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スタートライン 13

Image by Olia Gozha

 二人がかりで一人を潜降させていく。耳が痛くないか?をハンドシグナルとアイコンタクトで聞きながら、ゆっくりと降りていく。急ぐ必要はない。ハンディのない人より、ハンディがある人の方が耳抜きが困難な時があると学んでいたのが、事実だと潜りながら感じた。こちらが相手の鼻をおさえ、耳抜きを手助けする。途中、ダイビングコンピューターで時間を確認する。体温調整が困難なケースは通常のダイビングより潜水時間を抑えるルールがあるので、いつも以上に時間を意識した。

 しかし、焦らないし、焦らせない。焦りはダイビングにおいてマイナスでしかない。相手の耳抜きをするタイミングを待ちながら、僕らはゆっくりと水深を重ねていった。そして目的の水深に達し、そこから少し移動した。 
 僕達の前に大きな岩が出現した。その岩の上には無数のイソギンチャクがあった。という事は、今回のターゲットであるクマノミがいる可能性が高いとすぐに判断した。
 クマノミはイソギンチャクと暮らす習性がある。だからクマノミに会いたい場合、イソギンチャクの群生を探す方が早いと知っていた。このダイビングスポットでダイビングをするのは初めてであったが、そのセオリーはこの海でも変わりはなかった。そしてすぐにクマノミを確認すると安堵した。何故かというと、高木さんがクマノミの写真を撮りたいというリクエストがあったからだ。

 カメラで撮りやすい距離まで進むと、カメラを高木さんが撮りやすいようにした。高木さんの手はほんの少しだけ握力があり、チームで力を合わせるとカメラで水中写真を撮れる。とにかく高木さんはシャッターを押していった。デジカメなので陸に上がってからいくらでも消せるから、ピントを合わせる事は一切考えず写真を撮り続けた。通常ならばピントを合わせるが、少ない握力と限られた時間の今はそれを無視する必要がある。
 今回潜ったのは高木さんと僕ら二人だけではなかった。他にも指導員やサポート役として潜る人間が複数いたが、重いハンディのある人とのダイビングは、まさしくチームとしてのチームダイビングであり、あらゆる面でチームの重要さを肌で感じた。

 そして目的を果たすと、すぐさま浮上へと動いた。普段のダイビングもインストラクターとしてずっと気を張っているが、その何倍も集中して向き合う。徐々に深度を上げていく。チームとしてアイコンタクトやハンドシグナルを活用して最後まで安全と安心に気を配る。
 僕の初めての本格的なハンディキャップダイビングはこうしてあっという間に終わった。自己採点としてとても満点とは言えなかった。ハンディキャップダイビングがいかに難しく、そして大変かを思い知らされた。

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