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17/8/14

元獣医アーティストが一年かけて地球を一周してアート活動してくるまでの話4

Image by Olia Gozha

第四章 果たしてこのアート旅にはいくらのコストがかかっているのか?

2017年1月11日から1年4か月に渡る地球一周アートの旅に出ています。

8月11日現在、ルーマニアで人気の世界遺産の町、シギショアラに滞在中。

次のフィンランド滞在のための滞留許可も出たので、予定通り9月1日の朝には再びフィンランドに渡ります。


1月     ロサンゼルス

2月     ニューヨーク

3~5月   フィンランド(トゥルク)

4~6月   ルーマニア → イマココ

9、10月   フィンランド(マンッタ)

11~翌年5月 上海

2018年5月~6月 デンマーク

6月~7月 フランス

8~10月 韓国


レジデンスで来てるわけでもないのでアトリエがあるわけでなく、素敵な町ではあるけど大都市なわけでもなく。ふだん何してるかというと、基本的には生活して制作している感じです。

娯楽のレベルが下がっていて、山に水汲みに行くのが一種の娯楽みたいになってきてます笑。

暑いのが苦手なので、そういうことがないと外に出ることがなくなって、着々と社会から隔絶していく感じ。

制作はワンルームの室内にあるテーブルにスーパーでもらってきたビニール袋で養生をしたり、

折り紙についてた厚紙をつなげて簡易養生紙をつくったりして室内制作しています。

こうして旅をしてることを地元で会った人に話すと、

聞かれることが多いのは「お金、どうしてるの?」です。


この疑問、世界共通なんですかね。

そんなわけで、今回は気になる「お金」の話です。


アーティスト活動を「継続する」上でコスト管理は大事なこと。

私がやっているアートプロジェクト(SORA)も、

スポンサー様から紙や画材の提供はいただいてますが、
お金が出ているわけではないので、交通費などの実費はもともと自分で出しています。
ワークショップ自体は自分ひとりでやればお金がかかるわけではないですが、
お金を稼ぐこともできた「時間」を使っているので、
場所が見つかったからといって次々と「やります!」と言ってると簡単にパンクします笑。


なので、今、何を優先していくべきなのか、を考えて行動を選択していきます。


さて、さっそくこれまでの旅の経費です。


1ドルは115円、1ユーロは120円、1ルーマニアレイは27.3円、1元は16.95円、1クローネは17.2円で換算し、円に直しています。

大きくお金がかかってる渡航費だけ特記しました。

(※友人宅に泊まった滞在費は非公開)


■ロサンゼルス 109,570円/5週間(1日当たり3,031円)

 うち、渡航費は羽田~LAX 75,033円(渡航費を引くと1日当たり987円)

■ニューヨーク 154,456円/4週間(1日当たり5,516円)

 うち、渡航費はLAX~JFK 14,743円(渡航費を引くと1日当たり4,990円)

■フィンランド(トゥルク) 421,901円/3か月(1日当たり4,688円):レジデンス参加

 うち、渡航費はJFK~ヘルシンキ 24,360円、ヘルシンキ~成田 35,347円

 ほかに滞留許可申請費50,400円、海外保険料(5か月分)67,312円→これを抜くと1日当たり3,380円。(渡航費と滞留許可、海外保険料を引くと1日当たり2,911円)

※次のフィンランドまで半年あけば滞留許可申請は不要だったので、次はこういうところにも気をつけたいところ。

■ルーマニア 193,740円/2か月半(1日当たり2,768円)

 うち、渡航費はヘルシンキ~ブカレスト(往復) 32,628円(渡航費を引くと1日当たり2,302円)

■フィンランド(マンッタ) 161,362円/2か月(1日当たり2,646円):レジデンス参加

 渡航費はトゥルクの時に払っているのでなし。

■中国(上海) 404,263円/6か月(1日当たり2,234円):レジデンス参加

 渡航費、朝食はレジデンス先の持ち。のちのデンマーク、フランスへの航空券代をここで支払っているが、のちにレジデンス先から返金予定なので計上しない。

■デンマーク(コペンハーゲン) 137,053円/3週間(1日当たり6,527円):レジデンス参加

 うちスケーエンへの宿泊費・交通費が30,263円、作品の写真プリント代(14.2メートル分)が51,471円(こちらをのぞくと1日当たり2,635円)

※レジデンス参加、と書かれているところが現地のアーティスト・イン・レジデンスのプログラムに参加しているところです。レジデンスの滞在費は無料。


ちなみに、かかった費用のすべてを計上しているので、

九州豪雨義援金や友人のクラウドファンディングへの支援なども含まれています。

1日当たりの金額も出してますが、この中に滞在費も含まれているので、

実際の生活費「だけ」のコストはもっと低いです。


超ざっくりですが、8か月で866,306円(1日当たり3,867円)。うち渡航費が182,111円。

細かくいうと、これ以外に月々の電話代、ウェブサイトのサーバー代、Officeの年会費なんかが

かかってるので、+10万くらいなんだかんだかかってることになります。


みんななんとなく気づいているように、生きる上でかかるお金のほとんどは「家賃」
(私の場合は渡航費ww)

だから、家賃さえ0円であれば、かなりいろんなハードルが下がってチャレンジしやすくなるはずなんですよね。

家賃が毎月かかってるっていうのは、固定の借金を常に抱えているような気持ち。


ちなみに、アーティスト・イン・レジデンスについては、

滞在費等がかかるところから、助成金・制作補助費が出るところなどさまざま。

ただし、条件がいいところは当然、競争率が高いのでなかなか受かるのが難しいです。


滞在費が無料、というところもかなりあるので、

自分のキャリアがまだまだな人は、そういうところから攻めて、

ポートフォリオを固めていくのが正攻法かなと思っています。

(もちろん、作品自体の説得力がある人は、キャリアに関係なく受かると思います)


アートコンペと違い、レジデンスは条件がいいところでも応募費用がかからないところが多いので、

気になる人はとにかく出してしまうのがいいです^^


■「売る」作品をつくるべきなのか?

私の主戦場はインスタレーションだと思っていますが、

インスタレーション作品はまず売れません笑。

小さめのオブジェとかならともかく、室内を埋めちゃうほどの作品を買おうって思う人はなかなかいないはず。


では、アーティストとして生きていくために、「売れる」作品をつくるべきなのか、

という点について考えていきましょう。


作品が売れないとアーティスト活動が継続できないんじゃん!

だから、売れる作品つくるべきでしょ!っていう意見がもっともなところで、

ここで問題は「アーティストなのに、世間の売れる基準に寄っちゃっていいの?」

っていう在り方の問題です。


ここの折り合いがつかずに、売れるに寄せない作家さんはいっぱいいるんじゃないかなと予測しています。

私は寄せたくないなら寄せなくてよい、と思っています。

よく売れるのがイコール良いアートなわけでもなく、

自分のやりたいことに合わせて決めたらいい、と考えています。


私は現代アートが好きだし、自分もそのステージに立てたら、

自分の好きなアーティストさんたちと直接話すことができるかもしれない、

というあわよくばな気持ちがあるので、少しでもそれに近づけるような行動を取っています。

私は純粋に、彼らが何を考え、何をしながら生きているのかを知りたい笑。


一番ぶれてはいけないのは、作品のコンセプト、自分の作品のコア。

そこがぶれ始めると、わざわざアートをやっている必要性がぜんぜんなくなると思うのです。


私は作品のコンセプトと売ることについての折り合いがついているので、

買いやすい作品、買い手のことも考えた作品も販売しています。

平たくいうと、小さくて安い、です^^


コンセプトさえぶれなければ、別に売れる作品をつくってもいい。

というか、自分の数ある作品群の中で、売れやすいものだけ公開していけばいい、といった感じ。


作品が売れる、というのは、その作品を通じて自分を知ってくれる人が

増える「かも」しれないということ。

そうして作品がつくってくれた縁が、自分の活動を広げてくれるのは必ずあるので、

私はそういう選択をしています。


また、「鑑賞者を創作に巻き込む」というのが私の作品の特徴なので、

売り方についても、鑑賞者が私の創作に「干渉」できる余地を残しています。

というわけで、売っている状態自体を私の作品の一部に組み込んでいるのですね^^


■本当にいざとなったら助けてくれる世界を信頼する

ちょうど最近、フレンドファンディングアプリpolcaがリリースされました。

私もさっそく2件ほど企画を立ち上げたところ、

2人の方から300円ずつの支援をいただきました。

私もまったく見知らぬ人のプロジェクトに同じだけ支援。


金額的にはプラマイゼロなんですが、

そのやりとりの間に生まれた交流や、「もう少し何か楽しんでもらえることがしたいな」
という思いが生まれたのはうれしい経験でした。

だから、たぶん社会に還元された「楽しさ」はお金のやりとりが発生する前よりちょっと増えたと思うのです。


BASEショップでの作品購入や「おごり」もそうですが、

この旅には応援してくれる人がいて、そのおかげで旅をつづけていられています。

しかし、それでも収支はちょうどトントンくらい。


もしも旅先で大けがしたらどうするの?

急に家族に何かあったらどうするの?

万が一の時のために、準備をしておかなくていいのか。


でも今の私は思うのです。


もしも本当に万が一の状態になって、もう本当にヤバい、超ヤバい!ってなった時は、

世界に向けて正直に超ヤバいことを言ったら、いろんな人が本当にちょっぴりずつ手を貸してくれて、なんとかなるんじゃないかと。

そして、自分自身も、本当にちょっぴりだけ手を貸せる人であれたらいいな、と思います。

たとえ相手がまったく出会ったことも出会うこともない人だとしても。


ちなみに今の私は海外転出届を出してから出国しているので、

日本の年金も健康保険も住民税も払ってません。

上海前に一時帰国しますが、中国ビザ取得に支障がない限り、

転入届は出さないつもりでいるので、日本に帰っても健康保険がありません笑。

もしかしたら、このまま一生日本に住民票持たないんじゃ、とも思ってます。

まぁ、分からないですが、それは今後の楽しみに笑。

※確定申告時期に日本にいないことになるというのもあって海外転出届を出しました。
 転出届が出ていると、日本の納税義務がなくなるので、確定申告もしなくてよくなります。
 その代わり、源泉徴収が20%に。


■人生のやりたいことをすべて総取りできるのか

なんだか楽しく暮らしているように思えちゃうかもしれませんが、

私の場合、運よく家族が元気で、私自身が独り身であるからこそやってられることなんですよね。

自分が結婚して、子どもを生みたいと思った時、

この生活とはトレードオフになってしまうんじゃないかという心配ももちろんあります。


レジデンスには配偶者や子供を連れてこられるというプログラムもあるのですが、

ある程度成長した子どもならともかく、乳飲み子を10時間以上かかるフライトに乗せて

連れまわすというのは、なかなか現実的ではないように思えます。


一番やりたいことを突き詰めた時、二番目以降は叶わなくても仕方ないものなのでしょうか。

私は長編小説を書いて出版だってしたいし、作品が映画やアニメになるというのも体験してみたいです。キャンピングカーでアメリカ横断だってしてみたい。

もちろん作品がアートバーゼルに出せるくらいになったらいいなとも思ってます。


やりたいことを全部やりきれるほど人生が残ってなかったとしても、

それでも総取りするくらいの気持ちで生きていたいなとは思っています^^


■アーティストとしてのトレーニングは積めているのか

この旅に意義があるかどうか、という点ですが、ここまでの8か月間で、思い切って旅立ってよかった、という思いが強いです。

家賃0円の家がクローズされることになり、ところてんが押し出されるように

やむなく出ることになった旅ですが、

フィンランド編で散らかってたコンセプトがまとまることになり、

現在のルーマニアでは「世界の中心で嫌いを叫ぶ」という貴重な体験もできました。


まだ展示機会が得られるかは分かりませんが、次のフィンランドも再度、

レジデンスアーティストとしての参加になるので、

とにかく作品をつくりまくっていきたいと思います。


まだまだ、自分の作品販売だけで生きられているとはとても言えない身分で、

もちろん焦りもするんですが、

それでも旅を始めてから今日までで53点の作品が誰かの手元に渡りました。

出国直前の1ヵ月を入れると63点です。


人生でこんなに作品を買ってもらえたのは初めてかもしれない笑。

作品の裏に映る作者の成長が、すでに手を離れた作品たちにも宿るように、

ひきつづき精進していきます^^


■盗まれた本のような作品はつくれるのか?

最後に。

アウシュビッツに連れていかれる前に人々が図書館から本を盗んだ、

という話を聞いたことがあります。

生き残る、ということを考えるなら、パンを盗んだほうがよかったかもしれない。

でも、過酷な状況に置かれる人たちが支えにしようとしたのが「言葉」だったということが、

私にはすごく美しく感じられるのです。


私の作品は基本的には言語を使わないことを課しているのですが、

その時に人々に「盗まれた言葉」のように、これが自分に必要なのだと思ってもらえるような作品が

つくれたらいいなと思っています。


言葉を尽くしても足りないほどの世界が、どんなに小さい1ピースにもこもったような作品。

そういうものをこの世界に残したい。


そして、いざっていう状態の人に盗まれたい笑。


そういえば、昔イベント展示した作品、7枚中6枚盗まれてたなっていうのを思い出しましたw

(残された1枚は床にでろっと落ちてたので、なんか盗まれたほうも大切にはされない気がして、その時は残念に思いました。

 どうやら盗まれればいいってわけでもないらしいw)


それでは次回はフィンランドよりお届けいたします^^


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