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落とした餃子 小3子どもたちとの約束

Image by Olia Gozha

小学3年生の給食の時間の出来事。




私は採用試験を経て教員になった2年目で、受け持った児童は小学3年生37人。



実は、1年目に受け持った小1のクラスで学級崩壊を経験し、そのクラスを何とか何とか立て直し、その翌年度ということで、また同じ過ちを繰り返しはしないのか、また学級が崩壊しないのかと、新年度、新しいクラスの子どもたちと出会うまで、いえ、出会った後も、しばらくはどきどきどくどくしていました。



蓋を開けてみると、前年度に学んだ学級経営の技が生かせたからか、息が合う子どもたちだったからか、金曜日になると子どもたちと



「明日も学校あったらいいのにな~」



なんてことを、言い合うようなクラスになっていました。





そのクラスでのある日の、給食の出来事。





私は常々、子どもたちと一緒に、子どもたちの机で給食を食べていました。


その日は、教室の一番後ろの班の子どもたち6人に混じっていました。


給食の、メインディッシュは餃子。




その班の一人、○し君は、餃子が大好き。


しかし、なんということか、○し君は、その餃子をほお張ろうとしたその瞬間に、餃子を床に落としてしまったのです。


さっと拾う○し君。そして、ほこりにまみれた餃子をほお張ろうとする○し君。



「ちょっと待ったーーーー!」と、私。


「今、餃子落としたよね?ほこりまみれだよね?それ食べたら、お腹壊すよね?それはもう食べないようにしよう」



○し君は言います。


「僕、餃子が大好きなんです。どうしても食べたいんです」



私、「じゃ、今日、お母さんにリクエストするっていうのはどうかな」



○し君、「うちの家では、餃子は2週間に一度と決まっているんです。昨日、餃子だったから、あと2週間待たないと、大好きな餃子が食べられないんです。だから、この餃子、どうしても食べたいんです!!!」



○し君の言葉に、思わず笑顔になった私は、ここで、時間にしたら1~2秒くらいのことですが、頭の中で二人の自分が話し合っていました。



(こんなに、食べたいんだから、食べさせてあげていいんじゃない?)と、思う私と、



(いやいやいやいや、担任の私の目の前で落として、それを拾って食べたら、それは指導しないとねぇ~、それを食べさせるのはいくらなんでもなしでしょう~)と、先生らしいことを考える私と、



(大好きなものを2週間も食べられないって、かわいそうだよね~)と、また思う私と



(これで、お腹壊してみぃ、担任が見てて指導しないって、そりゃぁ、大問題やわな。保護者から苦情来るなぁ・・・)



と、ここまで、考えて、



(結局、保身か・・・ ごめん、○し君、食べたい気持ちは分かるが、勘弁やで、やっぱり食べてお腹壊して、保護者から苦情来たら困るから、食べるのはあかんわ)



という、思考の元、



私、「○し君、食べてお腹壊すかもしれないから、食べないように。その代り、先生があなたに餃子買うわね。ご馳走するわ。それで、どう?」


とっさに、私はそんなことを言っていました。



○し君、「やったー!先生、僕、この餃子食べません!先生に餃子買ってもらえる♪」



と、それを聞いた同じ班の子たちが次々と、自分の餃子を落とそうとするじゃないですか!!!



私、「待って、待って。わざと餃子落とすんなしね。」



○し君と同じ班の子たち、「私も先生の買ってくれる餃子食べたい」「僕も、先生の餃子食べたいから、この餃子落とす!!!」



私、「分かった!この班、みんなで餃子食べに行こう!」




今度は、それを聞いたクラス全体が次々に餃子を床に落とそうと・・・。



私、「待って、待って。みんな、分かった。分かったから、餃子落とさないで!クラスみんなで食べに行こう!でも、今すぐにって訳にはいかないから・・・・・・そうや、小学校卒業のお祝いに、餃子パーティーしよう。クラスみんなで!」



クラス全体「イエーーーイ!」


そして、クラスが、一致団結して、どこからともなく歌声が・・・。


「♪卒業祝いは餃子パーティ♪卒業祝いは餃子パーティ♪」




あまりに嬉しかったからか、子どもたちは、何度も何度も歌っていました。そして、その興奮した歌声に、他のクラスの子たちが、何の騒ぎかと見に来る始末。




「♪卒業祝いは餃子パーティ♪卒業祝いは餃子パーティ♪」




それ以来、ことあるごとに、


「先生、卒業祝いは餃子パーティやで。」


「餃子パーティー忘れんとってな」



と、子どもたちに言われ続け、


翌年の担任は、別の学年になったけれども、


廊下ですれ違うたびに、



「先生、♪卒業祝いは餃子パーティ♪卒業祝いは餃子パーティ やで」


(なぜか、『卒業祝いは餃子パーティ』の部分は、常にみんな歌う・・・) 



と、念を押され続けました。




結局、私は、子どもたちの卒業を待たずに、夫の国オーストラリアへ移住。





この年、担任した子どもたちは、オーストラリアへも年賀状や近況報告をちょくちょくお手紙で送ってくれました。





さぁ、いよいよ、子どもたちが小学校を卒業します。




あれだけ子どもたちがうきうきした餃子パーティー、


卒業祝いの餃子パーティーをしなければ、教員失格。





残念ながら、子どもたちの卒業式には間に合いませんでしたが、あの頃の3年生が3年経ち、卒業した年の6月に日本に帰りました。




卒業祝いの餃子パーティーします~、全員集合~、の私の掛け声で、


なんと東京に転校してしまっていた子も新幹線を乗って地元まで帰ってきてくれ集まり、


30名を超える子どもたちと、卒業祝いの餃子パーティをしました。




場所は、校区内にあった「餃子の王将」。


30名を超える子どもたちが、それはもう食べる食べる。




「餃子食べ放題~イエーイ」


と中学生の男女が、みるみるうちにお皿を平らげていきます。




「餃子10皿追加で~」


「こっちも、お願いします~」




お財布に忍ばせた万札で足りるのか、ちょっと不安になりながら、


餃子を食べる子ども達の笑顔に私は大満足。




教員していてよかったな、


このために、日本に帰ってきてよかったな


と、心の底から思いました。




結局、30名を超える中学1年生の男女が餃子やチャーハンを食べつくしたのですが、


4万弱で収まり、お会計も無事終了。




私は、3年越しの約束を果たせたこと、


子どもたちにまた会えたこと、


部活動や塾で忙しい子ども達が時間をやりくりして、


中には東京からも会いに来てくれたこと、


もうすべてに感謝で、感動。




3年も前の担任のことをまだ、覚えていてくれたことにも感謝。


学級崩壊を経験した直後に受け持った子ども達で、私自身、教員続けられるのか、自分の中でドキドキしていた中で、私を受け入れてくれた当時の小学校3年生。


感謝しても、しきれません。




現在、オーストラリアで小学校の教員として働けていることも、


気が付けば日豪トータル教員歴が14年経ったことも


あのときの3年2組のみんなのお蔭です。





毎日毎日、本当に楽しかった!


週末なんて、なくっていいって思ったよ。




そんなみんなも、もう20歳なんだね。


成人式おめでとうございます。


また、餃子でお祝いかな。(←せこいか?)




今思えば、あの餃子パーティーに、保護者の付き添いもなく、子どもたちを送り出してくださった親御さん方にも大感謝です。中には、感謝の手紙をくださった保護者の方やお礼にと子どもと選んだコップですとくださった方もあり、私はなんて恵まれているのだろうと、思います。あのいちごのコップ、今では、5歳娘のお気に入りです。




♪卒業祝いは餃子パーティー




10年以上たった今でも、子ども達の顔が目に浮かびます。教員という職業の楽しさを教えてくれてありがとうね。





























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