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キューバなんて行かなきゃ良かった。

Image by Olia Gozha


「キューバに行ったら人生変わるよ。それに今のキューバを見れるのは今だけ。」

 あるイベントで、最近話題のリーマントラベラー東松さんがキューバについて語っていた。

その時点で僕がキューバについて知っていることは、スポーツが強くて、葉巻とヒゲの人が有名ってことぐらい。

あとは何も知らない。世界のどの辺に位置するか、公用語すらも知らなかった。


 キューバ人は陽気で親切。チップも要求してこない。道に迷っていれば助けてくれる。


…楽園かよ。リーマントラベラーの話を聞いているうちに僕はキューバに惹かれていった。

そして、一生のうちに必ず一回はキューバに行くことを決意した。


イベント後の懇親会でリーマントラベラーにご挨拶。キューバに関心を持ったことを話すと、

「すぐにでも行こう」の返事。


・・・え?2週間後には入社式が控えているし、3日後には勤務地への引っ越しもある。

それに、卒業旅行でハワイとヨーロッパ周遊旅行をしたからお金もない。


Skyscannerで航空券を調べ始めるリーマントラベラー。

「明後日出発すれば10万以下で往復券が買えるよ!」

…いやいや、3日後には引越しがあるから無理って話はさっきしたでしょう…。


「引越しはご両親に任せて早くチケット取ろう!」

 …な、なんて無責任な。でも、聞くだけ聞いてみよう。


LINE

僕「キューバ行くことにした!」

母「?(タイニーチャムの可愛いスタンプ)」

僕「明後日出発して、31日に帰ってくる!」

母「?(タイニーチャムの可愛いスタンプ)」

…やばい。完全に怒ってる。

僕「ごめん、一生行けるか分からないから行かせて!」

母「は?引越しはどうすんの?自分で何とかして」


 まあこうなるよね。

「すいません。すぐには行けそうにないです」

「でも、いつか必ず行きますから!」

そして懇親会が終わった。


帰宅後

僕「ただいま」

母「こうなると思った。あんた人の影響受けやすいから。」

僕「さすがに自分勝手だったね。ごめん…。でも、どうしても行きたいだよなあ。」

母「そもそも旅行にいけるほどのお金が無いでしょうに。」

僕「お金は無いけど、時間はある。行くなら社会人になる前の今しかないんだよね。」

母「はあ…。」


その後僕はありとあらゆるサイトで情報取集し、社会人になる前にキューバに行く方法を探し、そして見つけた。


それは3/27に出発し、入社式当日4/3の朝7:00に成田に帰ってくるという超ハイリスクな日程だった。

入社式は13時から。

…よし、行ける。なぜか不安は一切なかった。謎の自信に満ち溢れていた。

あとは親を説得するだけ。


なぜキューバに行きたいのか。なぜ今じゃないとダメなのか。キューバで見たいもの。触れたいもの。経験したいこと。行き方や治安。宿泊先。スケジュール。これらを事細かに伝えた。


「命の危険を感じたら逃げること。抵抗しないこと。」

「あとお金、いくらあれば足りるの?ちゃんと返してよね。」


説得成功。

ありがとう。本当にありがとう。

文字通りキューバへの切符を手にした。


浅すぎる計画

 キューバはネット環境が悪く、連絡を取ることはなかなか難しい。

念のため行動予定を紙に書き、親に渡した。

 

 3/27 22:30ハバナ着→Isabel(民泊)に宿泊。

 3/28 ハバナ市街観光→Isabel(民泊)に宿泊。

 3/29 バスでバラデロに移動→バラデロで1泊。

 3/30 ハバナ市街観光

 4/1  ハバナ発

 4/3 AM6:45 成田着 PM1:00 入社式


こんな感じのメモを渡した。

この計画表に重大なミスがあることに、僕も母親も気づかなかった。



キューバで見たいもの、経験したいことは

①街を走るカラフルなクラシックカーを見る、乗る

②チェゲバラの巨大な壁画を背景に自撮り

③人生初の喫煙で葉巻を吸う

④おしゃれなバーでモヒートを飲む

⑤バラデロのビーチでのんびり過ごす

⑥現地の人と仲良くなる


こんなところ。何時にどこに行って何を見るとか、細かいことは一切決めずに行動することにした。


保険として、出発直前に成田空港で「地球の歩き方」を買った。


出発

 3/27

僕はメキシコ経由でキューバに向けて飛び立った。

準備の段階では楽観的だった。しかし、離陸と同時にマイナスな事ばかりが頭に浮かぶ。


無事に帰ってくることができるのか?

現地でコミュニケーションが取れるのか?

メキシコシティで8時間の待機を乗り切れるのか?

そんな不安が襲ってきた。

キューバの公用語はスペイン語。英語を話せるのは一部の人だけ…。

そもそも人とコミュニケーションを取ることが得意だったっけ?



「まじで行くの?大丈夫?笑」

一人でキューバに行くと言った時、うるさいくらい周りから心配された理由が

今になってわかる。


しかし後には引き返せない。

それに、今までの人生でこれほどドキドキしたことがあったかな?


戦いの幕開け

現地時間の22:30、トラブルなくハバナに到着。

生暖かい空気とタクシードライバーと思われる大勢の人に圧倒される。


…ほんとに来ちゃったよ俺。


とか思う間もなくドライバー達に話しかけられる。

「どこに行くんだ?乗せてくぞ」

たぶんこんな事を言っているんだろう。


とりあえず両替しなければ。


両替所でパスポートと日本円3万を出す。


「エンはここでは1万しか交換できない。残りは街の両替所でしてくれ」


いやいや…。最もエンが流通しているであろう空港の両替所で出来なくて、

街でエンの両替できるのか?と一気に不安になる。

USドルを50ドルばかり持っていたが、レートが悪いらしい。

ここでは日本円1万円分のみを両替した。


 振り返るとさっきのタクシードライバーの一人が立っている。

「俺のタクシー、ドルでもいいぜ」


 …お、都合いい。

このドライバーについていくことにした。

見た目は怪しいが、合法タクシーのドライバーだった。


ドライバーがエンジンをかけると、

「ドゥン ドゥ ドゥン」

キューバっぽい曲が爆音で流れる。

もはや客を乗せているとかどうでもいいらしい。


ドライバーは道の途中ガイド的なことをしてくれて、野球のスタジアム横を通ると、

「キューバでイチバンのスタジアム!みんな野球が好きなんだぜ!」

みたいなことを興奮気味に話していた。


それを聞いた僕は

「オー、デスパイネ!」

と返事よくわからない返事をした。



その後しばらくしてタクシーが停車。

待てよ。そういえば事前に代金の交渉をしていない。


到着後

ドライバー「30ドルな」

僕「高くね?」

ドライバー「だってドル支払いだからな」

僕「あ、なるほどね!」


まんまとカモられた。

抵抗しないことがこの旅のルールの一つ。

仕方がない。


そしてタクシーから降りると、明らかに目的地ではない。

街灯のない真っ暗な道。


…あー、やられた。



するとさっきのドライバーが話しかけてくる

「ここ違うか?違うよな。あと5ドル払ったら近くまでいくぞ」


…キューバ人親切って言った人誰ですか?


異国の暗い夜道を歩く度胸はなく、しぶしぶタクシーに乗った。



そしてタクシーは謎のホテルに到着。

「お前の目的地分かんないからここで降ろすわ。あとは自力で頼む。」

そんな言葉を残してタクシーは爆音と共に去って行った。


…ふざけるなキューバ。なんだこの国。


他にあてもないので、そのホテルのフロントに道を尋ねる。

フロントの兄ちゃんは親切にもホテルの外に出て道を教えてくれた。


すると、

「オーラ!」

挨拶とともにババアが通りかかる。地元民だ。


フロントの兄ちゃんが、宿まで案内してあげてほしいとお願いすると、

そのババアは快く承諾。


…やっぱりキューバ人優しいじゃん。あのタクシーが異端だっただけ。

と心の中で思いつつ、ババアに道案内をお願いした。


キューバ人は陽気で親切。道に迷っていると助けてくれる。

聞いていた通りだ。


時刻はすでに23時を回っている。

カサ(民泊)のホストには23時頃に到着すると伝えていた。

宿は近くにあるとフロントの兄ちゃんも言っていたし、

何より今の僕には現地人の案内がある。

23時30分には到着できるだろうと思っていた。


くそババア


ビニール袋を両手に持ち、ふらふらと前を歩くババア。


「モーメント」

僕にそう言って路上に停まっている車の陰に隠れた。

夜道で一人残された僕は不安になり、ババアを追いかける。


するとババアはパンツを下げ、おしっこをしていた。

立ちションならぬ座りション。

汚い。汚すぎる。

しかもこの後3回くらいおしっこを繰り返していた。



このババア、酔っ払いだ。

ふらふら歩くし、呂律もまわっていない。


汚いけれど悪い人ではなさそうだし、このままババアに着いていくことにした。


ホストから受け取ったメールには、

目的地に着くと「Big Bellが見える」と書いてあった。

僕は「大きな鐘」を目指し、座ションババアと一緒に宿を目指した。


で、いつ着くの?

道案内をしてもらい始めてから、20分程度が経過。

到着する気配はなく、「大きな鐘」すら見えてこない。


ババアは道中、僕に向かって「寒い」と言ってきた。

僕はバックパックからダウンを取り出し着せてあげた。


ダウンを着てからも、ババアの尿意はおさまらない。

歩いては座ション、歩いては座ション。


…このクソババア。

徐々にイライラし始めるぼく。


「まだ着かないのか?」

身振り手振りでババアに伝える。


するとババアが家を指差し、

「この家の2階だよ。いってみ」

みたいなことを言ってきた。


僕「サンキュー。行ってみるわ。その前にダウン返して」

ババア「寒いからこのダウンちょうだい」

僕「いや無理。感謝してるけどそれは無理」

ババア「あれ?よく見たらこの家じゃなかったわ」


こんな感じのやりとりをした。

このやり取りから、僕はババアに不信感を持ち始めた。


その後も2、3回同じやり取りを繰り返した。


…怪しい。

そう感じた僕は、チップを要求しないと言われているキューバ人の

ババアに対して1CUCを差し出し、


「もういいわありがとう。夜遅いんであなたの家に帰ってください。

あとダウンを返してください」


と必死のジェスチャーで伝えた。

時刻は1時を回っている。


僕がババアを連れ回したのか、ババアが僕を連れ回したのか。


ババアは浮かない顔をして、

「カモン」的なジェスチャーをしてきた。


…お、やっとちゃんと誘導してくれるのか。

これで着いて行くのは最後と決め、ババアに着いて行った。



歩くこと約10分。ボロボロのマンションのような建物に着いた。

それからエレベーターに乗り、10階に到着。

僕がエレベーターを降りた途端、ババアは扉を閉めようとしてきた。


僕は驚異的な瞬発力を発揮し、扉の閉まる前にエレベーターに乗り込んだ。


このババア、僕を巻こうとしている。

僕は平常心を保ちつつ、エレベーターが1階に到着するのを待った。


ババアは何事もなかったように僕の前を歩く。


僕「もういいわ。自分で探すわ。ダウン返して。はい、お礼に1CUC受け取ってよ」


ババアはやっとダウンを脱ぎ、僕に返してきた。

そして、

お金は良いからパンを買ってほしい。的なことをスペイン語言ってきた。


こんな時間にパン屋なんてやってるか?

と疑問に思いつつ、ババアが指差す方を見てみると、


あった。

しかも道端に。


日本の駅前にある、バスの定期券売り場みたいな建物で、

たしかにパンが売っている。


(日本人であそこでパンを買ったことがあるのはおそらく僕だけ)


1CUCでフランスパンを2つ購入。

ババアにフランスパンを渡した。


すると次の瞬間、


僕の財布目掛けて手を伸ばしてきた。



おっと?それが狙いか?

てか、目つき変わってない?



ババアは人が変わったように僕の財布を狙ってくる。


さすがに怖い。


僕「わかった。こうしよう。お金渡すよ。はい、10CUC」

ババア「ノー。足りない。全部出せ。」


おいおい。話違うじゃん。なにこの展開。

旅に出る前に親と交わした約束、抵抗しないこと。


僕は空港で両替した日本円1万分の100CUCを差し出した。


キューバ人の年収は2万。年収の半分を一瞬で手にしたんだからもういいでしょ。

そもそも、キューバでは観光客に手を加えることは厳しく罰せられる。


「もっとあるだろ。出せ」


え、まだ?笑


「ノーノー。もうないよ。財布みるか?ほら、ないだろ?」


財布を3つに分散させていたので、見せた財布は本当に空っぽ。


しかしババアは

「エウロ!エウロ!」

と言ってくる。


さすがに頭にきたので

「うるせえ!エウロってなんだくそばばあ!」

と日本語で言い返した。


僕は今、キューバ人と深夜2時に喧嘩をしている。


「エウロ!エウロ!」

「うるせえ!何言ってるか分からないから日本語で言って来いアホ!」


(恥ずかしながらエウロがユーロの意味ってことは帰国後に知りました)


「警察呼んでやるよ!お前困るだろ!」

そういって僕はiPhoneをポケットから取り出すと、

ババアは僕のiPhoneを奪い取った。


やばい。携帯はさすがにやばい。

抵抗しないとか言ってる場合じゃない。


やるしかない!



ババアと取っ組み合いが始まった。


さすがキューバ人。パワー半端ねぇ。

僕もアメフトをやっていたので、腕っ節には自信があったが、互角の戦いをみせる。


なんとかババアの手からiPhoneを引き離したが、

勢い余ってiPhoneが地面に落ちる。


よし!


素早い動作でiPhoneを拾い上げようとした瞬間、

僕の手ごとiPhoneを思い切り踏みつけてきた。


アドレナリン全開だったにで痛みなど一切感じず、

ババアの足を払いのけ、ダッシュでその場から逃げた。


「ばかやろう!」と叫びながら。


どこにいるのかな?

さて、ここからどうしようか。


僕は考えた末、高い通信料と引き換えに、スマホのデータローミングをONにすることにした。


すると1通のメールがきていた。


「だいじょうぶ?あなたいまどこにいるの?このメールをみてら電話してね」

ホストからのメールが1時過ぎにきていた。


今の時刻は2時半。

きっと電話に出てもらえないだろうと、半分諦めながら電話をする。


ホストは1コール目で出てくれた。


「I’m Daichi.Sorry. I'm Lost.」


合っているのかわからないが、とりあえず迷ったことを伝える。


ホストは、

そこから何が見える?動かないで待っててね

と優しく答えてくれた。


そして3分もしない内にホストが迎えに来てくれた。

不安から一気に解放され、涙が出そうになる。


ババアに連れ去られ、金を出せと言われたことを伝えると、

ホストは怒っている様子だった。


「どんなひと?年齢は?そいつはどこに向かっていった?」

など、詳しく聞いてきた。

でもそんなことどうでもいい。とりあえず生きてるし。


「Follow me.」

ホストについていく。


ここ。ここがあなたが泊まるところ。

僕にそう行って建物を指差した。


…ちょっと待って。ここ、ババアが一番最初におしっこしたとこですやん。

数時間前に通り過ぎてるやん。


かなり遠回りだったが、無事に宿に到着。


あれ…?ビッグベルは?

メールに書いて合った大きい鐘が見当たらない。


「これから家に帰ってきたら、このベルを鳴らしてね。私の母が迎えにくるわ。」

ホストはそういって玄関のボタンを指差す。


あった…。ビッグベル…。


あれ・・・?ないぞ?


僕の選んだ民泊は家族で営んでいて、メールでやりとりをしていたホストの母親の家のようだ。

見た目は優しいおばあちゃん。


午前3時。

おばあちゃんは僕が来るのを寝ずに待ってくれていた。


さらに、あったかいお茶とサンドイッチをごちそうしてくれた。


腹ペコだった僕は一瞬で食べ終え、用意された部屋に入った。

想像以上に清潔感があり、大満足。


そして、荷物の整理をしていたその時あることに気づく。


「ん・・・?ビザどこいった?」

パスポートに挟んでいたはずのビザがなくなっている。





























































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