市役所で、独身証明を取りよせると。
じっと見入ったのは、私だけではなく市役所の職員さんたちだった。
「こんなんが、あるんやね」
「知らんかったね」
「この証明書、何にどうやって使うんですか」
すると、年配の職員さんが来て若い職員さんたちの質問をなだめた。
どこの自治体も、そうなのだろうか。
高知市では、戸籍謄本や抄本の取得申請書に氏名や住所の記入をし。
受付窓口で口頭で、独身証明書がほしいことを伝える。
その窓口で、先ほど若い職員さんたちの質問をなだめた職員さんが。
カウンターから身を乗り出し、顔を近づけ。
用途と提出先をどのように書いたらよいのかを、小声で尋ねてきた。
「用途は婚活で、婚活サイトに登録したので提出先はそのサイトになります」
カウンターの中が、しーんと静かになり。
あちこちから視線が送られ、届く視線に笑顔を返してゆく。
今、高知市役所は建て替え中で高知城の下のプレハブ二階の仮庁舎になっている。
東の出入り口からの声が、西の出入り口まで聞こえ全館に渡り。
カウンター西端の受付窓口での声も、東端の戸籍係へと届く。
手元に来た、独身証明書を見る。
「これは、高知市長の岡崎誠也さんが私を独身だという証明書を発行したということですか」
「そうです、高知市のために頑張ってください」
どわっと、笑いが起こる。
そうか、市長が私の独身を証明しているのかと建物を出て晴れ渡る空に証明書を掲げると。
透かしが入っているのか、印字された文字がぼやけて見えた。
仮庁舎だからって、仮の証明書じゃないよね。
風が吹いた。
独身証明書がひらひらと、飛ぶ。
拾い上げたタクシー運転手の手を離れ、隣の裁判所の敷地へと飛んでゆく。
取りに行ってくれたガードマンの人に、
「良うにことがゆくように、大事に持っちょらないかんが」
と、渡された。
仮のような人生から、独身が飛んでゆく。
独身の私が、飛んでゆく。
それは、とても晴れやかな感じだった。