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17/3/3

いわくつきのイス

Image by Olia Gozha

たぶん、あのイスがいわくつきのイスではなかったか


私は先週、あるイスを捨てた。


3年前、夫が買ったデスク用のイスだ。クッションがぶあつくて、ソファーのようなかんじ。


このイスは定価4万円くらい。デスク用のイスとしては高価な品物。



初めて見たときから、私はこのイスが気に入らなかった。


夫が言うには、中古で買ったとか。1万6000円で、新品同然だと。


それを聞いて、さらに嫌いになった。


じゃあ、元の持ち主はどうして、このイスを手放したのか?こんな高いイスをいくらも使わず、


自分から売った?もしくは誰かに売られた?


どのみち、手放さないといけない事情があったってことじゃないの?

しかし、夫は譲らなかった。

自分は編集をするからどうしてもこれくらいのイスが必要だと。


あれから3年になる。

あのイスを買って、すぐに夫は事務所を畳んで、家で仕事すると言って、

家で過ごすようになった。

私はその間、3度の食卓を準備する羽目になった。

家で仕事するといっても、進展はなく、

結局、借金がかさんで、

事業も畳んでしまった。

家も売ってしまった。

車もなくなった。

なんとか、社会に出て行こうとするものの、夫は就職も困難だった。

何をやってもダメ、まさにそういう3年だった。

家を売ったのは、担保に借金を作っていたこともあったけど、

愛犬を突然の病気で見送ったショックで、私が家を売って、

どこか他のところへ行きたいと言ったためでもあった。


失ったものは数多く、ただ、この間、得たものがひとつあった。

ベージュ色の子猫だ。

名前はローリー。

おとなしく、愛嬌のある猫だ。

この猫が目をつけたのが、例のイスで、

ローリーはことあるごとに、イスを引っかいた。

ソファーのようなクッションの外皮は穴だらけになった。

4ヶ月に渡って、ローリーの攻撃は続いた。

もともと頑丈なイスなのに、ある日突然、がくっと

背もたれが片方に傾いた。

すると、私はもともと、このイスが好きではなかったので、

見るも無残な姿になったイスを

これ以上、見ることもがまんできなくなった。

そして、先週金曜日に衝動的に外に追い出して、

粗大ごみの申告をして、捨ててしまった。

ごみの業者が処理したのが、土曜日。


そして、今週、月曜日、夫は就職が決まった。

夫は久々に社会に復帰して、今週、毎日、職場に通った。

長い冬がようやく終わったのかと、ほっとした。


イスには申し訳なかったが、いままでありがとうと。

傷だらけにして申し訳ない。ごめんなさい。

もう、お別れしましょうって。

挨拶をした。


今でも、ふりかえると、あのイスにはやはり、何かいわくがあったのではないか。

そう思う今日この頃だ。



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