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「自分が幸せじゃないと 他人を幸せにはできないんですよ」
数年前、僕はある俳優さんにインタビューをしていた。
テレビや映画に出まくっていてその演技力も素晴らしい。
まさに絶頂期にいた彼の話を聞けるそんな自分に酔っていた。
その瞬間、彼の言葉が僕の目を覚ました。
「坂本さんは、幸せですか?」
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僕はいわゆる「優等生」だった。
テストの成績はいつも一番。1学期には必ず学級委員。高校では生徒会長もやった。
大学でジャーナリズムを学びNHKで報道のディレクター。
給料もいい。待遇も抜群。おかげで美人の奥さんもいた。
でも。
彼の問いに素直に「はい、幸せです」と答えることができなかった。
家に帰ってから僕は自問自答した。
「俺って幸せなのかな?」
「当たり前じゃないか。 こんなにいい待遇で 仕事にも家庭にも恵まれて 不満があるわけないだろう」
その声は心からではなく頭から響いてきた。
その通りだ。
僕はずっと幸せに生きてきたはずだ。
人から賞賛され羨ましがられ両親だってそんな僕を誇りに思っているに違いない。
なのになぜだろう、心は疼いていた。
お金、安定、有名企業、美人妻、権威、信用、
なぜ人が羨むようなものを全部手に入れてるのにこんなに苦しいんだろう。
正直、意味がわからなかった。
こんなにモヤモヤしているのに
幸せっていえるのか?
「隣の芝生は青い」
という言葉があるように人は必要以上に他人のことをいいように思いがちだ。
それに伴って自分を他人と比較して自己評価を下げてしまう。
僕もそういう性格だった。
報道の仕事に携わる者の宿命だがいつ呼び出されるかわからない気の休まらない毎日。
過当な出世競争には嫌気がさしつつも仕事ができる自分が出世できないのはイヤだと思い飲めないのに酒宴につきあう。
家に帰れば妻子はいてもコミュニケーションはなくラップにかけられたご飯を自分で温めて食べる毎日。
どんなに稼いでいても小遣い制で高校の時と変わらない気分で滅入っても家族のためなら仕方ないのかなとため息をつくばかりの毎日。
「他の人から見たら 俺の芝生は青いんだろうけど 実際けっこう枯れてるよな・・・
そう思った時きょうインタビューした彼の顔が浮かんだ。
「彼の芝生は、さすがに青いよなw」
驚いたことにその後彼は長年の夢だったという歌舞伎役者に挑戦すると発表した。
会見での彼の顔は厳しい道に進む者の覚悟とともに本来の自分が進みたかった道にようやく進めるという喜びも見えた。
僕は衝撃を受けた。
あんなに順風満帆で仕事もいっぱいこなしてた彼がこんな決断をするなんて。
このまま役者をやってればいっぱい稼げたのにすげえなあ。
そう思った瞬間僕の中であの質問が蘇った。
「自分が幸せじゃないと 他人を幸せにはできないんですよ」
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