第2章 ヤツと剣道 編 (13〜27)
13
剣道は”今のオレを形づくるモノ”の大きな一つだ。
剣道との出会いは、小学1年生までさかのぼる。
デパートマンをしていた父の仕事の関係で、
小学1年〜小学4年までは、長崎県諫早市にいた。
ちなみに、オレの生まれは、母親の実家がある長崎県佐世保市。
佐賀県武雄市は父方の実家だ。
計画的に作られた街だったと思う。
7階建ての団地に住んでいたが、
エレベーターを降りて、3歩で父が勤めるデパート。
そのデパートの1階にあるおもちゃ売り場を、
学校帰りに毎日チェックして帰るのが日課だった。
本屋も文房具屋もスーパーも、駄菓子屋・公園・病院・学校も、
徒歩500メートル以内に全てあったと思う。
子どもながらに、”ここは最高の場所”と思っていた。
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剣道を始めるきっかけは、
団地の両隣に住む小4と小6のお兄さんが、
夕方になると竹刀を持って素振りをしているのを見て、
ただただ、”カッコイイ!”と思ったからだ。
刀を持って敵と戦う。
そのために、素振りをして日頃から自分を鍛え続ける。
小1のガキが憧れるには、十分すぎる理由だろ?
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”西諫早心正会(にしいさはやしんせいかい)”
オレが通った、道場の名だ。
何もかもが徹底されていた。
子どもたちは、稽古が始まる30分以上前に道場に集合し、
面打ちや小手打ちを練習するために、
人に見立てた打ち込み台を用意し、打突を繰り返す。
そして、先生方がいらっしゃるたびに、
打ち込みの練習を止め、競って先生の元へあいさつへ行く。
徹底した”上下関係”。
徹底した、”教えるー学ぶ”の関係。
あいさつはもちろん、
敬語の使い方や、くつのかかとを踏まないこと、
感謝の気持ちを常に忘れないことなどを、
剣道の先生からはもちろん、
サポートしてくださっていた保護者の方からも教わった。
面をつける前の最初のあいさつの時に、
必ず”剣道の理念”と”剣道修練の心構え”を斉唱させられていたのも懐かしい。
おかげで長い時間たった今でも、スラスラ言えてしまう。
「剣道の理念!
剣道は、剣の理法の修練による、人間形成の道である!!」
「剣道修練の心構え!
剣道を正しく真剣に学び、
心身を錬磨して、 旺盛なる気力を養い、
剣道の特性を通じて、 礼節を尊び、
信義を重んじ、 誠を尽くして、
常に自己の修養に務め、
以って
国家社会を愛して
広く人類の平和繁栄に、
寄与せんとするものである!」
小学校低学年のオレには、意味なんて到底理解できるはずもなかった。
だが、
こうして改めて声に出してみると、
その偉大さに、心が震える。
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ただ、
練習には行きたくなかった。
必ず体温を計り、
37度以上あると、母親に、
「ねぇ、今日は休んでいい?」と尋ねる。
剣道がキライな訳じゃない。
練習がイヤな訳じゃない。
練習の曜日と時間帯に問題があった。
土曜の夜と日曜の午前中は100歩譲ろう。
しかし、
水曜の夜7:00からの
”DRAGON BALL Z”。
これを見れないなんて、神様を本気で恨んだぜ。
その悔しさと苦しさからの反動に違いない。
今、オレの部屋は、ドラゴンボールのフィギュアでいっぱいだ(笑)
ちなみに、一番好きなキャラクターは悟空の父親のバーダック。
絶対にかなうはずのない的に、
一人で決戦を挑み散ってゆくさまには”男”を感じた。
OkasurferZ(オカサーファーゼット)は、
丘でサーフする奴ら、、
つまり”音に乗る奴ら”っていう意味。
最後の”Z”はもちろん、メンバーが影響を受けたこのマンガから頂戴した文字だ。
DRAGON BALLは子どもたちに大きな影響と、大きな夢を与えた。
オレもこのマンガに出てくるヒーローたちのように、
子どもたちに夢を与えられるような存在に
いつかはなりたいな。
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小学5年の新学期が始まると同時に、
父の仕事の関係で、佐賀県武雄市の小学校へ転校することになった。
当時はまだ市町村合併前で、佐賀県杵島郡。
”郡”!!
とんでもない大昔にタイムスリップしたかのような感覚だった。
夜7:00以降は真っ暗闇。
コンビニ一つない。
毎週必ず購読していた週刊少年ジャンプとは、そこで決別した。
おまけに父の実家はもと病院(整骨医院)。
ひぃじいちゃんからやっていたそうだ。
築年数は当時でも100年以上。
なんとか住めるように改装はしてあったが、
100坪ほどある広さと、その歴史が怖かった。
・トイレまで遠すぎる。
・電話がなっても気づけない。
・キョンシーが入ってそうなでかい箱がいくつもある。
・骨董品屋で買えそうな壺や掛け軸、年季の入った家系図。
オレは今でも3回しか行ったことがない部屋がある。
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転校初日のことは友人たちが忘れさせてくれない。
職員室の先生たちへあいさつをしたあと、
新しくクラスメイトとなるみんなの元へ担任の先生が連れて行ってくれた。
新卒で新任の女性の先生だった。
先生も、初の転校生で段取りがメチャクチャだ。
みんなの元へオレを案内するやいなや、
「みんなに一言あいさつをしましょう!」と言う。
頭には赤白帽子。
ランドセルを背負ったまま。
右手にシューズ袋。左手には体操服を持ったまま。。。
”荷物くらいおろさせてくれよ”と心の中で思いながらも、
仕方なく、
「ナガサキカラキマシタ。イヌバシリデス。ヨロシクオネガイシマス。」
と、
みんなの前であいさつをした。
あまりにもその姿が、”衝撃的(笑劇的)”だったのだろう。
”都会の長崎から来た転校生が、シューズ袋を持ったままあいさつをした事件”は、
大人になった今でも、友人との飲み会があるたびに、語られることになる。。
オレの結婚式で、スピーチを頼んだ親友の”Y氏”は、
そこでも、
”都会の長崎から来た転校生が、シューズ袋を持ったままあいさつをした事件”について語りやがった。
転校生の取り扱いには細心の注意が必要だ。
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佐賀へ引っ越してからも剣道は続けた。
長崎県で開かれる小浜大会や、
佐賀県の大麻旗と言う大きい大会では、
昔の剣友や先生方に会えると思ったし、
何より、剣道ってのは、
クラブとか、部活とか、習い事と言う感じではなく、
永遠に続く試練みたいなモノだと思っていたからだ。
こっちへ来て驚いたのは、
先生がいないこと。
8段、7段、6段・・・の先生が、厳しくも温かい指導をしてくださる環境から一転。
ほとんど先生(大人)がいない環境で練習することになった。
この時期の、歳の1歳差は、かなり大きな差になる場合が多い。
やはり6年生が体格が大きく、力が強く、スピードも速い。
が、
絶対に勝てないわけじゃなかった。
それよりも、
同じ小5で、
オレの方がいっぱい練習して来たにもかかわらず、
互角?の剣士がいた。
”Y”だ。
”都会の長崎から来た転校生が、シューズ袋を持ったままあいさつをした事件”を、
オレの結婚式で暴露した、”ヤツ”だ。
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古き良き時代の、”ガキ大将”みたいな少年だった。
彼の”一声”で物事が決まる。
長崎にはいなかったタイプ。
足の速さも互角。
小4の時、小体連に学校代表で出場しているオレにとって、
受け入れがたい事実だった。
転校生が、転校先の学校で、それなりの居場所を見つけるには、
”秀でた特技”があるといい。
転校生が多い学校にいた経験からオレはそれを学んでいた。
「ヤバイ。」
このままだと、居場所どころか、ヤツの支配下に組み込まれてしまう。
全然やったことなかった、”ソフトボール”がこっちでは流行っていて、
”球技ヘタクソ”のレッテルを貼られそうになっている。
意地でも何かを”死守”しなければ、オレの将来は真っ暗だ。
そんな時、
武雄市の剣道大会が近く開催されることを知った。
ヤツは、去年の大会でも好成績を獲得していたらしい。
”ここだ!”
「この大会で活躍して、一目置かれる存在になってやる。」
オレはここの中で、密かに、そして固く誓った。
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ヤツを”ぎゃふん”と言わせるには、
ヤツ以上の結果を出さなければならない。
オレは、
1回戦、2回戦、3回戦、4回戦・・・と勝ち進む。
ヤツも同じく、
1回戦、2回戦、3回戦、4回戦・・・と勝ち進む。
同門対決。
気付けば、準決勝に二人はコマを進めていた。
勝った方は、決勝に進み、負けたら3位確定。
お互い、相手の得意技は知っている。
小手先の技術は通用しない。
”オレの剣道” VS ””ヤツの剣道” という感じだった。
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「はじめ!!!」
合図がかかると同時に、互いが気を高め放つ”咆哮(ほうこう)”。
間合いを詰める。
コテでいくか?
メンでくるのか??
それとも、コテメンか?
一挙手一投足に緊張が走る。
お互い、竹刀で相手の竹刀を牽制しつつも、
いつでも、”技”を放てる態勢。
かつぎメンを打ってきた!!
タイミングをずらして打突する、ヤツの得意技だ。
危なかった。
一歩後方に下がりつつ、竹刀でメンをガード。
つばぜり合いに突入した。
相手に息づかいを読まれぬよう、
自分を押し殺す。
その分、
心臓の音が自分の体に充満する。
間合い”ゼロ”の状態。
面の奥にヤツの”サムライの目”が見える。
オレは、自分を悟られぬよう、”気”で威嚇した。
一番コワイ瞬間だ。
ヤツの引き技は、見分けがつきにくい。
引きメンか?
引きドウか?
引きメンだ!!
ギリギリで首を左によけ、
そのまま下がっていくヤツを追いかける。
そして、今度はオレの、メンを打つと見せかけてのコテ!!
「チッ。」
相手もオレの攻撃パターンを読んでいた。
かわされたが、そのまま”体当たり”
”場外に吹っ飛びやがれ!!”
しかし、
うまく体を反らされ、二人の身体がもつれる。
審判からの、”やめ!”の合図がかかる。
仕切り直しだ。
22
制限時間内に勝負はつかず、
延長戦に突入。
先に一本先取した者が勝ちとなる。
ここからは、体力と気力の勝負。
ここからは、”ヤツ”と戦いながら、”自分”とも戦わなければならない。
心の中に弱い自分が現れてくる。
「もう、そろそろ終わりにしようぜ。」
「もう、技は出し尽くしちゃったよ。」
「いつまでの続くのこの勝負?」
それらを振り払うかのように、”咆哮”。
心と身体が同化してくる。
限りなく”無”に近い状態。
”カッテヤル”
ただ、それだけだった。
つばぜり合いから、間合いをきる一瞬だった。
身体が勝手に動いた。
それ以上は覚えていない。
気がつくとオレは”引きメン”を打っていた。
「メっ!!」
”無心”すぎて、「メン」としっかり言えなかった・・・
・・・その辺りから、記憶がある。
勝負はついた。
軍配が上がる。
オレの勝ちだ。
限りなく薄い紙一重。
だが、
これが勝者と敗者を分けることになった。
23
決勝戦を控えるオレに、
面を脱いだ”ヤツ”が語りかける。
「おまえの決勝の相手は、長身からのメンが得意だ。
相手がメンを打つ瞬間に出来る、一瞬のスキを狙っていけ。」
ヤツからのアドバイスだった。
ヤツの顔は頼もしく、そして清々しかった。
目はもちろん、”サムライのまま。”
オレは、大事な密書でも託されたかのような表情をしていたと思う。
小さく
力強く
”サムライの目”で頷いた。
24
みんながオレを応援してくれる。
ヤツもオレを応援してくれる。
”オレはココに居ていいんだ!!”
”西諫早心正会のオレ”は、
この瞬間から、
”山内神武館のオレ”になった。
仲間の期待に応えたい!
ヤツに報いたい!
無我夢中で、決勝を戦った。
決め手は”出コテ”。
相手がメンを打とうとする瞬間に出来る、
一瞬の手元のスキをオレは見逃さなかった。
”優勝”
”シューズ袋を持ったままあいさつをした転校生”は、
”シューズ袋を持ったままあいさつをした剣道が強い転校生”になった。
25
先鋒と対象の信頼関係は強い方がいい。
うしろ(大将)が絶対に勝ってくれると信じているから、先鋒は暴れることが出来る。
実際、オレの戦績は、
小中と”勝ち”、さいあくでも”引き分け”が多かったと思う。
逆に大将は、
前(先鋒)が一勝してくれることが、チームと自分のさらなる士気へと繋がる。
先鋒”オレ”、 大将”ヤツ”。
中学ではさらに”いいチーム”ができあがった。
次鋒M。
こいつは学年は一コ下ながらいい剣道をする。
オレらが卒業した後、強豪ひしめき合う佐賀県大会で個人優勝するほどの男だ。
中堅K。
ポイントゲッター。
中学から剣道を始めたが1本を取るセンスはNo,1だった。
中体連で、当時全国レベルだった白石中から、一人勝利をおさめてきた。
副将S。
スラムダンクで言ったら流川みたいなやつ。顔もキツネに似てる。
モテるからさらにイラっとする。
山内弘武館のエースだったこいつは中2の時剣道部へ戻ってきた。
戻ってきてすぐに実施された部内戦でオレはこいつに負けた。
こいつも、強い。
他にもスタメンを狙う仲間が。
油断したらすぐ追い越される。
そこには、
お互いを切磋琢磨し合える”ライバル”が大勢いた。
26
言い忘れていたが、
オレはヤツのことを”ヨウイチクン”と呼んでいる。
みんな、”ヨウイッチャン!ヨウイッチャン!”と言ってるので、
そう呼んだら、みなと同じで負けのような気がしたからだ。
中3の時、”ヨウイチクン”が剣道部の部長で、
オレが副部長。
オレはヤツの名前すら呼んでない。
何て呼んでたかって?
”部長!!”
あからさまにライバル視しすぎだ。
だが、そのくらいヤツの”統率力やリーダーシップ”はカリスマ的だった。
No,2として、ヤツの下でオレが言うんだから間違いない。
剣道の指導者がいなかったにもかかわらず、
中体連を含め、様々な大会で上位に食い込むくらいのいいチームが出来たのは、
ヤツの手腕によるところが大きい。
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先鋒ー大将
副部長ー部長
の関係はそう長くは続かなかった。
中学校の定期テストでも順位は同じくらい。
当然ヤツも”普通高”へ進学するものだと思っていたが、
”勉強は好きじゃない!それよりも早く働きたい””と言う理由で、
ヤツは工業高校・建築科の推薦を受けることにした。
ヤツらしいといえばそうだが、
小5の時、転校してきた時からの関係が、
そこで崩れることになるのは、少し切なく感じたのを覚えている。
オレ:「一級建築士になったらオレの家を建ててくれよ!都会的な感じがいいな!コンクリート打ちっ放しみたいな!」
ヤツ:「おまえは心も趣味も冷たいな!木の家が1番に決まっとるやろーが!」
オレ:「とりあえず頼んだぜ!出来るだけ安く、そしてカッコいいものを作ってくれよ!約束だぞ!一1級建築士になるまで待ってるからな!」
ヤツ:「はいはい。約束だな!」
ヤツは約束は守る男だ。
成りやがった最速の若さで。
”勉強は好きじゃない?”
全く笑わせてくれるぜ。
そんな簡単にすぐ成れるもんじゃないだろ一級建築士。
でも、オレもヤツとの約束はすぐに守った。
1階が”塾”で、2階が住宅。
設計はもちろんヤツ。
永遠のライバルの、”ヤツ”にしか任せられない。
第2章ヤツと剣道編 終わり
第3章答えは東京に編に続く。。。