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あの夏食べたかき氷(前編)

Image by Olia Gozha

うちの近所に、俺より一つ年上のこうじくんという人がいた。近所の大人達はこうじくんの事を 

『でぶちゃん』 

こう呼んでいた。 

こうじくんは異様にでかかった。体重もあったが身長もかなりあった。 
性格的にはハキハキしていて、礼儀正しくて、明るいタイプだった。 

こうじくんにはなっちゃんという妹がいた。

何歳だったか覚えてないが、なっちゃんも太目だった。 
何故この二人が太目だったのかは、後で知ることになるのだが…。 

当時俺の家の辺りでは、うちの隣に住んでいる二歳年上の『パンダ』が幅をきかせていた。 
それに従う一歳年上の『キリン』と『ピーナツ』という奴等もいた。(仮名ですが、リアルにこのあだ名でした)その中にこうじくんも俺も属していた。

全員小学校の登校班のメンバーである。 

従って俺はこのパンダグループの一員として一緒に遊ぶ事が多かった。

たが、このガキ大将のパンダが、鬼ごっこをやるにしてもドッヂボールをやるにしても、必ず俺が鬼になるように仲間で密談して、集中砲火を浴びせてくるので、喧嘩になって輪から抜け出す事が多かった。 

そんな中でこうじくんだけは決してそんな事はしなかった。 
俺はこうじくんと二人だけで一緒にいる方が楽しかった。 
そして、結構一緒に遊んでもらった。 


こうじくんは何故かいつも、お母さんの事を『おばちゃん』と呼んでいた。

理由も訊かなかったから意味が分からなかったが、何となく聞きずらかったような気持ちがある。 

ある時こうじくんが 

『◯◯ちゃん、ウチでプラモ作ろうよ』 

と誘ってくれた。

俺は不器用だから、プラモデルは好きじゃなかったけど誘ってくれてすごく嬉しくて、うん。と返事をした。 
近くの『なんでも屋』にいって、戦車か何かのプラモデルを買って、こうじくんの家に向かった。 

処がこうじくんは家には入らず、家の横の小さな物置を開け、そこでプラモを作ろうといった。 
今にして思えば、それはとても小さな物置で、子供二人が辛うじて入れるほどの大きさだった。 

何故、物置で隠れるようにしてプラモデルを作るのかなぁ…と思った。家の中に入れたくないのかなぁ? 
そんな事を一瞬考えたが、こうじくんがプラモの作り方を教えてくれたので、楽しかった事を覚えてる。 


ある日こうじくんが 

『三ノ輪のおばちゃんの所へ一緒に遊びに行こうよ』 

と誘ってきた。 
えー!? 三ノ輪まで!? と思った。 
三ノ輪のおばちゃんなる人は、上野公園に程近い、台東区三ノ輪で和菓子屋、甘味屋を営んでいた。 
こうじくんはお腹が空くと、自転車で一時間以上かけて三ノ輪のおばちゃんの所へ出掛けていたそうだ。 
それも、足繁く通ってたらしい。 

俺はあまりに遠いので行きたくなかったが、こうじくんの口説き文句に落とされてしまった。 

『おばちゃんの所へ行けば、かき氷とスアマを食べさせてもらえるよ?』 

な、何ィーー!? 

かき氷に、スアマ? 

『行く!』 

かき氷はともかく、俺はスアマなる物を知らなかった。

スアマってくらいだから、酸っぱくて甘いのかな? と思った。とにかくスアマが食べたい。頭の中がスアマでイッパイだった。見たこともないのに…。 

今、自転車で三ノ輪まで行けと言われたら、絶対に行かない! かなりくたびれるし、タクシーだって結構かかる距離だ。

何故か子供の頃って、疲れ知らずだった気がする。 

小学校三年の時も、自宅から埼玉県M市に住む従兄弟の家まで自転車で遊びに行ったが、20数キロある距離をよく自転車で行ったもんだと思う。 

話がそれたが、俺とこうじくんは自転車をカッ飛ばし、三ノ輪のおばちゃんちに着いた。 
こうじくんが 
『おばちゃん! かき氷とスアマちょうだい!?』 

といきなり言った。 

店内にいたおばちゃんらしき人がこちらを向いて 

『あらー! こうちゃんよく来たね! お友達?』 

と言った。 
うん。友達。おばちゃん、カルピスのかき氷ね? 

と言った。 
挨拶一切なし。かき氷とスアマの要求だけ…。 
おばちゃんは、氷を機械にセットすると、慣れた手つきでグルグルとハンドルを回し始めた。 
すると氷は真っ白な粉雪に変化し、下にある器へと落ちていく…。 
やがて器の中の粉雪は、ほとけさまのご飯のようにてんこ盛りになった。 
そこへおばちゃんが希釈したカルピスを振り掛けてくれた! 

俺は早くかき氷が食いたかった。カルピスのかき氷なんて食べたことなかったから…。 
そしてスアマも…。 

俺とこうじくんは四人掛けのテーブルに腰掛け、かき氷とスアマが運ばれてくるのを待った。 
すぐにおばちゃんが、お待たせー。と言ってかき氷とスアマを持ってきてくれた。 

早く食いたい! かぶり付きたくなる衝動を抑えて、俺はこうじくんが先に一口食べるのを待った。 
何か、こうじくんより先に食べてはいけないと思ったからだ。 

俺はこうじくんがカルピスのかき氷を口に運ぶのを見つめていた。カバみたいに大口を開けて、豪快に一口目を口に入れた。 
満面の笑みだ。 

それを見て俺もカバみたいに大口を開けてカルピスのかき氷を口に入れた。 
俺も満面の笑みだ。 

『うんめぇーー!』 

人生であれよりうまいかき氷を食べた事はない。言い切る! それくらい旨かった。 
そしてスアマ…。甘くて赤いお餅だった。 

こうじくんは、かき氷とスアマを平らげると、じゃあねーと言って店をあとにした。本当に食べにきただけだなぁと思った。 
だがこの行動も、実はこうじくんの生い立ちに深く関係している(と思う)のである。 

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