◆レアル・マドリ―から引き抜かれてきた新人選手、若者と仲良くなるのは万国共通
外出から帰ってくると、なんだか自分の部屋にいっぱい人がいる。
どうやら同室の子がやってきたようだ。
ご飯を食べて部屋に戻ると、ひとりの子供とその親が挨拶してくれた。
子供「これからおんなじ部屋に入ることになったよ、よろしく」
自分「名前は?」
子供「クゥロ」
自分「クロ(スペイン語で“お尻”)???」
子供「クゥロ」
自分「クロ(“お尻”くんですか)???」
発音が微妙に難しくて、名前が聞き取れない!
後で紙に書いてもらったら「CURRO」君だった。年は15歳、所属はカデテAだ。その後で話をしていると、どうやら前に所属していたチームはレアル・マドリー。え?あのレアルですか?
後で聞いた話だが、エスパニョールのコーチ陣のなかでも、ちょっとした話題になっていたらしい。「今度レアルから新人取るらしいけど、なかなかデキるらしい」なんて会話が交わされていたそうだ。
なんでも、前にもエスパニョールはレアル・マドリーから選手を取ってきたことがあって、とてもうまい子だったけど、ホームシックにかかって結局ダメになった(あるいはどこかでやっているのかもしれない)なんてことがあったらしい。
そんな浮き沈みも、こういった場では頻繁にある。
しかし、このクゥロ君が来てすぐ、「急にいっぱい子供たちが入ってくることになったから部屋移動してくれ」との寮長から説明があった。移動先は4人部屋。部屋にテレビがある!そしてプレイステーション2もある!ちなみにウィニングイレブン7インターナショナルバージョンもある!
ん~。ちょっとレベルアップ感。
ここで僕は、子どもたちとより仲良くなる策を思いついた。
新しい部屋には僕の他に子供たちが3人、ESCO(エスコ)、CHINE(チネ)、PABLO(パブロ)だ。全員17~18ぐらいのもんだろう。
要は年頃の男子が考えることは、世界共通である。
翌日、寮に戻った僕はネットからとってきた、サンプルアダルト動画を見せてみた。
当然、もりあがる・・・もりあがる
そして予想外なことがひとつ。
「カズ(僕)、これなんだ」
「これって・・・モザイクだよ」
「モザイク???」
むむ、スペイン人はモザイクを知らないようだ!!新発見
(後日、スペインのテレビでは普通に無修正のアダルトビデオが夜に流れていて、びっくすることになる)
「プレステやるか?」なんて具合に、次の日が練習お休みだったということもあって、夜中の1時ぐらいまで、みんなでテニスのゲームをやる。
結局僕は1ゲームぐらいしか取れなかったが、とにかく仲良くなれた。よかった、よかった。
◆カルロスの彼女へのメッセージ
寮の子どもたちとも数人と仲良くなり、週末には彼らの試合を見に行くようになった。
そして写真を撮って、寮で彼らに見せたり、データをあげるのだ。
プロサッカー選手候補といえども、取材などが頻繁にあるわけでもない。
みんな、喜んでくれたし、試合の日の夜には僕のベッドに来て、「写真はどうだった?」と声をかけてくれるようになった。
ある日の話。
カルロス君はエスパニョールBに所属する、左ウィング(たまに右もやるらしい)。
よく寮では、PCゲームをやっている(戦争物)。
基本的にBチーム所属の選手はみんなより年上で、彼らは他の寮生に対してかなりやさしい。これも年の功(っていっても他の子と一歳しか変わらないけど)ってやつか。
エスパニョールBが、リーグ戦の試合に2-1で負けた。それでも、カルロスはエスパニョール唯一のゴールを決める活躍をしたらしい。
エスパニョールの広報新聞(下部組織までをフォローするような、チーム付きの新聞)一面トップに写真が載るという、ナイスなことをやってのけた。
そんなカルロスが、彼女の名前(ANA=アナ)を漢字で書いてくれという。
「愛奈」にしてあげた。我ながら、いい選択だ。
決して「穴」にしてはいけない。
カルロスはこの漢字を書いた紙と、自分の活躍が書いてある新聞、そして2枚分の手紙をまとめて、彼女に贈るんだそうだ。丁寧に新聞には、自分のことが書いてあるところに赤線が引いてある。一面と2面の大きな写真はカルロスの写真。
そんな押し付けがましくされても、という人も日本女性にはいるのだろうか。
でも、こんなふうに愛される彼女はやっぱり幸せだと思う。
スペイン人は、日本人に比べると、人を大切にする気持ちが強い。家族への愛情ももちろんやけど、彼女への愛情の注ぎ方も同じ。みんな彼女の写真(とか家族の写真)を部屋に張ってたりするから、多分、文化として人を大事にする意識が、日本人よりも高いんだろう。
エレベーターで声をかけたり、挨拶したり。バスで席を譲ったり、すべてのコミュニケーションが他人と交わることに積極的だ。こういうところも、日本が見習える、海外の文化だと感じる。