告げた。
この話は全て実話です。END