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17/10/4

最愛のビッチな妻が死んだ 第23章

Image by Olia Gozha

交際34日目 3月22日

  朝方5時、あげはからLINE。

「屋上で死んでいる」

 まだ僕もあげはも本調子ではなかった。あげはが自分以外のことで僕が心を揺らしていることに対して、怒りと疑問、その怒ることに自責の念を抱いていることもわかっている。わかってはいるが現段階の僕はフォローに回れるほど復活してはいない。

 今はただ、信じてほしい願いを込めて2ショットの写真を返した。返事はなかった。

 朝がきて、いつも通り昼がきた。今度はニャンコの画像が送られてきた。

「雪だるまみたいでしょ」

「かわいい」

「モフっとしてポテっとしたもん好きだもんね」

「人を堕落させるものが詰まっとる」

「ホンマやな。もし会社に動物おったら、キョウスケもう帰ってこん気がするわ」

「あげがおれば…」

 あげはがいれば僕は幸せだよ、そう伝えたかった。本当に心の芯から思っているが、今は全て嘘になりそうで、嘘がバレたらあげはまでも消えてしまいそうで、臆病者の僕は伝えることができなかった。

交際36日目 3月24日

  今日、僕はあげはと近くの公園にお散歩に行った。このころから、僕たちはお揃いの服を着ることにした。

 服が好きな僕は気に入った服は色違いで買うことにしており、身長も体型も同じ2人でお揃いのシャツや帽子など、誰の目から見ても「カップル」だなとわかる、いわゆるペアルックというヤツだ。

 もちろん、僕はこれまでの人生でそんなことをしたことはなかった。むしろ、人前でベタベタすることも恥ずかしく、腕を組んだり、手を繋いだりすることすら恥ずかしかった。

  

「キョウスケ、お手々〜」

 データ中に始まり、クラブや買い物、運転中、2人でいる時全てに置いて、あげはは僕と手を繋ぎたがり、忘れていると頬を膨らませ、怒ったフリをして、手を絡ませてきた。どうしようもないくらい、しっくりきた。

 恋愛相手に熱中しない、SNSで幸せアピールしない、SEXでも相手がイクまでイカないとか、クールである方がカッコいいと、ムダな、ダサい性格だった。

 あげはのストレートな求愛に戸惑う僕に、あげはは不思議そうに、笑顔を向けた。

「キョウスケは恥ずかしい、メンドくさい、イヤなことを避けることで、楽しいことからもよけてしまってたんだね。あげがこれから、う〜んと、いっぱいいっぱい楽しませてあげるね」

 実際に僕はあげはと出逢うまでの人生、損してた、とあげはとの日々で気付かされた。

 金髪とモヒカン、派手なカッコのペアルック。僕たちは典型的なバカップル道を邁進することとなる。

 よく晴れた昼下がり、日光の下、手を繋いで2人で歩く。お目当の桜は五分咲きという感じ。まばらな家族連れと桜で彩られた公園のベンチで僕たちはキスをした。

「キョウスケ、好きだよ」

「僕の方が好きだよ」

「世界中のみんながキョウスケのこと嫌いって言っても、キョウスケはあげがいるから大丈夫だよ」

「ありがと。出逢ってくれて、ありがとう」

 公園デートの後、あげは行きつけの美容院で髪を切った。モヒカンの形を整え、伸びていた部分の髪を剃った。帰りの車中でお巡りに取り囲まれ、執拗な職質を受けた。お互いが「職質を受けたのはアナタのせい」と言い合った。

 無事、無実は晴れて解放された。

「疲れてなーい?」

「ゆったりできたから疲れは取れたよ」

「そっか、最近ずっと疲れが取れないって言ってたから。よかった」

「昼間のデートもそうだけど、久しぶりにのんびりできたよ。ありがと」

「梅も見たかったねーー。花見デートは来週にでも。おいしいお弁当作るよ!」

「それか友達の料理人に作ってもらう?」

「あげの手作りがいいな」

「ヤバい。エッチなことしたくてムラムラしてきた」

 僕たちは早々に家へ向かった。

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Image by Jukka Aalho

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