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17/3/28

フレッシャーズ最初の関門「飛び込み名刺交換」の思い出⑤

Image by Olia Gozha

泣いても笑っても最終日。


翌朝。

ドライヤーで乾かしたイビツな名刺たちをカバンに詰め込んで、会社へと向かった。


泣いても笑っても最終日。

営業は、過程じゃなくて、結果がすべて。


人事から言われた言葉が胸に刺さり、一層プレッシャーを感じる。


2日目は天気も良かったのが幸いだった。


気を引き締めて、前日とは逆方向、渋谷駅方面へと向かう。

明治通り沿いをひたすら進んでいく。


前日同様、会社の近所では名刺交換がはかどる。

しかし、会社から遠くなるにつれ、やはり交換してもらえる確立が下がっていく。


受付電話「事前のお約束はされていますでしょうか…?お約束のない方のお取次ぎはお断りさせていただいておりますので……ガチャ。」

渋谷方面は、恵比寿方面よりも規模の大きいビルが多く、警備員さんや受付電話に阻まれて入ることすらできないことも多くあった。


しかし、何としてでも52枚、獲得しなければならない。


通り沿いのビルは大きすぎたので、なるべくそこから1本細い道に入ったり、マンションの一室のような小さめなオフィスを中心に制圧するように作戦を変更した。


慣れもあってか、前日よりは格段にペースが上がっている。

しかし、前日の遅れを取り戻すためには、一分一秒も無駄にはできない。


お昼時点で何とか30枚の名刺を獲得し、この日は昼食を食べる時間も惜しんで、そのまま渋谷駅方面に向かって制圧を続けた。


さわやか営業マン「昔、自分もやりましたよ。大変だと思うけど、ガンバってね!」

受付のお姉さん「グループ会社にも声かけてあげるから、ちょっと待ってなさいー。」

励ましのお言葉や、嬉しいお言葉もいただき、不安で仕方なかったはすの研修にちょっぴり楽しさも感じたりもして。


残り2時間にして、気づけば手元には45枚の獲得名刺。


目標達成のためには、あと2時間で7枚。

枚数だけ見れば、正直余裕だと思った。


しかし、自分の手持ちの名刺も残り7枚…。


2日間、訪問した時に対応こそしてくださるけれども、名刺交換はNGで、こちらの名刺だけを渡すことが何度もあった。


でも、もう失敗はできない。

こちらも、渡す相手を選ばなければいけない。


いろいろ考えて、中規模なビルの最上階のオフィスをターゲットに訪問することにした。


あくまでもわたしの勝手なイメージだが、大規模なビルほどは警備が強化されておらず、最上階ということで気前のいい人が多そうだと思ったからである。


偶然かもしれないが、その読みは意外と当たっていた。


そして、残り時間20分。

獲得名刺51枚。手持ち名刺1枚。


最後にここだ!と決めて、訪問したのは、不動産経営のおじさんのところだった。




わたし「あのう…、すみません…。新入社員研修の一環で、名刺交換をさせて頂きたいのですが…(消え入りそうな声)」

もうこの頃にはヘトヘトでずいぶんひどい表情になっていたんだと思う。

しかも、名刺「交換」をしてくれる人かどうかを探りながらのやり取りだったから、ものすごく自信がなさそうに見えたのだと思う。


めんどくさそうに、しぶしぶと出てきたおじさんが、わたしを見かねて言った言葉。

不動産経営のおじさん「そんなに申し訳なさそうに来るな!新人なら、新人らしく。怖いもの知らずで、元気に堂々と来なさい!」

わたしは、たぶん、この言葉を一生忘れない。

お叱りの言葉ではあるんだけど、包み込まれるような、温かい気持ちになったのを覚えている。


おじさんと最後の1枚の名刺を交換したとき、安心感のあまり、玄関先でへたり込んで号泣してしまった。


おじさんには、笑っていろとまた怒られた。


見ず知らずのおじさんが、得体の知れないわたしのことを怒ってくれて、受け入れてくれて、一緒に喜んでくれて、そのことが本当に嬉しかった。




その後、軽い足取りで会社に戻り、最終的な成果発表の儀式の時間。


わたし「目標80枚に対し、80枚で達成です!」


…初日とは別の意味で、場の空気が凍った。


1日目実績、28名。

2日目実績、52枚。


2日目の追い上げはぶっちぎりだった。

2位以降に20枚以上の大差をつけて、何とかトータル実績トップで研修を終えることができ、わたしは晴れて、新たな社内レコードの保持者となった。


新入社員として、まだ何もできない状態で、初めて味わった達成感だった。

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