◆24歳にして、初めて門限を設けられる
エスパニョールといえば、スペインサッカーリーグの1部に属するプロクラブだ。
いわゆるバルサ、レアル・マドリーといった世界的強豪ではなく、バレンシアやアトレティコ・マドリーといった第三勢力からも少し落ちる。
それでも、世界最高峰と言われるサッカーリーグで、降格せずに長く1部に在籍しているサッカーファンなら大体知っている中堅クラブだ(その後、中村俊輔選手の移籍によって日本で大きく知名度が上がることになるのだが、それはまた別のお話し)。
エスパニョールのレジデンシア(選手寮)はバルセロナの中心地から歩いて20分程度、割と街中にあった。寮長マヌエルさんを紹介してもらって、簡単に説明を受ける。
「子供たちはAM7~8時ぐらいに寮を出て朝早くから学校に行って、夕方は練習だ。夜は11時までに部屋に入りなさい。それ以降は何をしてもいいけど、静かにするんだ!遊びに行ってそれまでに帰ってこなくても何も問題はない。ただ、朝まで外で待ってなさい!」
と、寮長らしく注意を促す、厳しくもあり優しい人だった。
マヌエルは、「たまに怒るけど、普段は優しい人だよ」と自分で言う。
つまり、朝ご飯はみんなにあわせて7時ごろ、門限・就寝23時で遅れる時は連絡しろ、というルールのようだ。
24歳になって初めて門限を課される、不思議かつ健康的な寮生活がスタートを切った。
とりあえず展開の早さに驚きながら、話しは進み、僕の部屋は2人部屋になった。もう一人は、数週間後に来るという。当面はひとりでの生活だ。
この日はとりあえず晩御飯を食べさせてもらい、就寝時間の11時。ひとまず、部屋に入って静かにする。
でも、子供たちは夜遅くまでテレビでサッカーを見たり、音楽かけまくったり、めちゃくちゃウルさい。マヌエル、全然11時以降でも寮はにぎやかだよ・・・。
◆寮に住む選手たち
少しずつ、自分でもこの寮の内容がわかってきた。
リーガ・エスパニョーラの中では、ずっと中位のエスパニョールだが、下部組織はとても強いチームらしい。1部の下部組織なのだから、よく考えれば当然。寮にはスペイン中、そして世界中から引き抜かれてきた、間違いなく選りすぐられたサッカーエリートたちが生活しているわけだ。
スペインのサッカークラブは以下のように構成されている。
・A・・・トップチーム一軍(全年齢対象)
・B・・・2軍(18~23,4才ぐらいまでを対象とした若手チーム)
・フベニールA、B・・・(15~17歳)
・カデテA、B・・・(13~15)
・インファンティルA、B・・・(11~13)
・アレビンA、B・・・(9~11)
と年齢ごとにわかれている。※もちろん実力次第で、どんどん上にあがっていく。
その中で選手寮に住んでいるのは、主にカデテとフベニールの子どもたち。つまり、中学生・高校生のための寮、ということだ。
バックボーンも様々。バルセロナに家があるから、ご飯だけ食べて帰っていく子もいるし、Bチームにあがっても部屋が見つかるまで寮にいる、という子もいる。
しかし、大半が地方出身者。サッカーエリートとはいっても、普段はただの子供たち。故郷から遠く離れて生活しているこの子たちは、やっぱり常に家族がいない寂しさと戦っているのである。
外部から入ってくる人も多いため、急にまだスペイン語が話せない日本人の青年が来ても、あまり仲間はずれにされたり、無視されるといった空気もない。
そこには、サッカーが好きでうまくなって認められた、どこにでもいるような子供たちが住んでいた。


