小学校の三年二組で一緒になったとしあきとは、幼稚園からの付き合いだ。
体は小さかったがすばしっこいヤツで、坊主頭で、冬でも半ズボンで、いつもニコニコしていた。
友達と呼んでいいのかは分からない。
何故なら俺は幼稚園の頃からとしあきにちょっかいを出してたから。
としあきが幼稚園で作った紙工作を、俺は壊したりした。
それが母に見つかって、俺のも母に壊された。
これはまぁ仕方がない。
他にもちょいちょい悪戯をしたから、俺はともかくとしあきが俺の事を、友達だと思っていたかは疑わしい…。
俺自身としては、としあきは好きなヤツだったが、としあきの気持ちは分からないので、幼馴染みにしておく。
としあきの親父さんは、としあきが幼稚園の時に死んだ。
風呂から出てトイレに入った瞬間、ひっくり返って死んだのだそうだ。
母はよく
『お前、としあき君だけは虐めんじゃないよ!?』
と口を酸っぱくして言っていた。
そのとしあきと、幼稚園以来、一緒のクラスになった。
としあきとは、よく野球をやった。
三年二組の野球のメンバーに、よく俺も混ぜてもらってた。
一対一ではあまり誘いはなかったが、野球になるとよく俺も誘ってもらえたので、毎日でも野球がしたかった事を覚えてる。
ある日の事
クラスの中心人物である、エロ永徳夫(仮名)が嬉しそうにこう言った。
『そぉ言やぁよ、としあきのヤツ、前園と足立んちの家と家の間で、野グソしたんだぜ!?』
えー!? マジか!? みんなはとしあきのタレた野グソを見たい見たいと言った。
そして放課後、クラスメイト5、6人でとしあきのタレた野グソを見に行く事となった。
しかも、その列の先頭を行くのは、野グソをタレたとしあき本人であった。
としあきがみんなを引き連れて、野グソ現場に着たのだが、信じられないものを発見した。
『あーーっ! 野グソがなくなってる!』
としあきがタレたはずの野グソ現場には、くそなんかは跡形もなく、代わりに何故か、トウモロコシの芯が落ちていた。
みんな大爆笑だった。
お前、トウモロコシ丸ごと食って、芯だけ出したのかよ!?
としあきは、ただニヤニヤしてるだけだった。
またまたある日の事
としあきの家で誕生会が行われる事となった。
メンバーは、五人くらいだっただろうか…。
俺は母に、としあきの誕生会に行きたいと伝えた。
すると母は許しをくれた。
母は、こうじくんやとしあきといった、片親などの境遇の子には寛大であった。
恐らく、母も同じ境遇だったからかも知れない。
俺はプレゼントを持ってとしあきの誕生会に行った。
処があとからきた、西村栄という男と多羅尾孝則という男(ともに仮名)は、プレゼントも持たないで、おじゃましますも何も言わず、おう! ケーキ食わせろ! と図々しくとしあきんちのアパートに入ってくると、手当たり次第に食い散らかし、揚げ句にとしあきをぶっ飛ばして帰ってしまった…。
それからしばらくして、としあきの母ちゃんは再婚した。
としあきの名字は変わった。
でも俺達はとしあきの呼び方はとしあきだったから名字なんてどうでもよかった。
四年生になって、今度は俺が誕生会をやってもらえそうだった。
以前、勝手に誕生日に友達を呼んだら、ジュースしか出せなくて、プレゼントを持ち帰られて開催出来ない事があった。
母が今度は、アイスのケーキなら用意出来ると言ったので、としあきはじめ、何人かに声をかけた。
でも…。
誰もきてくれなかった…。
嫌われてるから仕方ないが、やっと出来ると思ったのに…。
俺は仕方なく、外に遊びに行った。
夜の七時近くまでほっつき歩いていたあと、自宅に帰ると、母から紙袋を渡された。
そこには手紙と、プレゼントが入っていた。
としあきからだった。
手紙にはこう書いてあった。
『◯◯くん。 お誕生日おめでとう。僕は風邪をひいて熱が出て誕生会には行けないけど、鉛筆と消しゴムを贈ります』
何ととしあきは、熱があるのにわざわざプレゼントを届けるためだけに来てくれたのだ。
母は俺に、アイスケーキをひと切れ持っていくように言った。
すぐに俺はとしあきの家に言ってチャイムを押し、おばさんに用事を伝え、としあきを玄関まで呼んでもらった。
会話は覚えてない…。
四年生最後の日、としあきは千葉に引っ越して行った。
みんなに、お前もついに千葉のいなかもんだな! とからかわれていた。
としあきは相変わらず、いつものようにニヤニヤとしていた。