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ダイアログインタビュー ~市井の人~ 井上禄也さん9

Image by Olia Gozha

インタビュー日時:2016年11月11日 12時00分~16時00分


インタビュー場所:南相馬市立図書館内 喫茶「Beans」


天気:晴天


 


◎「背景」と「ストーリー」


 


井上 背景の見えない人に、物事は頼めないと思うんですよ。そこは会社も同じで、ブランドを立ち上げるには背景の見えないブランドはブランドじゃないと思うんです。ブランドは「お客さんとの約束の印」みたいなところってあると思うんです。うちは“品質の良い牛乳を会社として作っていく、お客さんの信頼に応えていく”という思いが約束事としてある。それがブランドじゃないですか。だから、背景もストーリーも何も無くいきなり「作ろう」として作ったブランドなんて、とても薄っぺらいですよ。そんな話を、南相馬市が六次化に取り組むというので、昨日行政と話してきたんですけどね。


 


――そうでしたか。


 


井上 南相馬というものをブランドとするなら、そこに色々な背景が乗っかってくるんで、それなら有りなのかも知れない。南相馬というものをブランドとして活用する事無く、新しいブランド名やロゴマークなんかを使って、全く新しいものを作ろうとするなら、最悪だなと。南相馬というものをブランドとして使うというのも、方法論としては有りなのかも知れないなと、昨日の話の中で思いました。今までは「街がブランド作りなんてするべきじゃない」と思ってたんですけど、「背景の見える形」に出来れば、人を引き付ける方法の一つとして、ブランド作りも有りなんだ。


 


――みんなその「ブランドの背景づくり」に苦労するんですよね。そう考えると、人の背景もブランドの背景と同様じゃないですかね。井上さんも「松永牛乳の社長」というブランドイメージを作るのに工夫しているんでしょうし、他に地域で活動している社長さんなんかも、自分のブランド化に工夫はしてるんじゃないかと思うんです。同様に、南相馬という街をブランド化する場合も、工夫は必要ですね。


 


井上 「南相馬のブランド化」という事で言えば、みんな観察が足りないと思うんです。みんな「この地域って何も無いよね」という事を言うんですけど、本当は色々あるんですよ。手前味噌だけど、うちのアイスまんじゅうやバニラアイスもあるし、他にも評判の漬物やB級グルメだってあるんです。それを「何も無い」と言って、新しい名物を作ろうとしたって、背景もストーリーも無いものを作ってもダメじゃないですか。例えば乳業事業を手掛けているうちの会社が、チョコレートアイスやイチゴアイスを発売しても、「何でチョコ? 」「何でイチゴ? 」ってなるわけです。チョコもイチゴも松永牛乳で作ってるわけじゃないのに。で、販売店が「何で? 」という抵抗感が出てくると、その商品が売れるかどうかが見通せないから、販売する側も押しが弱まりますよね。多分それなりに買ってもらえると思いますけど、アピールは弱い。そうなると、それをお客さんが感じて、「何か売り場の端っこにあったのを見かけたけど」程度の感じになる。だったら「30年くらい前にうちで販売していたバニラアイスを復刻しました! 」の方がストーリーとしては脈絡があって意味が通るわけです。お客さんも「懐かしいねぇ。昔と同じ味だね! 」「いやいや!パッケージが変わってる! 」みたいな感じで抵抗なく盛り上がる。抵抗感が無くなるのは販売店も同じで、そうなると導入しやすくなりますよね。そうすると、売り場のメインの一角をどーんと使って販売してもらえる。そんな感じで、実際のところこの間復刻させたバニラアイスは凄い反応でした(2016年7月に、松永牛乳ではバニラアイスを復刻させている)。ストーリーが分かりやすいと、売りやすくなりますし、お客さんも買ってくれるんですよ。そういうわけで、地域の名物づくりならなおの事、背景やストーリーが大事な訳です。


 


■ 「街や人をブランド化する」という質問は、私としては、どんな商品を作るかという事に限って尋ねたわけでは無かった。商品開発の話になったのは、製造業を生業としている井上さんならではなのだと思うが、この話の中で井上さんは“商品開発にしても南相馬の街づくりにしても、南相馬の街づくりにしても、あるいは人づくりにしても同じだ”と言いたかったのかも知れない。「背景やストーリーが大事」という事は、街づくりや人づくりにおいても全く同じだ。


「背景」や「ストーリー」は、昔から存在するものである必要は無い。歴史や伝統あるものの復刻でももちろん良いのだが、新たに生まれた想いや、他地域から持ち込まれた文化であっても、それが地域に必要な概念であれば構わないと思う。必要なのは、その旗印の下で人が集まれる事だ。明快で分かりやすく、かつ「良いね!」と多くの人が思えるような背景やストーリーを、見つける事が大事なのだ。


~つづく~

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