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自分の町、自分の部屋 投資家として飛行機なしの世界一周 その32

Image by Olia Gozha

初めて富士山に登ったのは二十歳の時だった。

当時は肉体も精神も完全に崩壊していて、体重は男だというのに50キロを割り、人とまともにしゃべることさえ出来なかった

そんなときに登った富士山はかなりキツくて、「もう二度と登ることはないだろうな」と思ったのを覚えてる。


それから8年、世界一周をした後の富士山は、、、

楽勝もいいところだった。

吉田口から登って山小屋のある8合目過ぎまで普通5、6時間かかると聞いたが、僕はほとんど休憩もせずに2時間強で登った。

山小屋に泊まった後の深夜の登頂も、渋滞をスルスルと抜かして早すぎるくらいの時間に着いてしまい、登山自体よりも日の出までの待ち時間をキツく感じたぐらいだった。

頂上は真冬以上の寒さで、指の動きが鈍くなるほどだったが、疲れはほとんどなかった。

そして待ちに待ったご来光は、最高の達成感を与えてくれた。

あの時のことは、一生忘れないと思う。


この旅は、大学生時代からの夢だった。

旅の最中は、ただひたすらに夢中だった。

そして旅が終わってみれば、まさに夢を見てたようだった。


当時はもう何年も旅をしているように感じていて、日本のことがはるか昔のようだったのに、今となればそれはもう逆になっている。

旅は夢のように、違う世界の、幻想感のある、遠い昔の、一瞬の出来事になってしまった。

しかもそう感じるまでが、あまりにも早すぎた。

帰ってきた次の日には自宅でとはいえ仕事が始まり、たまっていた用事を次々とこなしながら慌しく過ごしているうちに、あっという間に現実の歯車に組み込まれていった。

本当は世界や日本や、その他色々なことについて分かったこと、感じたことなどを書きたかったのだけれど、それを書くのもためらわれるぐらい、意識が変わってしまっていた。


ある時、自宅の近くを歩いていると、大きな夕日が沈もうとしているのを見た。

とても美しかったので写真を撮りたいと思ったが、もうカメラを持ち歩いてはいなかった。

毎日写真を撮り続けていた生活を懐かしく感じると同時に、もう旅は終わってしまったのだと感じた。

セミの死骸をたくさん見た。


この旅は、ずっと夏を追いかける形で進んできた。

ほとんどの地域をハイシーズンでまわり、朝から夜まで一日中雨が降り続けたという日は、最初の出発から1年5ヶ月の間、ただの一日もなかった。

旅が終わって一ヶ月、その記録は今でも更新され続けている。

でも昨日、久しぶりに大雨が降って、結局夕方にはやんだのだけれど、夏の終わりを少し感じた。

初めて録りためたビデオを見返してみたりした。


夜、電気を消して寝ようとすると、自然と旅のことが思い出された。

思い出すのは大きな出来事ではなく、言葉にするまでもなかった、人に語るまでもなかった、無数のなんでもない景色だった。

もう場所も時間も分からなくなった記憶の断片が、泡のように浮かんでは消えていった。

「あれっていつのことだろ?」

「あそこはどこだっけ?」

そんなことを想っているうちに、いつの間にか夢なのか現実なのか、分からなくなっていった。

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