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今でも私の支え。犬のピピの物語(7)泣きべそ不安顔

Image by Olia Gozha

 この庭は、ちいさなピピにとっては、ちょっとしたワンダーランドだったでしょう。

 玄関から出たピピは、まず、東の庭のうえきばち隊をチェックします。

たくさんの小さなうえきばちは、花壇の縁(ふち)できちんと一列に並び、やや硬くなってピピ隊長を迎えます。
「や、おはよう! さむいね! でもげんきだね!」

 ピピ隊長は鼻のハンコをおしながら、隊員たちをすばやく確認していきます。

「きみもげんき。そうきみも! ああ、いそがしい!」
 それがすむと、こんどはピピは、国境の白いコンクリート(玄関アプローチです)をわたり、西がわへ踏みいれます。はい、ピピはなんだかとてもキマジメに、軍隊ふうに、ねっしんに行進するのです!


 ついにピピは、南西の、おおきな葉が茂るジャングルに到着しました。そこへ

「がさがさがさ」

 ともぐりこんだら、・・・・・あれ? ピピは出てきませんよ?

 ピピは・・・・、わたしでものぞきこむのが怖い暗がりに、全身すっぽりと入り込んで、いったい、なにをしているのでしょう・・・・・?


 しばらくののち、闇のジャングルから生還し、どことなく神妙な顔で西の庭の小道へでてきたピピに、わたしはにこにこと呼びかけました。
「ピピ! おいで!」 
 喜んでとんでくると思ったのに、あれれ? ピピはなぜか立ちどまりました。 

「へたっ・・」

 その場にすわりこみます。あれれれ? 

それからピピは、もういちど立って、でも頭を下におろし、まず、地面をかぐようなしぐさをしました。そのあと、どうしてだか上目でこちらをうかがいながら、やっと、しずかな足どりで近づいてきたのです。
「・・ピピ。よく来たねえ!」
 わたしはピピをほめました。そして、

(ピピにはしんちょうなところもある。かしこいのだ!)

と思いました。 わたしは、とても満足でした。

もちろん、ピピがうたがいもなく陽気にすっとんできても、わたしは同じように満足したでしょうけどね!


 


 

 ピピ。 ここに、二枚の写真があります。

 場所は玄関アプローチの階段で、わたしは、そこをおりたところにいます。

 はじめの写真では、ピピは、階段のいちばん上の段にいて、目が、とても小さなぎゃく三角形になっています。まゆげは深くひそめられ、そのぶんまわりの肉が顔から浮きあがって、そのどちらも、ぎゅっと下がっています。口は「へ」の字に、きつくむすばれています。それも、こわばったくちびるをたくしこんでいるのか、波がたの「へ」の字です。

 ピピは、泣きべその不安顔で座っています。首だけななめ前にせりだしていますが、白い両うでで「ぎゅっ」とふんばり、腰をひき、「ぺたっ」とおしりをつけて、階段にはりついています。

 ピピは、階段の大きな崖がこわいのです。
 崖は高く、高く切りたち、ピピはとても、とても小さくてたよりない。

わたしは階段をおりて、今にも行ってしまいます。ピピはひとりぼっちで、とりのこされてしまいます。小さなピピは、つめたい灰色のくうきに、ぎゅっと閉じこめられているのです。


 でも、つぎの写真を見てください。わたしは、もどってきました。だからピピはそのぶん、少し大きくうつっています。
 目は、あいかわらずのぎゃく三角形ですが

(ぽち・ぽち・)

 白いひかりの点がひとつずつ、くろいひとみの上のはしっこに浮かんでいます。まゆげも口も、もうそんなにぎゅっとや、がたがた波なみはしていません。ピピは、すこし希望をもったのです。
 ひいた腰やおしりの緊張感もゆるんだのか、まるい、しろいおなかがよく見えます。そこに、かわいいピンクのでべそがうつっています。じきにピピは大きくなって、このでべそも消え、崖の階段なんてまとめてひとっとびで抜かしてしまうことなど、今のピピには、思いもつかないのです。

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