top of page

第33話 パパが女(アリッサ)になったとき LA発LGBTトランスジェンダー家族日記

Image by Olia Gozha

第33話 女になっていくアリッサ4 「服を縫う女事件」後半


はじめてのコスプレコンテスト。左のかたが最優秀賞を受賞しました。歌唱力抜群

 

 

 

「服を縫う女」こと、アリッサ。アリッサの手縫いのドレス。とても上手にできました。

 

 



「ないなら作る」はわたしの母、高山菊江の座右の銘。昔、高山家が貧乏をしていた頃、わたしや姉がほしがる物を、母は買わずに作ってくれました。不器用な母が作る、ちょっぴり不細工な手作り作品。うれし恥ずかし母の思い出。

 

さて、今回は「服を縫う女事件」の続き。

 

 

44歳にして、コスプレデビューを果たし、数々のコスプレイベントに参加。あげくの果てには初のコスプレコンテストに臨むことを決意したアリッサ。

 



アリッサが参加したのは、わたしたち家族の住むカリフォルニア州トーランス市で開催されたSuper Dimension Convention。これは日本のアニメ、「マクロス」に焦点を置いた、マクロスファンの、マクロスファンによる、マクロスファンのためのコアなアニメイベント。アリッサは「シェリル・ノーム」というキャラに変身することを決めました。

 



完璧主義者のアリッサ。シェリルになりきるためのコスチュームやアクセサリーをすべて揃えたものの、肝心のドレスがどうしても手にはいらない。そこで辿り付いた解決策:「ないなら作る」。

 

 

アリッサが「ドレスを作る」宣言をしたとき、わたしは鼓舞激励しました。我が家にはミシンもあるし、コスト削減になるし、「高山菊江に続け!」の素晴らしいアイデアだと思いました。

 


ところがどっこい、そうは問屋が下ろさない。アリッサが取った行動は、わたしに内緒で、娘たちが通っていた裁縫教室のりか先生にコンタクトを取り、りか先生にドレス作りの手伝いを依頼したこと。

 

 


「『パパからテキストがきて、ドレスを一緒に作ってほしい』ってお願いされましたけど」とりか先生からのテキスト。



りか先生が最後にアリッサに会ったのは、カミングアウト以前。アリッサがまだパパだった頃のこと。

 

 

アリッサに「トランスジェンダーのこと、説明したの?」と聞くと「まだしてないけど、どうしよう?」とアリッサ。

 

 

「どうしようじゃないでしょ! 娘たちの気持ちも考えないでまた勝手なことして」と思いました。

 


この時期の娘たちは、アリッサのトランジションを受け入れ、応援してはいるものの、「できるなら自分の周囲の人たちには知らせたくない」。「知られたら恥ずかしい」というのが正直な気持ち。

 

アリッサの無神経さに、一瞬イラッとしたもの、カミングアウトから2年たち、わたしの肝はすっかり座っていました。

 


娘たちに承諾を得た後、りか先生にはわたしから事情をきちんと説明。

 



「だいじょうぶですよ、なんとなく気付いてましたから」とりか先生の優しいお言葉。

 

 

「やっぱり気付いてたんだ。まあ、これで一件落着」。

 


と、思いきや、それだけで事は終わらなかった。

 

 


コスチュームコンテストで競われるのは衣装だけじゃない。衣装以上に舞台でのパフォーマンスがものを言うのです。普段から内気で大人しいアリッサが次に出た行動は、娘たちのダンスの先生に連絡を取り、マクロスの挿入歌に合わせた振り付けの指導を依頼すること。

 

 


裁縫のりか先生とまったく同じパターン。ダンスのみゆき先生だって、アリッサのカミングアウトのことまったく知らない。みゆき先生はアリッサに一度も会った事すらないのに。

 


もう破れかぶれ。またまた娘たちの承諾を得て、ダンスのみゆき先生にも事情を説明。みゆき先生も 快く引き受けてくださり、お忙しいスケジュールの合間を縫って丁寧に指導してくださいました。

 

 

こうして臨んだ初のコスプレコスチュームコンテスト。入賞には至らなかったものの、アリッサは初舞台で堂々とつややかにシェリルになりきることができました。

 


「コスプレって、衣装だけじゃなく、キャラの気持ちになりきれるのが魅力。舞台役者と同じよね」とアリッサ。はい、よかった、よかった。よかったね。

 

 

服を縫う女事件。このストーリーでわたしが学んだ事。

 

1、コスプレはお金がかかる

 

2、コスプレコンテストに参加するのはもっとお金がかかる(衣装代プラス、先生がたへのお礼)

 

3、「ないなら作る」は時としてお金がかかる

 

4、娘たちは案外、アリッサのカミングアウトに対してオープンになりつつあるのかもしれない(「同世代のお友達に知られるのは恥ずかしい。けど、まわりの大人し知られるのはまあ、いっか」みたいな。

 

5、アリッサは能天気。

 

6、彼女にとってやはり、「約束は破るためにあるもの」。だって、カミングアウトしたときの約束、「無駄遣いしません」、すっかり忘れてるし。

 


次回はシリーズ第4弾、「チケットをねだる女事件」。カミングアウト約1年後の暗黒時代のお話です。

 

シェリルさん。シェリルを選んだ理由は「彼女の性格に惹かれたから」。

 

 

能天気の美人さん

 

 

 

別のイベントで、またシェリルに。この衣装は買いました。

 

 

なりきってるし。娘が撮影。

 


PODCAST

​あなたも物語を
話してみませんか?

Image by Jukka Aalho

高校進学を言葉がさっぱりわからない国でしてみたら思ってたよりも遥かに波乱万丈な3年間になった話【その0:プロローグ】

2009年末、当時中学3年生。受験シーズンも真っ只中に差し掛かったというとき、私は父の母国であるスペインに旅立つことを決意しました。理由は語...

paperboy&co.創業記 VOL.1: ペパボ創業からバイアウトまで

12年前、22歳の時に福岡の片田舎で、ペパボことpaperboy&co.を立ち上げた。その時は別に会社を大きくしたいとか全く考えてな...

社長が逮捕されて上場廃止になっても会社はつぶれず、意志は継続するという話(1)

※諸説、色々あると思いますが、1平社員の目から見たお話として御覧ください。(2014/8/20 宝島社より書籍化されました!ありがとうござい...

【バカヤン】もし元とび職の不良が世界の名門大学に入学したら・・・こうなった。カルフォルニア大学バークレー校、通称UCバークレーでの「ぼくのやったこと」

初めて警察に捕まったのは13歳の時だった。神奈川県川崎市の宮前警察署に連行され、やたら長い調書をとった。「朝起きたところから捕まるまでの過程...

ハイスクール・ドロップアウト・トラベリング 高校さぼって旅にでた。

旅、前日なんでもない日常のなんでもないある日。寝る前、明日の朝に旅立つことを決めた。高校2年生の梅雨の季節。明日、突然いなくなる。親も先生も...

急に旦那が死ぬことになった!その時の私の心情と行動のまとめ1(発生事実・前編)

暗い話ですいません。最初に謝っておきます。暗い話です。嫌な話です。ですが死は誰にでも訪れ、それはどのタイミングでやってくるのかわかりません。...

bottom of page