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「奇跡の5分間」を重ねればよい。やがて10分になり、15分になり、事態は動き出す。

Image by Olia Gozha

10代の終わりから20代の半ばにかけて、私は乗り物酔いがとてつもなくひどく、電車や自動車に5分も乗っていると、体調不良におちいった。

お医者さんのものとで、メニエール病やパニック障害などの診断と治療を受け、私自身も酔い止めを飲み、あらゆるおまじないを試し、恐怖心を克服しようとがんばった。

5分間しか闘えない自分を、6分、7分と闘える自分に変えようと考えたのだ。


やがて、闘いつかれた私は「私は車酔いがひどい」「それが私なのだ」とあきらめ、開き直るようになった。

電車や自動車で快適に移動できる5分間は、いわば奇跡の5分間であり、奇跡は「たまにある」から奇跡なのだ。


ところで、私がよく利用する電車の路線はJR西日本の「阪和線」という路線で、この路線は想像しづらいような事故が起こる謎の路線としても知られている。(例:亀、カラスが線路に挟まった、網戸の網が飛来したなど)

電車が事故などの理由で止まると、乗客は自由に乗り降りすることができないため、病気を抱えている人間にはつらいこものだ。


また、その事故に対して何らのリアクションを起こすこともできない乗客は、すべてを鉄道会社の対応に任せて待つしかない。思うに、仕事や勉強などに積極的に取り組み、自ら問題を解決する能力にたけている人ほど、この時間はつらいのではないだろうか?

何もできない時間が流れているうちに、

「事態は何も変わっていないのではないか?」

「永遠にこのまま、待ち続けなければいけないのでは?」

と不安になってしまうことすらある。


それでも、時間は流れているし、トラブルを解決しようと動いている人は必ずいる。電車はやがて動き出す。

最近は、車両や線路などにトラブルが起こると、車掌さんがこまめに車内放送で状況説明をしてくださる。このことだけでも車内で何も分からずに待つ私たちには「事態が動いている」ことが伝わり、ありがたいものである。


私が5分間しか、電車に乗れなかったとしても、その5分間

に電車を動かしている人はいるし、電車はそれだけの距離を必ず進んでいる。体調不良で電車を下りざるを得なくなったとしても、何本か見送った後にやってきた電車に、再び5分間乗ることができれば、合計で10分乗車していたことになり、それだけの距離を進むことができる。


途中で降りても良い、5分で降りてもよい。また乗車することができればいいのだから。

私が電車に乗ることができるように、お医者さんや家族や友人が、電車の外で支えてくれているのだから。


このように気持ちが変化していくにつれて、私が電車や自動車に乗っていられる時間は長くなり、乗り物酔いも減っていった。


やがて、私はライターという仕事を選んで、旅をしながら仕事をすることが増えた。

乗り物酔いという事情以外にも、身内の介護などの事情があった私は、インタビュー取材や現地取材が必須ではない、金融・経済関係の分野を選んで、仕事をしてきたはずだった。

しかし、どんな分野でも、実績が積みあがるにつれ、

「なにかの会でセミナーをして欲しい」

「なにかの会で役員をして欲しい」

などの頼まれごとも増えるもの。

旅の実績が増えると、

「○○へ行きたいんだけど、おすすめの宿は?」

「○○まで安く移動したいんだけど、LCC系の飛行機ってどう?」

などたずねられるようになり、やがて旅そのものを記事にする仕事まで入ってくるように。


今では私は、色々な交通手段を試すために電車だけでなく、飛行機や高速バスなどを選んで、長時間かけて移動することもある。趣味の世界ではヨットやボートにも乗る。

乗り物に乗ることへの恐怖や不安は、もうほとんど感じない。

だた、「恐怖や不安感じない=なかったことにする」のではなく、今まさに恐怖や不安をおぼえている人に、何らかの情報や不安を軽くする手段をお伝えできるような人間になりたいと思う。たとえば、ホテルの宿泊についてレポートするときも、介護の際の経験を活かし、バリアフリーの状況がどうなっているのか、近隣に医療機関はあるのかなど、私自身にしか持てない視点を大事にしたいと思っている。


駆け出しのライターだったころに感じていた未知の仕事への恐怖も、今では「心配するとは心を配るための準備」と考えるようにしている。


仮に、途中で降りることがあったとしても、また乗ることができればよい。途中で降りることがあったとしても、そこには別の地面があり、また別の道があるだけだ。

今、何かの理由で苦しい思いをしている人がいるなら、そして、その苦しい思いが私の過去の思いと同種のものであるなら、少しでも参考になる情報を、お伝えできる存在になりたいと思う。

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