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17/4/28

冬の夜空に、願いをかけて

Image by Olia Gozha

冬の夜空に、願いをかけて

 第一章

  「39通の不合格・合格通知」

  私を大切に育ててくれた父の期待に応えたかった。

  私は、名古屋大学の教育学部を卒業してから勤務した会社の社長とケンカして辞表を叩きつけてから宮仕えができないと途方に暮れた。それで、留学試験を受けまくって、アメリカのユタ州にあるローガン中学校で、中学生の指導をすることになった。

  帰国して、英検1級や通訳ガイドの国家試験に合格した頃は、通訳かガイドでもやろうかと考えていた。こう書くと、すごく簡単に合格したように聞こえるけれど、最終的に39通の「不合格通知」「合格通知」が残ったんです。才能の無さを痛感。

  しかし、中京地区には満足な仕事がなかった。26歳にして、仕事なし、貯金なし、彼女なしのプータロー。だから、小さなアパートを借りて、塾でもやるしかなくなった。

  それでも食えないので、名古屋の河合塾学園をはじめ、7つの予備校、塾、専門学校で指導することになった。その時、生徒アンケートをとったら40人の講師の中で2番の人気講師ということになった。

 通訳の才能もなさそうだし、塾講師なら食っていけそうにないので覚悟を決めた。

 中途半端なことは嫌いなので、やるなら一流の塾講師をめざしたいと決意は固まった。まず、Z会を8年間受けて教材や添削方法を研究し、、河合塾や駿台の京大模試を10回、センター試験を10回、京都大学の二次試験を7回受けて受験指導のノウハウを研究してきた。

 これしかないと決めたので、持てるお金や時間を全て注ぎ込んだのだ。

 和田秀樹さんの「新・受験技法」などの対策本、エール出版の合格体験記なども読みあさり、生徒の方たちの悩みや参考書、問題集も研究した。もちろん、自分の学力の向上もはかった。

  結局、京大二次試験で英語81%、数学70%の正解率だった。その成績開示したものをホーム・ページやブログに公開し、全国に通信生を募ってみた。とにかく思いつくことは全てやった。広告を出すお金もないので、無料のSNSに頼ったわけです。

      英検1級の賞状はコレ http://takagi-kyoiku.life.coocan.jp/index.html

  第二章

 「塾を始めたら、こうなった」

 読んで下さっている方は

「三重県の小さな個人塾が、Z会のように生徒が募集できているのか?」

 と、疑問をお持ちではないだろうか。そう、私は有名タレントを使ったり、テレビやラジオでコマーシャルを流せるような立場ではない。そんな大金があるわけない。

 では、なぜ京都大学や国立大学の医学部に合格できる子たちが集まってくれたのか。

 それは、簡単で、上記のようなことを“やってみせた”からだ。

  名古屋の予備校で指導して気がついた。英検1級に合格した講師に会ったことがない。旧帝に合格した講師に会ったのは一人だけだった。しかし、その一方で、高校生で英検準1級に合格した生徒もいたし、帰国子女で中学3年生なのに1級に合格した生徒もいた。

  全国の公立中学・高校の英語教員のうち、英検準1級以上かそれに相当する資格を取得しているのは中学で28.8%、高校で55.4%だったことが25日、文部科学省の2014年度英語教育調査で分かった。

  政府の教育振興基本計画は17年度までに中学で50%、高校で75%との目標を掲げている。つまり、高校の教員でも、淳1級以上であるのは半数。1級は推定で、2割程度なのだろうか

  京都大学のボーダーラインは、二次試験では65%程度だ。だから、京大卒の講師であっても「7割程度」の正解率の場合が多い。医学部のボーダーは8割程度なので、賢い生徒の信頼を得られないんだよ。

  有名タレントのCMなどには引っかからない。

  自分の準備ができたから、今度は生徒の選抜だ。

  なぜなら、ある時、気がついたからだ。

「勉強ができる子とできない子は歴然とした違いがあるなぁ」

  こうして、ブログやYoutube に公開した時の反応にも、歴然とした差がある。賢い子たちは

「予備校の講師も学校の教師も、“自分は本当に合格できるの?”って感じ」

 と、疑問を持っている子が多い。やってみせないのに信用しろという方が無理。

 勉強のできない子は、ブログで成績開示をすると、

「何を威張ってんの?テレビでやってないショボイ塾は信用できん!」

 ということが多いのだけどね。

 つまり、ファンとアンチに分かれるんです。


 第三章

「“落ちこぼれ” VS “浮きこぼれ”」

 塾講師を長くやっていると、最初にお問い合わせの電話を受け取ったときに、賢い子(の保護者か)分かるようになってしまった。賢い子の保護者は、電話をかけてくる時点で、すでに塾のHPをチェックし、口コミなどの情報を収集し、入念に検討をしている。

 だから、電話はきわめて簡略で

「お願いします」 

 で終わる。

 ところが、ダメな子が入ってくるときは

「月謝はいくらですか。自習室はありますか。5科目指導ですか。」

 と、延々と質問が続く。そして、最後に必ず

「一度、お話しをお伺いしたい。時間をとって下さい」

 とくる。そして、かなりの確率で

「授業見学をさせてください」

 と言う。個人指導は、100%生徒の方の拒否にあうので、授業見学ができません。クラス指導なら、授業見学ができますが。

 そして、そういう人に限って、

「やっぱり、やめときます」

 という場合が多い。

 塾、予備校だけでなく、学校も賢い子、学力上位の子を求める理由が分かってもらえるだろうか。賢い子たちは、手をかけると応えてくれるけれど、ダメな子たちは手をかけてもムダに終わる。

 同じ時間とエネルギーをかけるのなら、応えてくれる子を相手にしなければ、倒産してしまう。

 授業を始めても、賢い子は

「それ、間違っているヨ」

 と言うと、

「あっ、そうだ!」

 と、すぐ気づく、

 ところが、ダメな子は

「これであっているはず。学校の先生は、これで正解と言った」

 と、反発してくる。

 つまり、勉強できる子は謙虚にアドバイスに耳を傾け、どんどん先に進んでいく。ダメな子は反発ばかりして、ぜんぜん前に進めない。だから、中学校を卒業する頃には、永久に追いつけないほど差がついている。

 それでも、自己認識ができず

「国立大の医学部に入りたい」

 などと口走る。100%ムリなことを言う。そして、受験願書を出す時期になって

「判定がEになったのは、おまえのせいだ!」

 と、すべてを塾講師のせいにする。悪評をばらまく。

 一方で、賢い子の保護者は、合格できて感謝してくれる。

  あなたなら、どちらの生徒を指導したいですか?

  こういう現実を無視して、

「みんな助け合いましょう」

 とか、

「みんな平等なのよ。差別しちゃ駄目だよ」

 なんて、何を言っているんだろう。

 偏差値の高い大学卒の子は就職試験を受けられるけれど、Fランクだと試験(面接)の機会さえ与えられずに、門前払いだもの。教師は、ウソを言ってはいけない。信頼を失うよ。

 ダメな子が多いころ、教室の机も壁も落書きだらけ。トイレは糞まみれ。教室の備品は盗まれる。月謝は踏み倒される。それが、現実でした。客層が悪くて、万引き被害で閉店に追い込まれる店のようにはなりたくない。



 第四章

「仮説は実証しなければ真実ではない」

 

 添削していると分かるのだけれど、多くの受験生が「受験英語」に毒されている。参考書に書いてあったり、留学もせずにネイティブの英語を知らない教師が、使われていない構文で英作文を書くように指導しまくるからだ。

 私は、英検1級などの資格も持っているので、ある程度「受験英語」「資格英語」「ネイティブ英語」を書き分けることができる。それで、京都大学で実験してみた。その結果は、以下のようになった。
 

   平成18年、20年(文学部)   正解率の平均  66%(受験英語)

   平成21年、22年(教育学部) 正解率の平均 76%(資格英語)

   平成24年、25年(総合人間) 正解率の平均 79%(ネイティブ英語) 


  アメリカのローガン中学校で授業をしていたら、生徒のノリがいまいち良くないので、同僚のアランに相談したら

「おまえの英語は、big words を使いすぎだから分かりにくいんだよ」

 と、言われた。それで、大学受験で覚えた構文は捨てて、中学生の頃に習った構文や単語で授業をしたら、生徒がのってきた。

「中学生相手だから」

 と誤解しないで下さいね。私のホスト・ファミリーのパパは、BYU(ブリンガム・ヤング大学)の物理学教授でした。そういう人と会話する時も、英語構文100といった受験参考書に載っている表現なんか使わなかった。

 だから、京都大学の教授が私のネイティブ英語を高く評価したのは当たり前のことなんです。

 京都大学の成績開示  http://takagi-kyoiku.life.coocan.jp/english/index.html

 私は父の期待に応えているのだろうか。

 第五章

「5円では高級車は買えない」

 私は大学入試の5日前に、勉強をしすぎのための全身痙攣で入院したことがある。医者がそう診断したのだから、間違いがない。

 A子ちゃんは、経済的に厳しいかったのでクラブを自主退部して全てを勉強にかけた。母親が授業料を捻出するため生命保険を解約したことが影響したのだと思う。

 スイスイと難関校に合格していく子もいるが、ほとんどの子は対価を支払って合格をつかみ取る。

 私は、英語講師から数学講師に転換するために、オリジナル、チェック&リピート、1対1、赤本を2周ずつやった。高学力の子を指導するためには、才能のない自分には当然の練習量だと思っている。

 アイドルがどうしたとか、巨人が勝ったとか、どうでもいいことを語る人には絶対に近寄らない。なぜかというと、一人になって神経を研ぎ澄ましていないと効率的に勉強など出来ないからだ。

 私の塾生の子たちも、似たようなことを言っている。何も考えていない人と、どうしても実現したい夢を持っている子は、永久に交わることはない道を進んでいるわけだから、当たり前だろう。

 第六章

「神の数式」

 残念ながら、私には特殊な才能がない。ニュートンやアインシュタインのように、この世の現象をシンプルな数式で表現できたら、どんなに素晴らしいことだろう。それでも、京大の数学で7割くらいとれるレベルになると、星の動きがカオスではないことくらい感じられるようになる。

 もし、砂漠を旅している時に、とつぜん目の前にピラミッドが現れたら、あなたはどう思うだろう。

「これは、ナイル川を石がゴロン、ゴロンと転がって、こんな風に積みあがった」

 と、考えるか

「これは、誰かが精密に設計した構造物だ」

 と、考えるか。

 私は、後者をとる。そこで、目を空に向けてみる。星空に見える恒星も惑星も衛星も、秩序ただしく動いている。こんな精密なものが偶然できたのだろうか。もし、誰かが精密に設計した構造物だったら・・・・・。

 この神秘的な世界の、ほんの少しだけでも理解できたら、とんでもない喜びを感じられる。少なくとも、科学者はそう感じているはずだ。この心理の解明の前に立つと、誰かに嫌われた。誰かに誹謗された。そんなこと、どうでもいい。

 間違い帳が100冊を越えようが、京大を7回受けようが、京大合格者が5年連続で出ようが、そんなことは些細で、ちっちゃいこと。留年したし、バツイチだし、倒産の危機に陥ったし、挫折だらけだけれど、そんなことに潰されなかったのは、私自身を客観的に見られたからだと思う。

 アメリカの大統領だって、ロシアの大統領だって、特に尊敬などしていない。お金があろうと、官僚であろうと、気にしない。権力や金力が全てではないと感じるからだ。

 もちろん、経営者なので信用してもらえるのなら「京大」の知名度、「英検」の知名度を利用するし、お金の力でコンピューターなどを揃える。使えるものは、なんでも使う。しかし、知名度や設備でアピールしている塾は続かない。結局、生き残るのは講師がすぐれていないとダメ。

 つまり、科学者マインド。「ガリレオ」の湯川先生が教えている、小さな個人塾と、栗林さんが教えている巨大ビルの中の塾と、どちらに通われますか。「リーガル・ハイ」の古美門さんの、小さな法律事務所に依頼しますか。それとも、豪華な三木法律事務所に依頼しますか。

  第七章

「別居のあとさき」

 あなたは、朝目が覚めると同時に

「今日はどこで金策したらいいんだ」

 と、思案したことがあるだろうか。

 あなたは、カード・ローンを作る場所から出る時に、他人の目を気にしたことがあるだろうか。お金がないから、外食を諦めてコンビニのおにぎりで我慢したことがあるだろうか。

 銀行の人に、「あなたは負け組だ」と、罵倒されたことはないだろうか。

 80歳を越えた母親に

「もうダメかもしれない」

 と、相談して心配させたことはないだろうか。

「いくら宇宙は広いとか、数式はすばらしいと言ったところで、食っていけなければ、

 どうにもならんだろう!」

 と、言われる方もみえるだろう。私も、ひととおりの人生の苦渋はなめたつもりだ。だから、ダメな人の相手の人をしているヒマがなかった。有能な人のアドバイスを得て、有能な子をあつめて塾の信用を高めなければ生き残れなかった。

 何もかもうまくいっている今も、悪夢の日々は忘れない。ネガティブな考え方をする人から遠ざかり、自分を守る。怠け者の生徒は、相手にしない。そうしないと、生き残れない。生存競争の激しさは分かっている。

 しかし、それでも宇宙は広いのだ。人生は短い。やりたいように生きるのがいい。

 こんな男になって、父は満足だろうか。

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