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17/9/19

最愛のビッチな妻が死んだ 第8章

Image by Olia Gozha

交際9日目 2月26日

今日、僕は初めて太一さんと会う。その親友のヤスシさんにも。仕事を終えた僕はあげはとともに指定された渋谷のバーへ向かった。

「後ほど」

「会うのが楽しみなのは初めてって。うれしいわ」

「今日は卒アルゲットのために電話かけまくり、久しぶりにマスゴミ仕事を……」

「マスゴミww」

「自分で認識してるけど、向いてないな~。こなせるけどw」

「あは、見てみたいな。こっそり」

「ぼち池袋だから、21時半前には到着できると思う」

「言っとくけど、ドラムの友達めっちゃ可愛いよ」

「たとえかわいくても、あげじゃないし」

どんな美女でもタイプでもあげはじゃない。似ている、似ていないの2つに分けたとしても、僕が求めているのはあげはだけだ。

「緊張とか、する?」

「うん、いつもしてるよ。今も」

「いや、太一と会うのが」

「今はドキドキよりワクワクもあるかも。正直、僕の知らないあげを知ってるのは羨ましいっつか……悔しいかな」

「これから共輔しか知らないあげが盛り沢山よ」

「あげしか知らない僕も、ね」

緊張よりも興味が優っていた。太一さんは人見知りな僕をフランクなノリで迎えてくれた。

「いらっしゃい。おっ、そのデニム、CUNEやん」

ウサギが入ったGパンにモヘアセーターという出で立ちもイジってくれるくらい、滑り出しから順調だった。

仕事のこと、あげはとのこと、自己紹介がてらの自分のエピソードを話し合った。当時、ヤスシさんはあげはのことがまだ好きだったらしく、まだ当たりがキツかった。

この日から、太一さんは僕たちのことをいつも見守ってくれた。僕とあげはの喧嘩も、僕やあげはが落ちていた時もずっと。世間的に偏った慰め方もあった。僕の中では「頼れる兄貴」であり、「心許せる最高のお父さん」で、家族であることは今も変わらない。

全員が思っていることはひとつ、「あげはを幸せにできるのか」。

そして、僕たちは日暮里のあげはの家から少しづつ、あげはの荷物を僕の家に運び出した。

あげはのSNSには、2人で映った影の写真とともに「あと空の写真とラテアートの写真があれば完璧な痛い子になれる」と綴っている。コメントの「2人の人差し指と親指で作ったハート」のリクエストにも応じた。

僕たちは幸せのジェスチャーではなく、幸せの中にいた。

交際11日目 2月28日

前日、僕の知り合いのライブを観に行った。そこであげはをちゃんと「彼女」と紹介しなかったことをあげはは怒っていた。

「寒い? 大丈夫?」

「機嫌は悪いよ!」

「ゴメン……次から気を付ける」

「さて問題です! あげはなんで機嫌が悪いでしょーか!」

「彼女と紹介しなかったから」

「おぉ、正解です!」

「個別には教えてあるんだけど……まだ照れくさくて。ゴメン」

「でも傷付くの! 乙女だから」

「次からはちゃんと紹介する」

前の嫁の時からセフレと顔を出していた僕は、「離婚したら元の彼女捨てて、すぐに新しい彼女作るなんてヒドいね」と責められていたのもあり、バツが悪くちゃんとあげはを紹介できなかったのだ。あげはに嫌われることが怖くて、僕はセフレの存在や浮気の経験を話出せないでいた。

「あと処女だから」

「処女?」

「気持ちが」

「知ってるよ」

「乙女だし処女だよ」

「次からは堂々と紹介する」

僕の中であげはは処女で聖女だった。どんなことより最優先事項だった。

このセフレ問題と後日起きる「あること」で、僕はそれまでの友人から完全に切れた。

僕はあげはがいればいいと思って、甘んじて切られたママにした。

「そしてナンパと絡まれからちゃんと助ける」

「わかった」

「ヤキモチを妬かれなくなったら終わりよ、人生。妬みと嫉みと羨望と嫉妬とヤキモチがなくなったら自殺もの」

「守るよ。次からは機嫌損なわせないように、あげを最優先させる」

「愛してるよ。物凄い形で。だから気持ち悪いくらい愛されたいの」

「僕も、だよ」

他人から見ると常軌を逸したくらい僕たちは深く、固く愛し合っていた。

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