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スタートライン 2

Image by Olia Gozha

「いよいよだな」
「そうだな、うまくいくかな」
「わからない。けど、うまくいったらいいな」
「もちろん」

 そう話して僕らはファミレスに入った。入るなり喫煙席に座り、ある一人の男の到着を待った。会うのは何年振りだろう?まさかこうやって会う事になるなんて、1ヶ月前には想像もつかなかった。あの電話を受けた日から全ては始まった。まるで止まっていた古時計が動くように。

 二人供ドリンクバーを注文し、それぞれ飲み物を空コップに注いで席に戻った。あの電話をしてきた男は今自分の横に座り、タバコを吸いながらスマホの画面に夢中になっている。どうやら携帯ゲームをしているみたいだ。この光景も、考えられなかった。この携帯ゲームに夢中になっている松田という男は、以前一緒に仕事をしていた。出会いは職場であったが、年が同じで入社時期も近かったので、すぐに仲良くなった。ほぼ何もない所から特に二人で頑張って店を大きくした自負もあり、僕はその当時誰よりも信頼していた。自分もかなり努力をしていたが、彼も同じかそれ以上努力をしていた。独立を決めた時、本当は誘いたかった人物。独立した所で成功する保証など何もなかったから誘わなかったが、口元まで「一緒に働きたい」という言葉がでかかった。それはもはや夢であり、絶対に叶う事のないものだとあきらめていたが、あの電話の後、数回の電話と直接会っての話し合いを重ね、再び僕らは同じ場所で働く事になった。

 まさか、が起きた。僕からしたらそれは奇跡と言っていい。それから、明らかに僕は変わったらしい。職場でも笑顔が増え、より楽しそうだと言われるようになった。それはそうだ。以前よりずっとずっと楽しいのだから。生き返ったと表現してもいい。いや、生まれ変わったのかもしれない。この男となら、もう無理かもしれないとあきらめかけていた理想の店を作れると考えられた。僕達はあれから何度も話し合った。僕は理想と現実を語り、彼はその多くを肯定してくれ、そして新鮮な意見を出してくれた。その結果、僕達のこの理想の店を実現させるには、一緒に働いてもらう人が重要だという話にいきついた。

 しかし、募集をかけた所で理想とする人物と巡り会えるのは不可能だという考えがあった。そんな中、同時に二人の頭の中にある人物の名前が上がった。その人物と会う為に、ここに来た。もう一生会う事はないと思っていた人間。

 「あ、来た」と松田が教えてくれた。
 僕はスマホを見ていたが、意識は外にあったのですぐに顔を上げた。
「久しぶり」
「お久しぶりです」
 数年振りに見たが、彼は少しも変わっていなかった。

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