こんにちは、探究学舎代表の宝槻泰伸です。
突然ですが、子ども(小学校1年〜6年)に「元素の世界(化学)」を面白おかしく教えるとしたら、あなたはどんな授業をしますか??
このコラムは、「人類の叡智と自然の神秘」をいかにして伝えるか、「驚きと感動」をいかにして感じてもらうか、「熱狂と興奮の渦」にいかにして巻き込むか、というミッションに燃える、とある塾長の実録奮闘記(悪戦苦闘記)である。

驚きと感動の元素編 第2章
古代ギリシャ人が打ち立てた四大元素説。この教義を討ち倒さない限り、元素の真実はベールに覆われたままとなってしまう。そんなとき!!大いなる一撃を加えて化学の扉を開いたのが、フランスの化学者アントワーヌ・ラボアジェである。

ラボアジェは四大元素説が誤りである動かぬ証拠を突きつけた。それは一体どんなものだったのか?

そんなストーリーから始まる第2章。しかし実際の授業は前回の振り返りから始まった。

「この元素の名前は!!??」
「ハイ!!金!!」

「じゃあこの元素は!!??」
「ハイ!!炭素!!」
前回紹介した10個の元素(古代から知られていた物質)について、子ども達は既に画像と名前を脳内で一致させ始めている。10この元素についてはビシバシと手が上がる教室の様子。

さて前回、「この10個の元素を暗記させることが第2章以降の布石となる」と説明していたことを覚えているだろうか? ここで一度そのタネを明かしておきたい。
もともとこの授業の目的は「周期表を美しい!!」と思えるようになることにある。そしてそのために、「周期表を自分で作ってみる」という体験を提供する、これがコアアイデアである。

しかしこの体験(アクティビティ)は難易度が非常に高い。なぜなら元素についての複数の知識(具体)を組み合わせなければ、「周期表」という一つの法則(抽象)にたどり着くことができないからだ。例えばアクティビティに参加するとき、「セシウムってあるけど、この元素ってなに??」となっているようでは論外なのだ。並べ替える60個の元素カードについて子どもは「親しみ」を持っていなければならない。「ひとつひとつがよくわかっている」からこそ「全体はどうなるか?」という問いを真剣に考えることができる。たくさんの具体を経験するからこそ、たったひとつの抽象に辿りつけるのだ。
しかし、「60個の元素の名前や特徴について親しみを持ってもらう(できれば全て暗記してもらう)」という手前のステップ自体、かなりハードルが高い。「覚えろ!!」というのも芸がない。うーん、どう攻略するべきか?
そこで必殺!!「元素かるた」

子ども達は元来、競争するのが大好き(内発的やる気)な生き物だ。さらに勝利に対してのご褒美も大好き(外発的やる気)な生き物だ。この2つの心理が刺激される体験に対して子どもは熱狂する。そこで「元素かるた」なる教材を用意することにした!!※「ご褒美」については後ほど解説する
元素かるたは写真のように元素の写真と名前がプリントアウトされている。このカードを取り合う。

読み手は、写真のような別のカードを読み上げる。

例えば、「そのまばゆいばかりの輝きを見て、昔の人がラテン語で『朝日の輝き』を意味する言葉『Aurum』から名付けた」などと読み上げられたら、すかさず金をバーーン!と取る。こういうゲームだ。

楽しそうに取り組む子ども達。しめしめ笑。

後ろにいるのは保護者チーム。保護者も巻き込むのが探究学舎流。これなら帰って親子でかるた大会を楽しめて復習にもなるから一石二鳥だNE!
さて、この元素かるたにはいくつかの仕掛けが施されている。そう!「元素記号の由来」である。みなさんは「なんで金の元素記号がAuなんだよ!?GoとかGにしろよ!!」と思ったことはないだろうか?元素名と元素記号が全く関連がないために、ますます化学嫌いが増えていく、その厄介な問題を我々は元素かるたという最強のゲーム教材で克服することになるのだった!
こうして、まずは先週覚えた10個の元素でかるた大会を楽しむ。ひっそりと元素記号も擦り込みながら。あとは次の段階で30枚のかるた大会にレベルアップ、そのまた次の段階で60枚のかるた大会にレベルアップ、とステップを踏むことで、子ども達は自然に60個の元素知識を手に入れるというわけだ。
ちなみにこの時のポイントは、手に入れた知識が次の展開で使える!というユーザー体験にある。よくできたロールプレイングゲームには必ず組み込まれたルールなのだが、こうすることで子どもは知識というアイテムを手に入れたい!となる。10個の元素を覚えればかるた大会で勝てる!次の大会に向けて30個だ!というように。これこそが自発的に詰め込む姿勢を促すテクニックなのである。
10枚のミニかるた大会で感触を作ったところで、いざ本編のストーリーへ。

18世紀の偉大な科学者、ラボアジェはボイルとは違い水について研究した。彼は実験を通じて水が2種類の異なる気体に分解できる(酸素と水素)だけでなく、それを結合して再度水を作れることを知っていた!さらにラボアジェは、その実験を通じて一度失われた水の量と、再度生まれた水の量はピッタリ同じになることも突き止める!つまり水は完全なる合成物(水は元素ではない決定的証拠)であり、そのプロセスには完全なる調和・質量保存の法則が成立することを発見するのだった!
ではなぜラボアジェは、そんな大発見をできたのか?

まずラボアジェは貴族で大金持ちだった!笑 なので精密な実験器具をじゃんじゃん購入できた。

さらにラボアジェには美人で優秀な妻がいた!笑 彼女が実験助手となり大発見を支えた。
まったく、現代も中世も男が成功を手にするために求めるものは変わっていないのか!?いずれにせよ、こうして四大元素は「金と女」というパワーによって崩れ去る。世界を構成する元素の座は、もはやたった4つの物質にのみ与えられるものではなくなった!ラボアジェはそれまでの錬金術師たちの研究結果をまとめて、元素の表を作成する。

光や熱など、元素ではないものも表には含まれていたが、赤字にした23個の元素は実在する元素である。ついに、広大なる元素の世界の扉が開かれた瞬間であった。

まるで堰が崩れたかのごとく、化学の世界に新発見が次々と生まれる。次に登場するのは画期的な道具だった。

そう!電池である!!元素と電池は一見関係ないように思えるかもしれないが、この電池こそが元素発見の究極のアイテムなのだった!

その後、電圧の単位「ボルト」の由来となるアレッサンドロ・ボルタは金属板を組み合わせた不思議な構造の電池を発明する。
そしてこの電池の力を徹底的に活用し、科学界にその名を轟かす人物が登場!

現代ではそれほど知られていない人物だが、当時は大スターだった。実際に彼のサイエンスショー・講演会のチケットは瞬く間に売り切れた。

ではなぜそれほど前に人気だったのか?実はデービーは強力な電池を作り上げ、人々の目の前で物質に電気を流して元素を取り出すという、魔法のようなショーを繰り広げたのだった!


これがデービーが作った改良電池。強力な電力で、さまざまな物質を分解して元素を取り出すことに成功した!

デービーは電気の力を利用することにより、たったひとりでいくつもの新元素を発見するのだった。こうして元素は気体や個体、液体などのいくつかのバリエーションがあること、色や形もさまざまであることがわかってくる。

元素のストーリーはここでひとくぎり。子ども達も手に汗握る展開?に釘付けだ。そして予定通り、約30個の元素を自然な流れで紹介することに成功する。
しかし、それだけではない。
この元素編のために仕込んでおいた、核弾頭を炸裂させ、一気に子ども達の心を鷲掴みにする。

ここで登場!元素標本セット!!
お値段54万円(税込)!!
いやぁー、これはヤバイっしょ。ビビるっしょ。値段もすごいけど、実際に元素を目で見て肌で感じられるんですよ?ウランとか放射性元素も入ってるんですよ?まじヤバイ。
まずは前回紹介した10個の元素の瓶を渡して観察させる。この時点ですでにテンションはマックス!
「金がある!!ねえこれちょうだい!」
「馬鹿野郎!(ボコ)それより銅と鉛の重さを比べてみなよ。」
「うわああ!鉛ってすごい重い!!」
こんな感じで子ども達は大興奮だ。つづいて、カルシウムやマグネシウムなど本日紹介した元素標本も次々と渡していく。
するとここで、予想していないことが起こる。
「わあああ!なにこの元素!すっごいキレイ!!」
「どれどれ!うわ!!本当だ!超キレイ!!」
どうやら、あるひとつの元素に子ども達の注目が集まっているようだ。
「どれどれ〜?」
近づいてみると、そこにあったのはなんとも不思議な形をした美しい元素だった。

確かにこれは美しい!!
そしてその時は気づかなかったが、やがてこのビスマスへの反応が、子ども達を熱狂から発狂の渦へと巻き込む切り札となるのだった。
ビスマスに対する反応 → https://youtu.be/dIgyWU0UZIU
さて、しばらく元素標本を観察して元素愛をたっぷり醸成したところで、本編へのツッコミ開始。
「さっきのデービーが電気の力で元素を見つけたって話、にわかには信じがたいよねぇ?」
「なんで電気で元素が見つかるのかよくわかんない!」
そう、物質に電気を流すと元素が取り出せるという話、なんとなく「そんなものか」と受け入らられる話ではあるが、ツッコミどころ満載のネタである。そこで、実験開始!!

電気の力で水を分解する、巷で話題の例のアレ。水の電気分解実験(そのまんま)だ!プラスとマイナスの電極を水に突っ込むだけという簡単な実験なのだが、金属棒を使うと酸素が金属と反応して酸化してしまうので、片方は炭素の電極を使う。さあ、果たして水は本当に分解されるのか!?

するとビックリ!!電極からそれぞれ勢いよく気泡が飛び出ているではないか!?なお金属電極から勢いよく発生しているのが水素、炭素電極からは酸素。実際にしばらく集めてみると、水素の量は酸素の2倍になる。まさにH2Oの証拠なのだ!(この時点では子どもには分からないので授業では捨てる)
さて、水の電気分解は水素と酸素を一定量集めるのに少し時間がかかる。そこで実験器具は放置しておいて、次の話題に。※授業の最後に、試験管に火をあてて気体が水素と酸素であることを確かめる
「ボルタのつくったあの電池、あれで本当に電気が起こるのか疑問に思わなかった??」
「あの電池、見た目がおかしかった!」
というわけで、今度は電池づくりの実験へ。子ども達に配ったのは、一円玉と十円玉。これを積み重ねてボルタ電池を作ってみよう!という司令に、子ども達の反応は「はあぁぁ〜!?嘘でしょ〜」
実際にボルタが作った電池は、亜鉛板と銅板なので、ほぼ再現することができる。なお、どうやって電気が起こるのか詳しい仕組みを知りたい方はWikipediaへどうぞ。
ボルタ電池https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%83%AB%E3%82%BF%E9%9B%BB%E6%B1%A0

こんなもので電池が作れるわけないじゃん!と初めはみんな半信半疑。しかし、注意深く一円玉と十円玉を積み重ね、LEDライトを接続してみる。

表情は真剣そのもの。実験は「意外性」が重要なのだ。

そしてついに!!本当に明かりが灯って見学している保護者もビックリ!

「俺にもやらせろぉ〜」と教室は大興奮だ。しかし心は大興奮でも、頭は冷静だったりする。
「元素と電気にはどうやら関係がありそうだ。でもなぜ?」という疑問がこのあたりで湧いてくる。しめしめの展開。そしてこの疑問や好奇心こそが重要で、元素編の後半で扱う原子構造への伏線となる。
優れた漫画の特徴として、「伏線と回収」という構造があげられる。読者が「この人物は何者だろう?」「このセリフにどういう意味があるんだろう?」と心理的な引っかかりや好奇心をもつ描写、これを伏線という。そしてその後の展開で、「そうか!そういうことだったんだ!」とタネあかしをする描写、これが回収。この「伏線→回収→伏線→回収」というリズミカルなループが優れた漫画の基本形だ。そしてこの仕組みは授業にも十分に応用できる。応用することで、「次を知りたい」という欲求が自然と湧いてきて、無理のない流れるような授業を設計できるのだ。
しかし多くの場合、この仕組みが利用されていない。「では次のページへ」「では今日は◯◯について」と授業の展開が唐突なのだ。つまり、生徒の「知りたい!」という動機、「次はどうなる!?」という注意を十分に掻き立てることのないまま、教える人本位・カリキュラム本位の授業進行となってしまうのだ。こうなると生徒に主体性は生まれない。
この第2章でも「伏線→回収」の仕組みが何度か登場している。例えば、ボルタやデービーのストーリーが伏線となっている。「金属板で電池発明!」「電気の力で元素発見!」というショートストーリーの定時が伏線となり、「本当かよ?」「なんで?」という心の引っかかりを生んでいる。
そして実験を通して心の引っかかりを回収する。「本当だ!」「確かに!」という納得をつくることで、しっかりと疑問という伏線が回収されるのだ。そしてさらに、授業の後半の回収(原子の構造)へ向けて、次なる伏線(電気と元素の関係の謎)が埋め込まれている。
こうやって人の心を動かしながら進む授業、それこそが(心の)アクティブ・ラーニングと言えるかもしれない。
第3章へとつづく。

