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同級生

Image by Olia Gozha

相方と映画を見たその帰途。


駅のホームにたどり着くとどことなく見覚えのある風貌の人物がいた。


高校の同級生。


ただハッキリ断定はできなかった。


もうあれから30年近く経っている。


面影はあっても風貌はそれなりに変わっている。



一瞬目が合ったような気もした。


だが、そこからアクションを起こすことはしなかった。


四半世紀を越えるような長い月日の間に同窓会で一度ぐらいは顔を合わせたような気もするが、それすら記憶があやふやだ。


目が合ったのはただの錯覚かもしれないし、ましてや人違いは避けたい。




同級生と思わしきその人物は同じ車両に乗り込んだ。


一人で乗ったはずなのに誰かと話している様子。


そして名字を呼び捨てにされている。


その名字は私が思い描いた同級生のものだった。



それにしても呼び捨てにしている声がやけに甲高い。


女性の声でもない。


子供の声だった。


それも一人ではなかった。


何人もの子供に話しかけられている。


そこで気がついた。


彼は今塾の先生をやっているのだと。



大人が子供に呼び捨てにされるという光景は当たり前のように見てきた。


かつて彼と同じ業界にいたことがある私だからよくわかる。


敢えて違いがあるとすれば、私は先生ではなく事務方だったためそこまで子供と距離が近くなかったことぐらいか。



子供達には「ぐっちさん」とか「ぐっち先生」とか呼ばれていた。


あの子達ももう立派な大人になっているのだろう。


少なくとも私よりはしっかりした人生を歩んでいると思う。



毎年子供達を見送っているその「塾の先生」も似たような気持ちになることがあるのだろうか。


そんなことをぼんやりと考えながら私は先に降車した。



そういえば鑑賞した映画の中でこんな台詞があった。



「俺たちは大人じゃない。同級生だ。」



確かに。


いくつになろうと同級生は同級生のままだ。


大人になろうが老体になろうがあちらの世界へいこうがそれだけは永遠に変わらない。



もし再び見かけることがあったら今度は思い切って声をかけてみようか。


さすがに照れ臭さだけは拭えそうもないが。

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