私生活は我慢の連続であったが、
店で酔っぱらっている時だけは楽しかった。
さらに大きい出来事もあった。
私がBに面接に行くきっかけになった
風俗誌に、
ナンバー1として私の写真が半ページ程使い掲載されたのだ。
社長が、
「あれだけ一晩で売上あげたんだからいいだろ。」
という事で私を半ページ掲載するという事のOKを出したのだ。
普段は、目立ちたがりな社長が大きく風俗誌に掲載されていたのだが、
社長が通常の自分が掲載されているスペースを譲り、私を掲載してくれたのだ。

それから、私の写真を見てBにたまに新規が来るようになった。
いきなり今まで無名だったホストがナンバー1になったので、
物珍しさがあったのだろう。
私は、Yの存在もあったので色恋をする事はほとんどなかった。
それでも、恋人として求めてくるお客さんには中途半端に色恋をした。
中途半端とは、
付き合う様な事はせず、
絶対に体の関係になったりしないような距離感を保ちつつ、
好きだとたまに言うような・・・
今考えれば
パンチが届かない距離から
パンチを放ち続ける
アウトボクサーの様な感じだ。
パンチが当たっていない・・・。
倒れるわけがない・・・。
やはり中途半端な色恋では、
お客さんは長くは続かなかった。
だが一応、
その頃にはちゃんとした格好と
増強中の引出。
後は酒の力を借りて、
場を盛り上げる事は、
ある程度できる様になっていた。
自分に課していた、
「カラオケに逃げない。」
「飲ませ合うゲームに逃げない。」
「必ずちゃんとした会話をする。」
というルールを出来るだけ守って。
その結果、お客さんをコントロールは出来ないが、
色恋抜きで私を指名して店に来てくれるお客さんも、
わずかだが出来てきた。
だからと言って生活が出来る様になっていたかと言えば……
なっていなかった。
一日に一人自分のお客さんが来てくれたとしても、
来てくれているお客さんが3万程度の会計では月100万もいかない……。
正直、色恋全く無しで
一日一人確実にお客さんを呼ぶという事は、とても大変だった。
というか、その頃の感覚では絶対無理だった。
事実、呼べていなかった……
お金なんかまったくないのに、
ナンバー1という響きが余計に情けなく感じた。
私生活はさらに悪循環だった。
仕事でお客さんと連絡をとらなければいけない。
連絡をとるとYがそばにいる場合は内容を聞いている。
喋りづらいので離れると
「ここで話せばいいじゃん。」
と言ってくる。
携帯の発着信をチェックしてくる。
Yが腑に落ちない所はしつこく問いただしてくる。
だから私はお客さんの電話に出なくなる。
お客さんも次第に電話をくれなくなるし、
電話をしても出てくれなくなる。
いい加減私は、Yに詮索されるのに疲れていた・・・。
そんな時期に、
一人の謎の女性がBにやってきた。
二人で新規で来店し、1時間程度過ごした頃だったのか、
片方の女性が
「K君呼んでほしいんだけど?」
とJUさんに伝えたらしい。
JU「Kちゃん、あっちの席新規の子が呼んでるよ。
・・・かわいいよ。」
私「まじっすか!?すぐ行きますよ!」
という様なやりとりをして私は新規の席についた。
席に着くと、一人はギャルっぽい感じで、
普通にかわいい容姿の子。
細身でスタイルは非常に良かった。
もう片方の女の子は、対照的に色白で、
ブラックライトという暗い照明でも、
茶髪だという事がわかった。
その茶髪をゴージャスに巻いており、
当時ニュースにもなっていた
イッツ名古屋巻きだった。
目は大きくはないが、
鼻筋は通っており、
かわいいというより美人であった。
二人とも、歳はさほど変わらない様に見えた。
23〜25歳、といった所か……
私「初めまして~。Kです。」
?「ふーん……君がK君なんだ……。」
私「そうですけど、あれっ?
ひょっとして写真と違いました?(笑)
だいぶ写真迷って一番写りがいいやつ使用しちゃったんですよね・・(笑)」
?「そんな事ないよ。」
私「お世辞でもありがたいですね。
僕もお酒いただいてもよろしいですか?」
そんな感じの出だしだったと思う。
確かにJUさんからの前情報の通り可愛い子だった。
というより綺麗な子だった。
そして接客の中で細かい所を見ていくと少し驚いた。
名前はN美といった。
高級ブランドの指輪で、ダイヤが入ったものを重ね着けしており、
一つ20万以上するものだとすぐわかった。
重ねてらっしゃるので、合わせて40万以上は間違いない・・・
またもや高級ブランドのバングルもダイヤが入っており、
カバンもよく見るとエルメスの超高級品。
時計もロレックスだった。
私(うわ~、ただもんじゃないな・・・。まぁいっか。)
私は既にその前の席で酔っていた!
酔っていた為か、
「仕事が楽しければいい」
というハングリー精神ゼロの状態になっていた。
酔った勢いのままに話を続け、最後の方には、本で読んだ事があった
「サメに襲われた時の対処の仕方」
というくだらない話で盛り上がっていた。
わざわざ呼んでくれたという事もあり、2時間程度と少し長めに席に着いた後
私「ごちそう様でした。」
とお礼を言い
相手のグラスの下の方に自分のグラスを軽く当て、
その席を離れた。
その後、珍しく自分のお客さんが来ていたので、
自分の席に戻り、自分のお客さんの相手をしていた。
お分かりだろうか?
私は・・・
N美が新規でわざわざ自分を呼んでくれたのに・・・・
N美の電話番号を聞こうともしていなかった!!
今振り返ってもダメホストである。
それからまた1時間程度経過したぐらいだった。
JUさんが私をキャッシャーに呼んだ。
JU「Kちゃん、さっきの新規の子、
もう帰るっていってるんだけどさ。
最後に店の下まで送る従業員で誰か呼んで欲しい子いますか?
って聞いたらKちゃんだって言うから、
ちょっと最後だけ席戻ってきてよ。」
私「ほんとですか!?」
私の中で、
何百もの小さい自分がエレクトリカルパレードを踊っていた。
この時ばかりは、がっつかなかったのが功を奏したのかもしれない。
自分の席を離れ、N美の所へ戻った。
帰る前のやりとりをしている時に、
N美「ねぇ、携帯番号教えてよ?」
私「おっ、おぉ、もちろん。」
とN美から切り出してくれた。
そうして、ボルケーノ状態になりながら
店の下まで送って行った。
N美は外で見るとやはり、かなり明るい茶髪で、
店内では座っていたのでわからなかったが、
細かい水玉のワンピースから伸びた足は絶妙な細さ(太過ぎず、細すぎず)
背も女の子の中では高め。
胸は大きくないがトータルではかなりスタイルが良かった。
タクシーが見えなくなるまで見送り、
(いや~、キレイな子だったな・・・。
スタイルもいいし・・・。
っていうか何者?
OLじゃあんな恰好できねぇぞ??)
と謎を残しながらも、
店へ戻った後はまたヘベレケになっていた。