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鏡の自分を見て泣いた時から、違う人生が始まった話

Image by Olia Gozha

●きっかけは、自信のない自分 その本との出会いは、ある夏の日の昼休みだった。 コンビニで買ってきた食事を食べながら、いつもどおりに何となくネットを見ていたところ、とある記事にたどりついた。 恋愛や結婚をテーマに、数人の会話という形で書かれている記事で、当時 独身で彼氏もいない自分にとって、ひそかに興味津々の内容であった。 読んでいくうちに、その記事のなかで紹介されている本のことが、猛烈に気になってきた。それは、「理想の結婚相手を引き寄せる」というテーマであったこともひとつだが、何よりひっかかったのは、次のキーワードだった。   『根拠のない自信を育てる』   根拠のない自信・・?え、なにそれ? 根拠なくて、良いわけ・・?  ***** 話は変わるが、私は自分が「運の良い」人間であると自負している。中学受験のときも、大学受験のときも、模擬試験の結果ではおよそ縁の無いレベルの「記念受験」校になぜか合格し、親や先生もびっくり、何より自分もびっくり。 転職活動をしようと決めた際にも、手始めに・・と参加した、ちょっと憧れてた会社のキャリア入社向け説明会から、トントン拍子で面接が進み、内定。あまりの順調さに怖くなったくらいだ。 色々な場面を幸運で乗り切ってしまうのは、恵まれている反面、こんな弊害もあった。 常に、自分が場違いな気がしてしまうのだ。 学校での成績は低空飛行、会社でも周囲のデキる方々に圧倒されるばかりで、いつも自分の技術力や人間力の乏しさを隠すのに必死だった。  そんな日々を過ごすうちに、 「運は良いけど実力のない自分、中身のない自分」 ・・というセルフイメージが、自分の中に確立されてしまっていた。自分という人間が、砂上の楼閣であるかのような感覚だった。 
何かを発言する際にも、「それ、間違ってるんじゃないの・・?」という内なる声が聞こえてきて、黙って様子を伺うようになっていった。自信にあふれて活躍している 同僚や友人のまぶしさは、年を追うごとに増していった。 何かひとつでも核になるものができれば、自信を持てるのではないか、と思って資格を取ってみたり習い事に精を出してみたりもした。しかし、当たり前だが どの世界にも更に上のレベルがあって、自分の中途半端さを余計に感じるだけだった。  そんな私にとって、『根拠のない自信』というキーワードは、軽い衝撃だった。  読んでみたい。  会社がえり、家の近くの本屋に寄った。  その本はすぐに見つかったが、、、レジに行く勇気が出ない。 なぜって、タイトルがかなりベタなのだ。  レジには若い男性と女性がいた。  「あら・・この人、すごく結婚焦ってるのねw」「えーやだ、こんな本、ふつう恥ずかしくて買えないよね?w」「おいおい、自分をわきまえろよ?」「そこまで結婚苦戦してんだな・・。」「かわいそうw」  ・・という、購入時シミュレーションが自分の中で勝手に繰り広げられ、自分で生み出したレジ係の人のセリフに打ちのめされそうになった。動機も激しくなってきた。あきらめて、このまま、置いて帰ろうか・・。     でも、やっぱり、読みたい。自分が変われる、チャンスかもしれないんだ・・  かなり長い間、表紙を隠しながら店内をうろうろした挙句、周囲に知人がいないことを伺って、意を決してレジに向かった。  レジの人が、何か思ったかどうかは知る由もない。しかし、何とか、買うことができた。逃げるように本屋を出て、しばらくは別の本屋を使おうなどと考えながら家に帰った。 

●自分の殻を破れない 家に帰り、期待でドキドキしながら本を開いた。 Web記事で紹介されていた本は、実は著者の2作目だったので、前作も一緒に購入。初めから読んでいった。 1作目は、著者が幼い頃に聞いたお金持ちマダムからの話や、お金がない所から様々なチャレンジ、努力をして成功をつかんでいった話。そこには、今まで誰からも聞いていないようなことばかりが書かれており、目から鱗が「これでもか」という位落ちていった。著者の成功を疑似体験したような気分になり、テンションがあがり、フワフワとした気持ちになった。 そしていよいよ「実践編」と銘打たれた、本題の2作目。1作目で書かれた内容とはまた異なる切り口で、お金持ちに好かれる髪型、服装、アクセサリー、メイク、マインド、言葉遣い ・・・ などなど、レッスン風に綴られていた。より具体的に、どういった商品を使う という例も書かれていて、参考になる。  ところが、いざ読み終えてみると・・  何というか よそよそしい違和感を感じていた。   実践編だから、そのとおりに実践しなくては意味がない。  ・・しかし、どれを見ても、 「えー?そんな事するの・・?ホントに意味あるの・・?なんか、まゆつばー」とか「いや、私の場合○○だから、これはちょっと・・」とか「そんなこと、言われてもね~・・」とか 何かしら障害があって行動に移せないのだ。まぁやってみようかと取り掛かってみたものも、心の底から信じてないため、続かない。  今振り返れば、これらの本は 成功をつかむためのハウツー本を「お金持ちと結婚する」という目標に沿ってアレンジし、分かりやすく伝えてくれている内容だった。しかしその当時は、成功者についての話を聞いたこともなかったし、成功のためのハウツー本や「引き寄せ」のようなスピリチュアルの類の本も読んだことがなかった。「面白い」とは感じるし、読んでいる時はワクワクするものの、いきなり実践するには世界が違いすぎたのだと思う。 もともとこの本を買うきっかけとなった『根拠のない自信を育てる』というのも、結局は、今の自分がそのままで存在価値があるのだ ということを自分で認められるように、自分を大切にできるように、アファメーションを唱えるということだった。 「アファメーション」という手法の存在さえ知らなかった私は、本の中で「まず口癖を変えることが重要!」と書かれていてもピンとこなかった。それどころか 「はぁ?なにそれ」 と思ってしまい、恥ずかしくて続けられなかったのだ。   そのうち、次第にテンションも下がっていき、本を開くこともなくなってしまった。   言い訳ばかりで何も行動しない、典型的な例だ。 あたりまえだが、何も変わらなかった。 
 ***** それまで、私は10年以上 同じ髪型、同じようなファッションだった。 ストレートの黒髪をアップにしたそのスタイルは、束ねてちょちょっと止めれば完成!寝癖がついてもノープロブレムで朝の支度が非常に楽だった。 服は、汚れが目立たない、色の濃いもの。ひらひら、ふわっとした女性らしい感じが苦手で、でもパンツスタイルのようなキリっとしたのも苦手で、とくに特徴もない感じでまとめていた。 自分の野暮ったさには気づいていたものの、このスタイルが 強固なコンフォートゾーンを形成しており、かわいらしくおしゃれを楽しんでいる友人を羨ましく思っても、どうしてもそのゾーンの境界を踏み越えられなかった。 また、自分はおしゃれが似合うような性格ではないし、かわいらしい恰好なんかをしたら、周囲から奇異の目で見られてしまうだろうと決めつけていた。 恋人でもできて浮かれてるのか?なんて陰で笑われたら・・うーやだ、恥ずかしい!自意識過剰だよ、と自分を諫めるも、やはり他人の目が気になって仕方ない。   そして結局 今回も、自分の殻を破ることはできなかったのだ・・。  
●鏡の自分に驚いた 本を買ってから何も変わることなく半年くらい経ち、次の年の春になっていた。 30代半ば、彼氏いない歴も10年以上。新しい出会いの機会も乏しく、現在の延長上に自分が結婚できるイメージは持てなかった。  そんな折、親戚筋からお見合いの話が舞い込んだ。前のめりになるほど興味をひかれた訳でもないが、特に断る理由もない。ずっとトボトボと歩き続けているトンネルから外に出られるきっかけになればという思いもあり、お会いしてみることにした。  しかし、困った。  お見合いって、どんな格好で行くの???   今回は本人同士のみでお茶をするというラフなスタイル。とりあえずネットで検索してみた所、ちょっとおしゃれをした格好であれば良さそう。  いやしかし、「ちょっとおしゃれ」って!持ってないし、そんな服!  そんなわけで、慌ててデパートに買いに行った。ワンピースは何だか敷居が高く、結局 カジュアルな雰囲気のベージュのスーツを購入。  当日は、春一番のような生暖かい強風が吹いていた。お見合いの場では、失礼はないか、マナーはおかしくないか、下品でないか、がっかりされてないか、、、などなど、緊張しっぱなしだった。しかし、何とか和やかな雰囲気で会話を進められた。 お茶の後、近くの美術館へ寄ってお別れした。帰り道では、「楽しかったかと言われると微妙だけど、お断りする理由もなかったかなぁ」などと考えていた。  任務を終えたような安堵を感じながら帰宅し、さあて着替えようかとタンスに向かう時に、鏡に映った自分の姿が見えた。   ・・・   驚いたことに、そこにはダッサイ姿の自分がいた。 
 え、これ、良いと思って買ったスーツだよね?なんで、こんなに似合ってないんだろう・・!? 思わず向き直って、まじまじと自分の姿を見た。   ・・・そこには、恐ろしくオバさんぽい自分がたたずんでいた。   涙が出てきた。  受身的にでも、今までにない一歩を踏み出したことで、何か意識が変わったのだろうか?未だに理由は分からない。何がどうであれ、今までに感じたことのないような嫌悪感を抱かずにいられなかった。  「・・・変わりたい」   あまりの、自分の情けない姿に、涙が止まらなかった。 
 今度こそ、もう、本気で変わるんだ、と思った。言い訳はなしだ。周りからどう思われるとかも、関係ない。 とにかく、自分で 自分を許せるように。自分で、自分を大切に思えるように・・   自分の殻に、穴があいた瞬間だった。 

●変身プロジェクト 本棚の肥やしになりかけていた、2冊の本を引っ張り出してきた。 ここに書いてあることを、とにかく実践してやろう。やってやるー!  これは、自分を変えるプロジェクトなんだ、と考えることにした。計画をたてて、必ずやりとげるんだ。  まず、この髪型を何とかしよう、と考えた。 髪型を変えたら、朝の支度の時間が今までよりかかるかもしれない、という内なる声が聞こえたが、  それが何だ!その分早起きすればいい!  と自分に言い聞かせた。  「長さをそろえるだけでいいや」などと言って、QBハウスで切っている場合ではない。ここは他人のセンスに頼ろう。高くても良いから、評判の良いおしゃれなお店で、自分に似合うように仕上げてもらおう! じわじわ変えてその度に視線を感じるのは耐え難い。変えるからにはガラリと変えよう。カットしてもらって、カラーを入れて、ゆるふわなパーマもかけよう。 短くなったことがイヤでも分かるように、長さも肩上にしよう。 後ろで結べないと バサバサして邪魔だよ、という内なる声をふり切るようにして、善は急げ!と、ネットで探して、青山の とある美容院に 2週間後の予約を入れた。   しかし、だ。  髪型を変えた自分に似合う服が、ない。そこで、美容院に行く前に、服を買っておくことにした。 今まで自分が選ぶことのなかった、白や優しいピンクで女性らしいデザインのものを、恥ずかしいという想いを封印して購入した。   色々いっぺんに変えようとすると、すごく費用がかかる。。。そんなにお金使って!という内なる声が聞こえてきたが、  いままでケチって買わずに済ませていた分を使ってるだけだよ!  と自分に言い聞かせた。   メイクも変えなければ。 まつ毛は長い方だが、下向きに生えているので、上げると印象が変わるのは分かっていた。しかし、落とすのが面倒だという理由で、マスカラは使っていなかった。朝のメイク時間短縮のために、アイシャドウもチークも付けていなかった。 メイクはすぐに始められるから、美容院に行く日までに、まずメイクに慣れておこう。  身なりを整えるのにいつもより相当時間がかかることになってしまうが、もう、そこは覚悟を決めることにした。    そして あっという間に時は経ち、美容院の予約日が来た。 おしりの下まで伸びていた髪をバッサリ肩の上まで切って、少し色を明るくして、ゆるふわなパーマをかけたい と担当の女性に相談した。 すると、    「すみませんが・・ カラーとパーマは、同じ日にできないんですよ~」    え、えー!?そうなの?  そんなことも知らなかったぁ。。ガラリ!と変えようと思っていたのになぁ・・   しかし、さすがはプロ。そんな私のガッカリっぷりを見て、なんとかやってみましょう、と対応してくれることになった。    3時間後、美容院の鏡には、今まで見たことのない雰囲気の自分がいた。 

●変わることが恐くなくなってきた
あれ? ・・ひょっとして、思いの外 似合ってる・・?  さすが、プロ。私の気持ちを汲み取って、ざっくりなオーダーにもかかわらず、素敵に仕上げて頂いていた。  髪型一つで、見た目の雰囲気がホントに変わるもんだな、と他人事のように感心してしまった。  こんなに ふんわりくるりん としたスタイル、自分で再現できないよ!明日からどうするの?大丈夫?と、しつこくギャーギャー言ってくる内なる声にも、 「ま、いいじゃない、がんばってみようよ」 と軽やかに返せるような気分になっていた。    次の日オフィスに入る時には少々緊張したが、事前の脳内シミュレーションで、何事もなかったように朝の挨拶をすると決めていた。  「おはようございまーす」  顔を合わせた人が、皆さん あれっ!?と驚いていた。そして、口々に とても似合っていると言ってくださった。 そりゃあ、そうです。面と向かって「えーなにそれ」なんて言う人はいません。問題は、本心でどう思ったか、だ。  ・・でも、実の所、それも あまり気にならなくなっていた。自分で自分を認められたから、それでいいじゃん?という気持ちが芽生えてきていた。  この日を境に、今まで敬遠していたような服や、8センチ ヒールの靴やら、少しずつ挑戦していった。  例のお見合いは、お断りすることにした。なんとなく・・の流れで時間を消費することは、お相手にも失礼だと思ったし、もう少し将来の自分の意見でパートナーを選びたいという気持ちになっていた。  




 他人から見たら「それ、悩むとこ?」というようなことだけれど、美容院に行くという最初の一歩までに、とてつもなく大きなエネルギーが必要だった。でも、そこを乗り越えてみたら、あとの挑戦はひとつひとつ楽しさが加速していくような感覚だった。   「本に書いてあった、『口癖を変える』ってのにも、挑戦してみようかな?」   いつしか、「変わる」ことにたいして、あまり抵抗を感じなくなってきていた。  

  そして時は過ぎ、2年後の早春。  前日に降り積もった雪を眺めていた私は、ウェディングドレスに身を包まれていた。

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Image by Jukka Aalho

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