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沈みゆくなかで(1)

Image by Olia Gozha


夫が私を問い詰める


呆けたように


ぽかんと思考の停止するわたし


少しののち、浮かんだ言葉は



何よそれくらい

別に大したことしてないのに



自分でも呆れるほど


悪いという気持ちはまったくなく


むしろ



何をいきり立って、、


自分だって散々女遊びしてきたのに

こんなに小さい男だったなんて、、



まるで他人事のドラマを見ているように


しばらく立ちつくしていた



そしてもう一度


こいつは、誰?と


問い詰められようやく、


あ、そうだ


この人が誰なのかだけは


絶対に言えない


守らなければ。


と現実が戻ってきた




出会い系に登録して出会ったの


寂しさを埋めるために


何もやってないけど


メールだけやりとりしてて。。



苦し紛れにでてきた嘘も


お前そんな女じゃないよ


どうでもいい相手に


自分の内側見せるようなこと


絶対出来ないだろ



そして


おそらく、職場の男だろう


誰だか吐かないなら


この写真もってこのまま会社に押しかけて



うちの妻がこんな事になっていて


困っていると


相手を社会的に抹殺するまで


貶める、と


誰だか、お前が言えば


それだけは、止めてやる、と



こうなって初めて、焦る気持ち



どっち?どっち?

どうしたらいいの?



きっと、会社に押しかけるのも

社会的に抹殺するのも


やるだろう


プライドが高く

自分に泥がはねることを何より嫌う人だ


自分の妻が横取りされたなど


許せない



その勢いで、腹いせに

悔しさの行き場として、やるだろう



でも。私の口から


彼の名前を言うことは、、

他の誰かの名前にするとか

元同級生とか

元カレとか


何か言い訳つくんじゃないかと、


必死に頭を巡らせてみたものの


少しメールの内容読んだし


職場の誰かってことは、わかってるから


もしお前が一ミリでも嘘ついたら


報復に相手を潰すから


相手が誰なのか、吐け






ふと見ると


わたしの携帯から


夫の携帯に、メッセージのやりとりが

転送されたのか、スクショを送ったのか


かなりの移行が、見えた



これはもう、


隠してもおそらく時間の問題だ


下手な嘘をついて事件を拡大するくらいなら


あえて、私が受けてたち


彼のことも必ず守れる


天に委ねる、賽を投げるしかない


と、





背中にひんやりと冷たい水が流れるように


冷たい刃物で撫でられるように


すーっと冷たい覚悟が背中を通る





○○さん





彼の名を、白状した


喉がひりついて声がかすれ


その時わたしの覚悟と緊張に気づく





神さま、どうかお願いします


わたしは、すべて正直に


こたえます




ふたりの罰は私が受けるので


どうかどうか、


彼を助けてください




胸が張り裂けるほど、


胸の中で叫ぶ



私から、彼の名を聞いた夫は


それを聞いてさらに激昴した


お前の売り場の上長だよな?


あかんやろ、それはあかん


立場を使ってお前を弄ぶのは


ただの遊びと違う


上司は、あかん!


と、



せっかく正直に吐いたにもかかわらず


さらに激しく怒り


このままお前の店に押しかけて


あいつ殺したる



と、殺気立ってそのまま


家を飛び出そうとする



は?!?!


話が違う!!!


言えば何もしないって言ったのに


卑怯すぎる!!


と必死で追いかけ服がちぎれる程引き留め

車の前に立ち塞がり

走り出す車を力づくで止めようと


その時がいちばん


必死、我を忘れて


とにかく止めなければと


怒りと悔しさで自分が何をしているか


わからない


それでも走り出す夫の車


それを見送りながら


神さま!神さま!神さま!神さま!



助けて

助けて


お願いします


彼の身の上に


どうかどうか 


何も起こりませんように



玄関にうずくまり


ただ祈るしか


わたしがすべて引き受けるので


彼には何も起こりませんように



嘘偽りなく、あの時


わたしはただ


彼が無事であるようにと祈り


神さまが、いるなら


すべての神さまに

わたしは私を明け渡すので



私だけにしてください


他の誰も傷付けないで下さいと




夫の、自暴自棄の凶暴さも


知り尽くしていたわたしは


夫さえも、無事でいて欲しいと



この時ものすごく冷静に


思っていた事を覚えている


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Image by Jukka Aalho

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