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安本豊360℃ 歌に憧れたサッカー少年 vol.19 「西日本ツァー」

Image by Olia Gozha

豊を、駅の路上ライブに誘い出してくれたマサシを、無理やり口説いて、一緒に演奏をし始めた豊は、路上ライブで友だちになったミュージシャンたちと、隣町のライブハウスを借り切って、3組でライブを成功させた。


思わぬ「ギャラ」を手にした豊は、自らをミュージシャンだと意識し始めた。


歌うことの対価に見合うだけの自分になろうと、行ける限りのライブに足を運び、自分の音楽を成長させていった。


そして、19歳の夏、21歳のミュージシャン仲間2人と「西日本路上ライブツァー」を企画した。


話をしているうちに、盛り上がって、面白いやん!と勢いだけで、実行したような旅だった。


実際、無計画だったのだが、無計画なまま出かけることが、少年たちにはむしろカッコよく思えたのだ。


「とりあえず、テント買お。テントがあったら、寝られるやん。」


若い、というのは、そういうことだった。


後は、どうにかなる…能天気にそう考えて、豊たちは2000円でテントを買って、豊の軽自動車に積み込み、午前10時、豊の住む町を西に向けて出発した。


6月の晴れた朝だった。

 



昼過ぎ、倉敷駅に到着した。


もともと、倉敷では2~3度、路上ライブをしたことがあったので、この場所は大丈夫というポイントを知っていた。


CDなど、売れるものも特に持ってもいないので、ただただギターケースを開いて、生音のまま、3人並んで歌い始めた。


無計画ながら、一応はツァーを企画したという情報を、前宣伝よろしくミクシィを通じて流していたので、以前から来てくれていたお客さんたちが、豊たちに「会いに」来てくれた。


ほんの1~2時間で、ドーナツやフライドチキンなどの「差し入れ」が、ギターケースの底の敷き布を隠していった。


「投げ銭」ではなかったが、豊たちにはそれが歌ったことへの「報酬」だったし、始まったばかりの「ライブツァー」に浮かれていたので、差し入れを抱えて、豊たちは気分も上々だった。


「それじゃぁ、次があるんで、行ってきまーす!」と、手を振ると、「行ってらっしゃーい!」「がんばってー!」と、観客たちは声援付きで送り出してくれた。


振り返るたびに、小さくなっていくお客さんたちの姿が目に入ると、豊たちはを自分たちが売れっ子スターになったような気がした。


その夜は、高速道路のサービスエリアの駐車場に、持ってきたテントを張ってみた。


西日本ライブツァー、最初の夜だった。

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