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暗黒時代 6

Image by Olia Gozha

「ボールなんてかっぱらってくりゃいいんだよ!」 


そう言った俺にカズンズが訊いてきた。 


「かっぱらうったって、スポーツ用品店から盗ってくんの!? そんなん無理だよ! あんなデカイ物」 


「それにこの時間じゃ、スポーツ用品店なんて開いてねぇぞ!?」 


ゴキジも俺に言ってきた。 


「スポーツ用品店なんかに行かなくなってボールあるとこあんだろ?」 

俺がそう言っても、ゴキジとカズンズの2人は、まだ気づかなかった。 


「学校だよ。学校」 



何処の学校にも、大抵2、3個は校庭にボールが転がってる。 

俺はゴキジとカズンズに、近隣の学校に行けばボールなんて簡単に手に入ると説明した。 

2人は納得し、早速盗りに行こうと言う。 

だが、夜では暗くて探しづらいので翌朝にしようと俺が提案し、次の日の朝5時に待ち合わせする事になった。 





翌朝、誰一人欠ける事なく約束の場所に集まった俺達は、地元の中学より多少遠くにある学校を目指して自転車をこいだ。 

まずは、自転車で西に30分くらい走った所にある、S中学に行った。 

しかしここにはボールは一つも落ちていなかった。 

俺達は更に、そこから20分程北に走り、H中学に着いた。 

校庭を覗くと、幾つかボールが転がっていた。 


「よし。ここにしよう」 

俺は3人で役割を分担しようと提案した。 

まずは、すばしっこいカズンズが校庭に入りボールを拾い集める。 
それを校庭の隅で待機するゴキジに渡す。 


最後に俺がゴキジからボールをもらい受け、学校の外の塀に立て掛けた自転車のカゴに入れる。 

自転車を置いといた場所も、予め逃走経路を考慮して決めた場所だった。 

万が一宿直の用務員さんに見つかった場合、なるべく宿直室より遠い方がよい。 

それとなるべく人通りの少なそうな所。 


そんな事を計算に入れ乍ら…。 









果たして、作戦は実行された。 


カズンズが、何の躊躇いもなく学校の塀を乗り越える。 

既に空は明るかったが、学校周辺には人陰もなく、カズンズは手早くボールを拾ってはゴキジの方へ、なるべく音を立てないように転がした。 

ゴキジは拾ったボールを俺に投げ渡した。 

俺はそのボールを受け取ると、ボールを小脇に抱え塀をよじ登り、自転車のカゴに入れた。 

カズンズは人数分の3個のボールを拾い終わると、足音を立てないようにして戻ってきた。 

ゴキジも俺にボールを渡すと塀の方に走ってきた。 

俺が最後のボールをカゴに入れると、みんな一斉に塀を飛び越え自転車に跨がった。 

周囲を確認し、俺達はその場を後にした。 


全く危なげなく作戦は成功した。 

あまりにもアッサリと呆気なく…。 



「簡単だったな!」 

カズンズが嬉しそうに言ったが、そりゃそうだろう。 

今回の作戦は、最も簡単な作業だったから…。 


俺は小学生の時、もっと危険でスリリングな場所で◯引きを何回もしてたので、この程度は作戦成功もクソもなかった。 



味をしめたカズンズとゴキジは、それから何回となくボールを盗りに行こうと誘ってきた。 


こうしてボール盗りが常習的になってきたある日、カズンズがこう言ってきた。 









「靴欲しくね?」 

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