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安本豊360℃ 歌に憧れたサッカー少年 Vol.15 「パラグアイ」

Image by Olia Gozha


 

 

サッカーJリーグには、Jリーグの各チームで運営されるアカデミーがある。


小学生は「ジュニア」、中学生は「ジュニアユース」、「ユースチーム」には、高校生が所属する。


上のチームに昇格するには、当然のように厳しい競争があって、その門は非常に狭い。


最近では、Jリーグの日本代表はユースチームから選ばれるということからも、そのレベルの高さがイメージできるだろう。


豊は、結局、高校へは進学していない。


通常、高校へ行っていないと、ユースにも入れてもらえないのだが、当時はまだ、サッカー留学をする人口は少なかったので、スペイン留学の実績を聞きつけた、ヴィッセル神戸やセレッソ大阪といった豊の地元に近いプロサッカークラブ数か所から うちに来ないか という誘いが 豊の元に舞い込んできた。


実際、豊は、スペインでもよく頑張って、いい成績を残していた。


よりどりみどりな状態で、どこに所属するか…その選択権は豊の側に与えられている、

豊は余裕さえ感じていた。


そんなある日、豊より年上で、海外サッカーも多数経験している優秀なサッカー仲間が、スペインへ行くと、豊に連絡してきた。


つい先だって、スペインから帰国したばかりの豊と、ちょっとした情報を交換したいという意図だったのだろう。


もちろん、豊は彼にスペインの情報をあれこれと話して聞かせたが、豊にとっては、彼からもたらされた一つの情報の方がずっと印象的なものだった。

パラグアイに、面白いサッカーができるところがある…彼は、豊にそう話した。


「パラグアイ?」


確かに名前は聞いたことがある。


サッカー界では、よく出てくる名前だ。


しかし、どこにある?


年上の友人は、続けた。


彼は、パラグアイで、Jリーガーと同じ寮にいたのだそうだ。


Jリーガーの名前を聞くと、豊が小学校3年生のころ、ヴィッセル神戸が子供たち向けに行っていた練習会で、サッカーを教えてもらった選手だった。


「会いたい!なんとかしてもう一度、会いたい!」


豊は、自分の心がはやるのを、楽しむように味わっていた。


Jリーガーに会いに行く…それは、ただのきっかけに過ぎなかったのかもしれない。


どこにあるのかも不確かな国で、まだどれほどあるのかわからない自分の可能性を見てみたい…ひょっとしたら、そんな気持ちを、そう表現することで納得したかったのかもしれない。


豊の中で、「パラグアイ」は日を追うごとにどんどんと大きく膨らんでいった。


スペインから帰国して数か月後、豊は「もう、これ以上、わがままをいう機会もないし、ここでプロになれたら、これまでのこと、おかんに返せるし…」と、自分に言い聞かせ、母に、パラグアイに行きたい、と告げた。


豊は、17歳になっていた。


ようやく自分のもとに帰ってきた息子が、また日本を離れると言い出した。


しかも、今度は前よりもっとよくわからない、遠い国だという…


豊は、再び、母のすごさを見せられた。


「なんぼあったらええん?」


余計なことは一切言わず、母は、豊の思うとおりにさせてくれると言ったのだ。


実際のところ、パラグアイのクラブは、スペインのクラブと同系列だったので、渡航費用と1年分の食費だけで、金銭的にはずいぶんと優遇してくれた。


いや、しかし、それは金額の問題ちゃうやん…おかん…なんですぐに「うん」って言えるねん…


豊は、ただただ、母に恐れ入った。



 

パラグアイへ旅立つ日、母は、西明石駅まで車で送ってくれたが、あっさりと「ほな、気ぃつけて行きよ。」と言っただけだった。


どちらかといえば、豊の方が、もう少し母になんとか言ってほしい…と思ったほどだった。


豊を乗せた飛行機は、関西空港を飛び立ち、ロサンゼルスを経由してブラジルのサンパウロに到着し、さらに乗り継いでパラグアイの首都アスンシオンへとたどり着いた。


関西空港からロサンゼルスまでが10時間、ロサンゼルスからサンパウロまでは12時間、サンパウロからアスンシオンまで2時間と、単純に飛行時間だけ足しても、24時間かかる場所である。


パラグアイは、日付変更線を超えた上に、北半球から南半球へと移り、季節まで反転するはるか遠い異国だった。

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