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A子ちゃんのお母さんのこと

Image by Olia Gozha

 A子ちゃんのお母さんのこと

 

 雲の上で、神様がつぶやく。

「AとBは出会った。愛子よ、もどってくるのだ」

 

 アイスコーヒーを飲みながら、愛子ちゃんの遺影を眺めるヒデキ。大学時代の愛子ちゃんを思い出す。

 

(回想)

 喫茶店で、愛子ちゃんが言う。

「こうやってミルクを入れると、キレイでしょう」

 

 カレー屋さんでカレーがはねて、服にとんだ。

「うちに来て。シミを落としてあげる」

 押入れには“ウェストサイド物語”のポスターが貼ってあり、押入れを開けたら段ボールにパンツが並べてあった。愛子ちゃんは、慌てて

「見ちゃダメ」。

 と、閉める。

 

 映画館を見に行った帰りに、パンフレットのコメントを見てヒデキが言う。

「これは違うよな」

 愛子ちゃんは

「言うこと分かる気がする」

 と言った。

 

 ミニスカートをはいている時に、ヒデキが

「意外と太ももが太い」

 と言ったら、

「そうなの。気にしているのに!」

 と怒る愛子ちゃん。

 

愛子ちゃんは、ヒデキより3歳年上だった。

スーパーマーケットがあった。そこで、マヨネーズを買う時に

「私の彼は、キューピーより味の素が好きなんです」

 と言った。なんで、そんなことを言うのか分からなかった。

 荷物が多いのでヒデキは、愛子ちゃんの下宿まで運んであげた。

 

 ヒデキは、ある日、街中で愛子ちゃんが知らない男と歩いているのを見た。また、別の日に下宿を訪れたら、部屋から男の声がした。遠くの道から傘をさして(雨が降っていた)覗いていたら、愛子ちゃんが男と一緒に出てくるのが見えた。

 

数日後、ヒデキは愛子ちゃんを問い詰めた。

「あっちでも、こっちでもこんなことをしているのか!」

と怒った。愛子ちゃんは、たまらず下宿から飛び出して走り出した。ヒデキは追いかけた。

 

愛子ちゃんを信用できないヒデキは、愛子ちゃんの留守中に彼女の日記を読んだ。そこには、前の彼氏と結婚する決意が書いてあった。彼女に、日記を無断で読んだことを告白しても怒らなかった。ヒデキは、愛子ちゃんに自分は弄ばれているのか尋ねた。

 大喧嘩になり、ヒデキは

「中古車より、新車がいいに決まってるだろう!」

 と、叫んだ。

 

 結局、愛子ちゃんはヒデキの方を選んだ。それで、もと彼の持ち物を全て捨てさせた。愛子ちゃんは

「ヒデキくんと出会って、初めて女であってよかったと思った」

 と言った。

 

 彼女と能登半島を旅行した時、兼六園で老夫婦に写真を撮ってもらった。その老夫婦は

「新婚さんですか」

 と尋ねてきた。愛子ちゃんがお土産を買っているので、誰のために買っているのか尋ねたら

「同じクラスの男の友達に」

 と言った。ヒデキは不機嫌になり、帰りの電車でそのお土産を踏みつけた。

 

 愛子ちゃんの下宿で、ヒデキは談笑している。

「健康診断のときに技師の人に、お乳が大きいと言われた」

 と言う愛子ちゃんに、ヒデキは不機嫌だった。

 でも、ヒデキは愛子ちゃんが好きだった。

 

 愛子ちゃんは、卒業を迎えた。ヒデキは、大学院に進学し、留学を夢見ていた。愛子ちゃんは、故郷にある養護施設で働き始めた。

 彼女が免許を取って、ヒデキはチャリンコ。歳の差を感じた。

 そんな時、ヒデキは留年した。両親は心配した。ヒデキが同窓会で、無断で外泊したら

「悲観して、自殺したのではないか・・」

 と、騒ぎになった。母親は泣いていた。留年は、愛子ちゃんのせいではなかったけれど、ヒデキは自分を責めた。

 そこで、ヒデキは愛子ちゃんに言った。

「ごめん。もう会えない。大学生のボクには愛子ちゃんは重過ぎる」

結局、別れることになった。好きなまま別れるしかなかった。

「もっと大人になって、縁があったらその時に」

 という別れ方だった。ヒデキは、愛子ちゃんの家の人に怒鳴り込まれるような気がした。

でも、愛子ちゃんが、家族を説得し、納得させたのだろう。何もなかった。愛子ちゃんは、そういう女性だった。

その後、ヒデキを心配した両親が留年中の夏休みにアメリカ旅行に行かせてくれてヒデキは、英語と数学を教える講師になった。

 

 30歳の頃、ヒデキも愛子ちゃんも同じことを考えていた。

「連絡がないなぁ・・・。もう過去の話として忘れているんだ」

 

ロンドンで英語の勉強をする愛子ちゃん。アメリカで中学教師をしているヒデキ。旦那様とケンカしている愛子ちゃん。家庭裁判所で離婚調停中のヒデキ。

 

 10年経過。

 

 ヒデキはバツイチになって、愛子ちゃんのことを思い出した。幸福な結婚をしているなら、それでいいと思っていた。それで、形だけの年賀状を出した。

そんなある日、突然ヒデキの携帯電話が鳴り

「私、大学時代に知り合いだった愛子と申します。年賀状を受け取って電話をしているのですが、私が誰だかお分かりになりますか?」

 ヒデキは、思わず、

「愛子ちゃんなの?今、幸福か?」

 と叫んだ。すると、電話の向こうで泣いているのが分かった。20年経っても気持ちが同じであることが、一瞬にして分かった。

 それで、連絡をとり20年ぶりに待ち合わせをした。二人ともバツイチで、愛子ちゃんにはA子ちゃんという娘がいた。ヒデキには二人の息子がいた。講師という職業まで同じだった。

2人は、20年間の空白を埋めるかのように、いろいろと話をした。愛子ちゃんは、

「ヒデキにとって、私はどういう存在だったのか気になっていた」

 と言った。20代にもどったように、二人は子供を学校に送り出した後、一緒に映画に行ったり、食事をしたりして語り明かした。一緒にプールに行ってはしゃいだ。

 そんな時、愛子ちゃんは

「処女をあげられず、子供も産んであげられず、ゴメンね」

 と言った。

 

 授業をしているヒデキ。

「モノを投げるとね、こんな数式で表される放物線を描いて飛んでいく」

「ネックレスをかけると、高校で習うカテナリー曲線を描くんだよ」

「それって、この世の全ては数式で表現できるってことですか?」

「そうかもしれないね。この世界は、誰かが大きなグランドデザインを描いて作り上げた可能性もある」

「神様?まさか(笑)」

 ヒデキは、窓から空を見ながら、つぶやく

「愛子ちゃん、こんなことがあるんだね。早すぎるよ・・・」

「A子ちゃんは、もうあの頃のボクたちより年上だから大丈夫。でも、もっと一緒にいたかった。ひどいよ、愛子ちゃん」

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