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じいちゃん

Image by Olia Gozha

もうすぐじいちゃんの4回忌だ。あれからまだ4年しか経っていないとは思えないほど、沢山の出来事があった。弟が結婚して、子供が生まれてもうすぐ家を建てる。母は初孫ができて大層嬉しそう。じいちゃんが買ってくれた子供の日の兜やお食い初めの着物はまだまだ美しく、今も活躍しているよ。私は2年前に体調を崩して、東京から地元の石川に戻ってきました。じいちゃんはダンスの道を歩む私のことをいつも心配していたし、里帰りするたびに「教師になれ」って口うるさかったね。上京する時に約束した教員免許は取ったけど、私は教師にならずに留学した。でもきっとじいちゃんの予想通りで現実は甘くなくて、日に日に焦りが募るばかりで夢の実現に近づいてる気がしなかった。そうしているうちにじいちゃん、交通事故にあい、ガンが見つかって転移して、大きくて力強かった体がみるみるうちに小さくなって、火葬した後は骨も半分は燃えてなくなってしまった。その日私は涙を流さなかった。

今になって思う、じいちゃんはいつも一番正しかった。日本という島国の地方の小さな村の専業農家で海外へ行ったことはない、何も知らない頑固な田舎のじいちゃんだと思っていた。けれど大人になって社会の色々なことを知ったら、彼は間違ったことを教えたことは無かったと気づいた。365日を田畑で過ごし、太陽と土と水の状態を見極め、生産し流通させ農業の発展に貢献しながら土地とともに生きていた。自然の摂理を知っていることは人間のあるべき姿を知っていることなのかもしれないと思った。

私は今、昔通っていたスタジオでダンスを教えながら、ダンスフェスティバルを主催する団体の代表者として地元にコンテンポラリーダンスを広める活動をしている。民間としての自主企画なので金策に苦戦しているが、助成金が取れたりクラウドファンディングが成功したりと少しずつ認められる様になった。また去年は地元で作ったダンス作品が海外のフェスティバルに呼ばれ、地元の新聞やテレビ番組で大きく取り上げられた。東京から地方に拠点を移して、あてもつてもない何も知らないながら我武者羅に続けて3年目、少しずつだけれども知ってもらえる様になった。新聞やフリーペーパーにインタビューが掲載されると色んな人が見たよと声を掛けてくれる。

いまだに自分の足で走り回り、忙しない毎日。そんな中、ある時、運転中ふと通りかかった川の土手で車を停めて降りて見た。それは小さい頃にじいちゃんにせがんで何度も連れて行ってもらった手取川だった。

沢山のものが急速に変化していく毎日、それでも変わらない手取川の流れを見ているうちに、涙が溢れてきたのだった。どうして、一番見せたかったじいちゃんに、私が活躍する姿を見てもらえないのだろうか。変わらぬ風景がここにあるのに、どうしてじいちゃんはここにいないのか。4年前には思い描かなかった今の私、そしてこれからの私、一番見せたかった人はもういない。上手くいかなくて苦しい日が続いて、そんな時にじいちゃんの姿が見れたら、声が聞けたら、励ましてもらえたらと何度も思う。

それでも、私は走り続けなきゃいけない。

じいちゃんが死んで3年経ってから、より一層昔のじいちゃんのことを、より鮮明に思い出す様になった。苦しくて蓋をしてしまった記憶が少しずつ流れ出て来ている様だ。

変わっていく景色の中に変わらないものを見つけて、大事に記憶に残してこれからも生きていくのだと思う。


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