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13/6/9

プログラムの講師(4)

Image by Olia Gozha

研修が二週間ほど経つと、カリキュラムは結構タイトに作ってあったのだが、数人が前倒しで進めていて、数人が遅れ、大多数はカリキュラムのスケジュール通りか、ちょっと進んでいるという風になった。私は毎朝、研修が始まる前に、壇上で挨拶し、毎日違う小話をした。

・研修に参加しているだけで給料が発生していて、それは結果を出さなければいけないということ。

・問題に悩み調べる時間をどの程度か決め、それを過ぎたら質問するということの重要性。

・カリキュラムという大枠のスケジュールがあり、それを意識すること。

・自己主張する前に自分ができないことを認めること。

・プログラムは規則正しく、覚えることはさほど難しくないということ。

・自分の作業の進みと他の人の進みを比較する必要はないということ。

もっと話したことがいっぱいあるが、忘れた。人間は忘れることで生きていけるようにできている。
とにかく、私には最低でも32人の生徒のカリキュラムを完了させなければいけない。毎朝、気の遠くなる電車の中で、話すことを吟味し、一対多で効果的と思われる話を毎日作り出した。
二週間ほど経ったこの頃は、遅れているものもまだ気力が残っていて、劣等感を感じないくらいしか遅れていない。もうすこしスケジュールから離されると劣等感がでてくることと予想していた。しかし、そうなると8人以上脱落する可能性が高い。だから私は、前もって劣等感を感じる必要はないということを刷り込んでいった。

ただし、先行している集団の競争力はそがないように注意を払った。先行集団は、意識も高く、自分より誰が進んでいるかなどを非常に気にしている。ここは刺激して、どんどん先に行かせる作戦にした。これには理由がある。本当の意味で生徒のことを考える講師ならば、こうした先行集団の伸びたピノキオの鼻をバッキバキに折ってやることだろう。
なぜそうしなかったかというと、講師の相方がある程度までしか教えられないと言っていたからだ。レベルは大体1~4、5~8、9~12という区切りで難しくなっていく。相方の講師の方と話したところ、8までしか正確に教える自信がないといわれた。スケジュール通りかちょっとだけ進んでいる一番多い集団。彼らがレベル7あたりに来る頃に、当然レビューにも時間がかかるし、相方の講師と私だけでは物量的に無理だというのが目に見えていた。だから私は、先頭集団のプライドを折らず、先に進ませて、講師の代わりに質疑応答させることをあてにしていた。

「Oさんできました!」
「じゃあちょっと確認します。」
・・・
「○○君これはよくできたね~。ここも綺麗にできてるしコメントもきちんとかけてるし、文句なしだね。」
この会話を××君は聞いて、「くそっ俺も早くそこまでいかなきゃ。」と思うことだろう。
そして予想通り、××君は焦って少し精度の悪いプログラムを提出してくる。
「××君はこの発想がいいね。ただ、この辺だけ少し修正したほうがいいね。」
私はそう言って、褒めてから修正させた。
しかし、この新卒たちのキラキラした目を見るのは苦手だった。眩しくて船酔いになる。まぁ仕事だしょうがない。。。

週に一回木曜日の上司との進捗会議。
二回目の会議だが、特に問題は顕在化していなかったが、明らかに脱落するだろう生徒4人を報告しておいた。それは、パソコンの操作がそもそも出来ていない女性。あまりにも自己主張が強すぎて、自分ができないのはパソコンのせいだと思い込んでいる女性。大学でずっと遊んで暮らしてきて、その延長線上に居ると思ってる女性。理解力が無さ過ぎて会話が成立せず、「がんばります!」という無駄な言葉しか吐けない男性。の4人だ。
彼らに関しては、なぜシステム開発部に就職できたのも分からないし、プログラムを教える以前の問題だった。これは私の教える範疇を超えているだろうと言ってやりたかったがそこまでは全く言わず、穏便に「たぶん、この4人はこうした理由で最後までいけないと思います。」と言った。

「どうにもならない感じなんでしょうか?配属先が決まってるのでそこの上司に尻を叩かせてもだめですか?」
「駄目だと思います。」
「困りましたね。離職率を上げるようなことにつなげないために、彼らの自尊心は傷つけないでやってほしいんですが。」
「なるほど。少し考えさせてください。」

こうして2週目の研修が幕を閉じた。
あと、一ヵ月半。予断を許さない状況だった。

つづく。






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