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選挙王に俺はなる!(後編)

Image by Olia Gozha

とゆーワケで、俺は四年二組の選挙管理委員として、初めての会合に出た。 
会合には各クラス一名ずつ、十五名の選挙管理委員が集まった。 
集まった顔ぶれを見ると、どのクラスの代表も、みんな真面目そうな人ばかりだった。 
明かに俺は場違いな感じではあったが、逆にそんな人達の集まりの中に自分がいる事が嬉しかったりもした。 

クラスの代表。 
責任のある立場。 

そんなものには今まで無縁だったから、尚更だった。 

一通り説明を受けて、翌日から校内は選挙活動に入った。 
それと同時に俺と石田ちゃんの選挙活動も始まった。 

俺は担任の先生に促され、委員会で聞いた事をクラスのみんなの前で説明した。 
説明を終えて、更に隣にいた石田ちゃんがみんなに、頑張る事、応援して欲しいとの事を伝えた。 
みんなは拍手した。 
俺はまるで自分にも拍手してくれてるような気持ちになった。 

みんなが色々選挙管理委員会について聞いてきた。 
俺はみんなが集まってくれて嬉しかった。 

石田ちゃんとも事あるごとに、絶対当選しよう。と誓いあった。 

俺と石田ちゃんはそれから毎朝学校の門の脇に立ち、石田昌之を宜しくお願いします! と叫んだ。 

更にそのあと各クラスを回って演説をした。 
クラスで一番秀才の石田ちゃんと、クラスを代表する盆暗の俺が一緒に活動してることがとても不思議だった。今までなら滅多に会話すらしない石田ちゃんと、俺は事あるごとに話し合いをした。明日の朝は裏門にしよう。明日は何組と何組に行こう。 
当選するために頑張ろう。 

励まし合った。 

クラスのみんなが俺に対して、明かに対応が変わってきていた。 
すごく嬉しかったし学校に早く行く事も苦ではなくなってた…。 

絶対当選したいね…。と、毎日石田ちゃんと話していた。 
トイレまで一緒に連れだっていった…。 

こうしてあっという間に投票日になった。 
立候補者が全員体育館で最後の演説を行った。 
全校生徒の前で一人一人演説した。 

こうしてあとは、開票を待つだけとなった。 

全校生徒が帰宅したあと、選挙管理委員会が開票を始めた。 
ある教室に集まり、会長、副会長…と、順々に開票し、当確者が確定していった…。 

そして遂に、書記の番になった。 

名前を黒板に書き出し、正の字をつけながら票数を数えていく。 

石田ちゃんは当初は票数が伸び悩んだが、途中から徐々に盛り返していった。 

大体当選ラインは350票前後だった。 
俺は票が伸びるのを祈った。 

そして…。 

黒板に信じられないものをみた。 

石田ちゃんの票数が380もあったのだ! 

俺は何回も何回もみた! 隣にいた五年生にまで確認した。 
やっぱり380超えだ! 

(やったーー!) 

俺は職員室に走り、担任の先生に、石田ちゃんが当選した事を告げた。 

先生は本当に嬉しそうに、 

『おめでとう! おめでとう!』 

と言って両肩を叩いてくれた。 
本当に俺も嬉しかった。 

先生は今すぐ石田ちゃんの家に電話をすると約束してくれた。 

俺は喜びを一旦封印し、再び選挙管理委員としての仕事をしに教室に戻った。 

あとは誰が当確するんだろう…。 

黒板を見た。 
黒板には当確者に印がつけられていた。 

処が…。 

石田ちゃんに当確印がつけられていなかった…。 

(あれ?何故だ?) 

もいちど黒板を見た。 
石田ちゃんの票数が280に訂正されていた…。 

さっきまで380だったのに! 

俺は集計してる人達を問い詰めた。 

『さっき四年二組の石田君が380だったじゃないか! なんでいま280になってんの!?』 

誰に聞いても、 

『うるさいなぁ!』 

『知らねぇよ!』 

と言われた。 

(何かの間違いだろ!? 一体どっちが合ってんの? 280なの?それとも380なの?) 

そう思った。でも…。 

数字が覆る事はなかった…。 

結局、四年生は今年も全滅だった。 
石田ちゃんは四年生の中では一番票数をとっていた…。 
でも、最早票数なんてどうでもよかった…。 

俺は職員室に行きたくなかった…。 
でも、行くしかなかった…。 
先生にどう説明したんだろう? 多分、一度見た時は380だったけど、さっき見たら280でした…みたいな事を言ったのだろう…。 

先生は残念そうに 
『そう…』とだけ言った。 

先生に言われたのか、それとも自主的だったのか、学校からだったのか自宅からだったのか、覚えていないが、俺は石田ちゃんに謝りの電話を入れた。 

『ごめん…』 

それしか言えなかった。 

『いいよ…』 

そう石田ちゃんが言ってくれた。 
でも、明らかに声のトーンは沈んでいた。 

暫く沈黙があった。 


俺は再び 
『ごめん…』 

と言った。 
また石田ちゃんも 
『…いいよ』 

と言った。 

こんなやりとりを数回やって、電話を切った。 

石田ちゃんに申し訳なくて俺は泣いた。 
もう少し結果がハッキリしてから行けばよかった。 
でもあの時石田ちゃんに当確印がついたから、一刻も早く伝えたくて…。 

俺の勇み足だった。 

石田ちゃん当確の報から一転、落選の報は、何人かが知っていたらしく、休み明けの月曜日に登校すると、何人かのやつに 

てめー!受かってねーじゃねーかよ!この嘘つき! 

嘘ばっかついてんじゃねーよ! と言われた。 
選挙活動期間中に話し掛けてくれたクラスメイトも、話し掛けてはくれなかった。 

俺は再びいつもの嫌われ者に戻った…。 

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