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17/9/14

口下手童貞少年、ナンバーワンホストになる ⑱壊滅編

Image by Olia Gozha

時は少し戻るが、N美と付き合いだした12月、

Bに不穏な空気が流れだしていた。





その頃には、Rさんはとっくに飛んでいた。

Jさんはもう大学が来年で卒業という事で店を辞めて、

Mさんも単位がやばいといった理由で、Bを辞めた。


店に残っていたのは、

K野専務、R華社長、Nさん、Aさん、S君、KJさん、私の後に入ったホストが一人、新人が一人、私、他数名といった10人程度になっていた


N「やってられねぇよな」


A「そうだな。」


というやり取りが聞かれるようになった。


今までも冗談ぽく言っていたのは聞いていたのだが、今回の言い方は真剣で冗談とは思えない。

そして、12月の中旬ごろに衝撃の話が回ってきた。


N「おい、K。ちょっといいか?」


私「はい?どうしました?」


N「言うなよ・・・・・。

Aと俺、年明けからもう店に来ないから。」


私「!!・・・そっ、それは・・・まさか・・・・飛ばれるという事ですか?」


N「そういう事だ・・・・。この話したら、KJもトぶって言った。Kはどうするんだ?」


私「いや・・・・、僕はまだ考えてなかったですけど・・・・・。」


N「・・・・そっか。もし俺とAが一緒にいなくなったら、

Kが辞めにくくなるかなって思ってよ・・・・。」


私「・・・・・・。」


その時は運が悪く、私はお客さんのツケ

(別名 売り掛け。回収不能になったらホストが代わりに支払わなければいけない)があった。


ツケを残してとんだら間違いなく実家に来ると思ったので、私は飛べなかった。


私の実家は夜間であれば普通車で30分程度。

ワイルド・スピードのヴィン・ディーゼルであれば8分・・・。


実家が近すぎるので飛びづらかった・・・。


しかも今思えばウルトラCだが、


「バーで働いている」


と親には伝えており、

見事ホストをやっているのはバレていなかった!!

どれだけ私は親の感心が少ない子だったのであろう。


親に内緒でという事は、実家に来られてはバレてしまう。

さらに、

ツケ=借金 を親に内緒でホストをして作ったなどと説明され

バレたら父親のマッハパンチは確実だった・・・・。





そうして徐々に年末に近くなる。

その頃にはNさんたちに聞いた話をきっかけに、

私も一つ疑念を持つ様になった事があった。

それは何か・・・・?


売上である。


毎月確かに感じていたのだが、給与計算がかなり適当だった。

1万2万違うのはザラで、K野専務に聞くと、


K野専務「悪い、間違えた。」


と言われたり、わけのかわらない説明をされてはぐらかされたりという事もあった。


旅行積立金を取られているのに、

売り上げが少ないという理由で当たり前の様に12月に旅行はなかった。

もちろん積立金の返還などない。


冷静に考えればおかしい事だらけだ。


そしてついに年明け・・・。


宣言通り、Nさん・Aさん・KJさん・他も店に来なかった!!


それどころか・・・

事前に察知したのか・・・


なんとR華社長も来なくなっていた!!

やはり何かやましい事をしていたのか・・・


真相は闇の中だが、

恐らくK野専務とR華社長は管理サイドの権限を悪用し、

従業員の給料をピンハネや、売上の操作を行っていたように思う。


そして、Bには私、S君、新人君一人という状況になってしまった。

ビップルームがテーブルで3席と、

ボックス席が6席の店に3人!


席数よりもホストの人数が少ないというミラクルな状態!

とてもではないが仕事と言えるものではない。

その3人が残った理由の一つとしては、

「ホストとしてまだ納得いく所までやりきってない」

というのもあったであろう。

以前も書かせていただいたが、Bをやめて他のホストで働くという選択肢はない。

ホストを続けるにはBでやるしかない・・・。


そんな状況になってからは、


0時に店へ行く。

3時頃までS君と新人とフリートーク(おしゃべり)、

それから私かS君のお客さんを接客し、

そのお客さんが帰ったら営業終了という具合であった。


S君「ねぇ、K君、あまりにも暇すぎるからだれか呼んで~。」


私「いや~、自分で呼べるお客さんは僕ほとんどいないんですよ。」


S君「どうしようもないな~、K君は。じゃあちょっと電話してみるよ。」


というやりとりが交わされ、店に来てくれたS君のお客さんも


S君の客

「えっ?まじ?客、私しかいないじゃん!
ていうかホストもSとK君とT(新人)しかいないし!
ちょっとウケるんだけど。」


そんな有様であった。


そんな状況の中で、K野専務はほとんどBにはいなかった。

恐らく、グループの本社に呼び出されていたのだろう。

確かに責任は重い。


従業員の管理がK野専務の仕事なのだから。

しかも雇われとは言え、社長もいないといったら尚更であろう。

社長の捜索に出ていたのかも知れない。




年明けという事もあったのか、運よく新規のお客さんはほぼ来る事はなかった。

・・・うん、この状況で本当に来なくてよかった。


ほぼ新規が来店しなかった期間で、

一人記憶に残っている新規のお客さんがいる。


電話で問い合わせがあり、新規のお客さんが来店した。


来店した女性は40代中盤ぐらいか・・

大人しい感じの女性だった。

顔はお世辞にもかわいい・綺麗 とは言えない容姿だ。

黒いファーの膝丈ほどのコートを来ており

コートの雰囲気はわかりやすく言うと、


ロシアンマフィアのボスの愛人が来ているようなコートだ。


そこにかけているメガネは普通で、アンバランスさを感じさせた。

ホストに来るから、無理やり派手にしました

みたいな感じの雰囲気だ。




私とS君が


「こんな状態で大丈夫か?」


と心の中では思いながらも、


「どうにでもなれ!これでつまらないと思われても俺らのせいじゃない」


という特攻精神で接客していた。

それを世間ではヤケクソ(YA・KE・KU・SO)というのであろう。



今振り返ればその気持ちで挑んだおかげで、だいぶリラックスした状態で接客ができ、

それが功を奏したのかそれなりに楽しんでもらえたように思う。


結構、本音トークというか・・


「年明けたら従業員飛んじゃって大変なんだよ~。」


みたいな感じだ。

先ほど説明した席数に対して3人の従業員だ、

隠しようもない。


葉っぱ一枚で股間を隠すぐらいなら、
全裸の方が清々しいという理屈だ。


そして終始リラックスムードで接客をし、

最後に私とS君で店の下に送りに行った。


私「今日はありがとうね~」


S君「気をつけて帰ってな」


という感じの言葉をかけた後に驚いた・・・・


新規の女性「今日はありがとう!楽しかったよ!」


といいながら、

小型だが、

その頃発売されたばかりのベンツのオープンになるタイプのクーペに乗り込み、

颯爽と帰っていった。


私「お金持ち・・・だったんですね・・・。」


S君「・・・そうやね・・・。」


と言葉を交わし、

その日も店は開いているがもう仕事終了という感じだった。


私はそのマダムと電話番号を交換しており、

その後少し食事などに連れて行ってもらったりしたが、

ブライダル関係の会社を経営する女社長だという事は随分後に知った・・・。


ロウソクのみでテーブルが照らされるムーディなレストランへと連れて行ってもらい。


女性社長「Kって・・・指が綺麗だね・・・。」


とそっと手を添えられた・・・

なかなか切り返しがしづらいアプローチだ。

しかし

私(俺って、指綺麗なんだ~。触られるのはヤダけどその言葉はちょっと嬉しいな~。)


と素直に指が綺麗と言われた事には喜んだが

その後の人生で・・・

一度も指が綺麗だと言われた事はない・・・・
そして自分も一度も指が綺麗だと思ったことはない・・・・


今思えば嘘だったんですね・・・。



通常ではありえない状況の営業だが、それはそれで楽しかった。

非日常を演出する仕事の中でのさらに非日常・・

というか非常事態(エマージェンシー)。




監視する人間もほとんどおらず、家のソファーでS君と新人とくつろいでいるような状態。

ずっと続くわけがない瞬間だが、楽しかった。


この、全てに責任の無い自由が。


お金もないが、家族もいない。

車も無ければ、自分の家も無い。

社会的地位もないが、社会的責任もない。

無責任という言葉はネガティブにとられるが、

人は責任を背負う度に少しずつ自分の人生に制約を作っていくのか?

だが、

責任がないと人は成長しないし、

責任がないと張り合いもない・・。


大人と子供の間の二度とない、

無責任だからこそ自由でいられる時間だったのだろうか・・・。


だが、やはりそんな状況は長くは続かない・・・

そこから、また出直しとも言えるホスト人生が幕を上げる。


ネオンの光で自分を偽りながら・・・。








これで、

「口下手童貞少年、ナンバーワンホストになる」編

は終わろうと思います。


童貞を捨てたのと、一応ナンバーワンに一ヶ月間ですが、なったので(笑)


この続きは


「純情ホスト」


として題名を変えて、時間がある時にボチボチアップしていこうと思いますので、

よろしくお願いします。


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