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純情ホスト③ 生活困窮編③

Image by Olia Gozha

キャッチから店に戻れば、その頃の私にとっては日常・・・

経験が無い方からみれば非日常の仕事が始まる。

 

ブラックライトで照らされた店内に響き渡るユーロビート。

テンポの早い曲に包まれながらの酒は酔う・・・。

 

その頃は、仕事だという理由をつけてとにかく飲んでいたが、今となればわかる。

現実逃避をしていたのだという事が。

 

自分の納得いく経験を出来ないまま夜の世界から退場するか・・・。

ここでミラクルを起こして継続するか・・・。

 

自分の目標も明確に描かないままに、ただただ行き当たりばったりの行動していた・・・。

 

 

店が終わり、一度寮に帰って寝る。

起きてからTに電話をかけた。

正直、その頃の電話は何を話していたか覚えていない。

 

あきれるほど内容が無い事を話していたのだろう。

・・・Tに対してトキメキをもって電話をしていたわけではなかったからかもしれない。

 

とにかく、夜ご飯を食べに行く約束をする事ができた。

 

しかし自分から声をかけておいて・・・

自分から食事に誘うようなそぶりをしておいて・・・

最終的な着地点はご飯を奢ってもらうという話で着地した。

 

今思い返しても、ダサい・・・

よくそんな着地ができたなとその頃の自分にしみじみ言ってあげたい。

背負い投げをかけられたと思ったら、逆に三角締めで相手を落とす感じだ。

 

まぁ・・お金がないアピールをしていたからであろう。

実際・・・無かった。

 

翌日、夜の21時頃に以前キャッチしたところの近くで待ち合わせをした。

 

Tの職場の場所も別に聞いていなかったが、自分の働いている店が近いため都合がよかったからだ。

 

店の近くにあった、何度か行った事がある店内が少し薄暗い居酒屋へ入った。

そこの居酒屋は薄暗く、半個室で距離を縮めるにはなんともちょうどいい雰囲気だったからだ。

 

薄暗いと、お互い緊張も和らぐ。

ほどよい緊張感の中でなんでもない会話をする事により、安心感を与えたかった。

 

出会い方がキャッチなので出会い方のマイナスを少しでもなくしておきたかった。

 

 

話の全体の雰囲気を探ると、Tが自分に興味をもってくれている感じが伝わってきた。

まぁ、そうだろう。

キャッチしてきたホストの話を聞いてくれて、ご飯の約束も守ってくれて、

さらにご飯を奢ってくれるのだから当たり前と言えば当たり前かもしれない。

普通だったらノーサンキューだ。

 

話の中で、前の彼氏の話になったが、

以前の彼氏は殴ったりしてくるタイプだったみたいだ。

 

ホストをやっていると、正直その手の話はよく聞いた・・・

あえて批判を恐れず言うと、殴りたくなるような女も確かにいた。

 

嘘ばかりつく。

 

ツケで飲みまくって、音信不通になる。

なのに、平気で他の店で飲んでいたりする。

 

逆にホストが惚れてしまって、惚れてしまった女の子(本気の彼女)が他のホストで飲みまくっていると人づてに聞く。

本当の嫉妬、プライドを傷つけられた事から手が出る、という話もあった。

酒が入っていれば尚更だ。

 

だが、Tはどのタイプにも属している様には感じられなかった。

話から推測する限り、Tは気が弱く押しに弱そうだ。

少し強く言われると言う事を聞いてしまいそうな感じがした。

 

多分、以前の彼氏は自分の言う事を聞かせる為に女を殴れる様な男だったのだろう。

殴るという行為に金銭的な目的も感じられた・・・。

 

 

さすがにそれはちょっとヒドイので単純に

「それはヒドイな・・・。」

と本心で言っていただけだが、意図せず元彼と比較して、私が悪い人間ではない様な感じにはなっていった。

 

T「K君って、彼女いないの?」

私「いやー、それどころじゃないんだよね~。」

 

・・・今思い返しても突っ込みどころが満載だ。

それどころじゃないやつが、何をやっているんだ?

ハローワークに行きなさい!

という話になる。

 

まぁ彼女はいてもいなくても返事は「いない」だが。

 

最終的には、その日はキャッチという出会いの警戒心を少しでも無くせたように感じた。

そして、久しぶりに食べたいものを食べた・・・・。

 

店の営業が始まる時間がせまり2人の食事会はおひらきとなった。

 

T「今日はありがとうね!」

私「いやいや、こちらこそ。久しぶりにちゃんとしたご飯食べたよ(笑)」

 

私「じゃあ、店に行くから。またね。」

T「うん、またね!」

 

Tに別れを告げ、店へと向かう。

 

この出会いがホストの自分にとって何か有益な結果にならなければ、使った時間の全てが意味をなさなくなる。

・・・いや、一応一食分は浮いたともいえる・・・。

 



私「頼む・・・・。なんとかなってくれ・・・。」

 

道中、誰にも聞こえない様につぶやく自分がいた・・・。

 

 

 

きらびやかで派手な世界に憧れて飛び込んだ水商売。

そのきらびやかに見える光に照らされて出来た影の中で、見苦しくダサくあがく自分がいた。

 

影のまま終わるのか・・・

自分が理想とするきらびやかな光に照らされる舞台へ上がるのか・・・

 

 

結局その世界に数年、身を置いて分かった事は。

影はなくなる事はないという事だった・・。

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