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死にたがりの生きたがり1

Image by Olia Gozha

目が覚めた時、見覚えのある天井に愕然とし、そして絶望した。

半年前にも見た光景。

「私、生きてる。」

その事実がどれだけ私の前を暗くしただろう。

真っ白な天井を見ているはずなのに。蝕むかのように視界は歪んだ。

忌々しい天井があるそこは、県内屈指の大学病院のICU。

何日意識がなかったのかわからないが、私は個々に運ばれる前に自殺した。

生きてしまっているので、この場合は「自殺未遂」と言われるのだろう。

けれど私は確実に死のうとしていた。

死にたくて死にたくて行動した。が。目覚めてしまった。

看護師がせわしなくなった。

ここがどこかわかるかと聞いてくる。

半年前にも居たのだ。わかるに決まってる。

「ICU」とだけ答える。

今度はどうしてここにいるのかわかるかと聞かれた。

「薬。たくさん飲んだから。」

半年前の600錠よりもさらに多く、800錠も。

でも、生きている。その事実は受け入れるより先に恐怖を生み出した。

じゃぁ、名前はわかる?と続ける。


わかるに決まってる。

私はゆうきつむぎ。

「------。」


看護師が騒めく。それ以上に私の心が騒めいた。

「意識障害出てますね。」

看護師同士の会話が聞こえる。

「違う!わかってる!私の名前はゆうきつむぎ。今声に出たのは彼の名前ってわかってる!」頭では、わかってるのに彼の名前が出た。頭では理解しているのに反論する声が出ない。

私は驚愕と絶望、そして恐怖と戸惑いを感じながら再び意識を手放した。

ーーーーーーーー

私は中学3年生時に受けたいじめが原因で不登校となり自傷行為が始まり、拒食症になった。普通の高校は3日で行けなくなり、通信制高校へ編入した秋頃には、拒食症は過食嘔吐へと変わっていた。

他人が怖くて、日常が怖くて、生きることが怖くて、死にたくて死にたくて、いつの間にかどうして死にたいのかもわからなくなって、死ぬしかないんだと思い続けていた。「死ななければ」とさえ思っていたのかもしれない。

リストカットの自傷行為は、自殺行為と変貌していく。

死に方をネットで調べ明かす日々。死ぬために生きていた。

死にたいくせに、痛いのは嫌だ怖いのは嫌だ家族に迷惑をかけるのは嫌だとわがまま三昧の死にたがりは、一つの方法を見つける。


「煙草を煮出して飲む」


人間の身体ってものは凄いもので、危険物と感じたものは呑み込めないようで胃に到着したと同時に反射的に吐き出した。苦しかった。


胃洗浄を受け、入院。

退院後、苦しいのは嫌だと思い調べ、見つけた。


「OD(オーバードーズ)」


精神科で処方された一か月分の薬を飲んだ。一週間近く眠っただけだった。

目が覚めて私が思ったのは、意識がないって楽だということ。

そこからODの常習者になった。その度に入退院を繰り返した。


本来飲まなければいけない薬をため込み、一気に飲む。

生きている意識を、死にたい思いを手放せる。

なんて至極の境地。

それでも、目は覚める。再び飲む。

ODをして意識朦朧の中、電柱めがけて突進運転し、当時の彼の車を破壊した。車だけが死んだ。そして入院。

退院後、またもODをして意識朦朧の中、切腹をした。

3~4㎝刺したあたりで、ふと思い出した。

「ナイフってのはね、刺す時よりも抜く時の方が痛いんだって知ってた?」大好きな歌のワンフレーズ。

抜いてみることにした。痛かった。

私はその歌詞の正しさを証明し、いつも通り入院した。


退院後、ODの量が足りないのだと思い、市販薬を買いに回った。

ドラッグストアでは風邪薬を2つ以上購入するときには、確認される。

「どちらも風邪薬ですよ?」

「あ、私の家のと祖母の家の分です。」平然と嘘をつける。

ドラッグストア何か所か巡って手に入れた、合計600錠の薬たちをジュースで流し込む。飲み終わる頃の記憶はない。

そして目覚めたのがICU。

「生きている」その事実は静かに私を飲み込んだ。

ICUでしばらく過ごした後、いつもの精神科へ転院。退院。


半年後。800錠まで増やしたにも関わらず、またもや私は目を覚ました。

私は救われてしまった。命だけ、救われてしまった。

それは現代の医療技術に?両親の願いに?私の生命力に?それとも、神様とかいうやつに?


わからない。

でも、目を覚ました。死ねなかった。生きていた。

心はこんなにも死にたがっているのに。心は死んでるも同義なのに。


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