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スタートライン 26

Image by Olia Gozha

 ゆっくりと降りていき、ついに海底に着いた。水深計がここは18メートルだと教えてくれている。チームのタンク内にある空気量を確認した後、ダイビングジャケットに空気を少し入れた。程なくして唐田が浮く。その状態を保ち、ある目的地に向かって足をけった。地形を把握している為、コンパスは見ないで進んだ。
 大きな沈船が視界に入った。全長28m高さ6mの船だ。ダイビング用に沈められたそれは、すっかり魚の住みかになっている。無数の魚が優雅に泳いでいる。大きな魚もいるし、小さな魚もいる。色とりどりの様々な魚がいる。まさしく、魚の世界だ。大阪から数時間でこれる異世界。ダイビングをしないと入られない空間。この世界を知らずに死ぬのは勿体無い位魅力がある世界だ。
 魚を紹介しながら船を回る。後ろを振り向くと、それぞれワクワクしているのが見てとれた。その姿に安心するが、自分自身もワクワクしていた。何度ここを訪れてもそれは変わらない。毎回ワクワクしている。水中から太陽の光を見たり、自分吐く泡を眺めたり、魚を目で追ったり、沈船を写真に収めたり、ワクワクだらけだ。水中をこうして案内しながらも楽しんでいる。大好きな世界だ。

 袋を片手に、ゴミを拾う。手分けして砂浜を歩くが、すぐに袋はゴミで埋まった。これを僕は続けている。ダイビングを始めた15年前から、水中や砂浜に落ちてあるゴミを少しずつだが拾ってきた。和歌山の海も綺麗だ。特に秋や冬は綺麗になるが、夏も綺麗だ。特に深い場所は綺麗。しかし、少なからずだがゴミがある。それが嫌で、拾ってきた。そして最近になって「これ、一人だとずっとゴミはなくならないのでは?」と気づき、お客様にも声をかけ、一緒に拾ってもらえるようになった。ダイビング目的で海を訪れる度、こうやって続けている。
 ゴミをゼロにする何かいいアイディアはないのだろうか?と考えたり調べたりもするが、現状としてこれだ!という案はない。だからこうして拾いつつ、考えている。じっと考えて良い案が思い浮かぶならとっくにわかっているハズと自分の力量を受け入れ、手と足を動かしながら考えている。あきらめるのは簡単だ。まだ諦めたくはない。色々手を尽くしてからでもそれはいいだろう。それに、「ゴミ捨てないで、拾おう」と声をかけている本人がそれをしていなかったら説得力なんてない。
 海を綺麗にしたい、みんなでしたい。できるはず。次の世代にこういう負の遺産は残したくない。みんなの意識が変わって行動するだけで解決すると信じている。こういうふうに言うとすごい事をしたい!と思われるかもしれないが、シンプルにゴミがあるのが悲しいからなんとかしたい、だけだ。それに、ゴミを拾うの、結構楽しい。やったらわかるが、楽しい。頑張った成果もゴミ袋の中として可視化されるし、海が綺麗になっているのがわかるからワクワクもする。「よっし!ゴミ発見!」とか時には叫びながら楽しんでいる。
 砂浜でゴミを拾っていると近くに住むおじいさんに「ありがとう」と言われた事もある。そこの元自治会長だったみたいで、すごく感謝された。何より、おじいちゃんが喜んでくれているのが嬉しかった。正直、他の人たちが率先してやって継続してくれるならまかせたい。時間がかかるし、仕事だけを考えたらやるメリットはない。けど、続けている。綺麗にしたいんですよね。そして、みんなでやれば実現可能だと信じたいのです。
 いつか、日本に住む子供たちが、教科書などで「昔の日本の海にはゴミが沢山あった」という記述を読んで、「これって本当なの?ゴミがあったなんて信じられない」と驚いたら嬉しい。実現したいな、と僕はそう夢想する。

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